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転生忍者、地獄で鬼相手に無双する  作者: 天川藍
第三章 烏合の戦場
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⑮激突


「お前の殺しそこねた男は、ここにいるぞ!」


(ひぐらし)は、自分を呼んだ東雲(しののめ)の顔をそのがらんどうの瞳にとらえるや、嬉々として薄い口もとを三日月型に引きあげた。


高い金属音が立て続けに響いた。

互いに手癖(てくせ)を知り尽くした(なか)である。

息もつかせぬ攻防は示し合わせたように互いの(やいば)(はじ)き、かわし、また弾いた。


『東雲ェ!』

「なんだ!」

『死ね! (クソ)みてェにこっぴどく死にやがれ!』

「嫌じゃ!」


どこか()()きとした命の奪いあいに、赤鬼たちは青ざめて遠巻きに距離を置いた。


すでに看過(かんか)できないほどの死傷者が出ており、あわよくばやっかいな異人同士で相討(あいう)ちにでもなってくれたらと、(あわ)い期待を持ったのである。


そんなほの暗い思惑(おもわく)など蚊帳(かや)の外に、二人は苛烈(かれつ)にぶつかりあった。


先に押されはじめたのは東雲(しののめ)である。

生きるためには尻尾(しっぽ)を巻いてでも逃げ回ってきた男と、率先(そっせん)して人を殺すことだけに執着(しゅうちゃく)した男の差が、徐々にあらわれる。


あの夜もそうであった。

結果として先に死んだのは(ひぐらし)の方であったが、それぞれが負った傷の数は断然東雲(しののめ)の方が多かった。


腹を()かれ、右眼を(つぶ)され、肺を(つらぬ)かれ呼吸すらままならず、あとを追うように東雲(しののめ)息絶(いきた)えねばならなかった。


あの時の光景をなぞるように、()みわたった青い空へ、細く赤い線が幾筋(いくすじ)も散った。


対して黒い影法師(かげぼうし)のような(ひぐらし)の肉体は、(もり)を突き刺してもまるで手応(てごた)えがなく、たちどころに修復されてしまう。

(ぬか)(くぎ)をうつとはまさにこのこと。

長引けば長引くだけこちらが不利である。


しかし東雲(しののめ)は冷静だった。


(ひぐらし)が対人格闘という天賦(てんぷ)の才を持つならば、東雲(しののめ)十八番(おはこ)は、いかなる窮地(りゅうち)においても活路(かつろ)を見出そうとする観察眼にある。


一手を(まじ)えるたび、東雲(しののめ)は生前の(ひぐらし)と眼前の影法師(かげぼうし)との違いをつまびらかにしていった。


そして、東雲(しののめ)は眉をしかめた。


彼の知っている(ひぐらし)という男は、剣戟(けんげき)のさなかに(ごく)近距離の肉弾戦(にくだんせん)を繰り出し、変幻自在(へんげんじざい)緩急(かんきゅう)を織り交ぜ、次の一手を予測させない狡猾(こうかつ)な戦い方をする。


音無(おとな)しであるために表だって評価されたためしはないが、里でも指折(ゆびお)りの練達者(れんだつしゃ)であることは疑うべくもない。


しかしながら、この泥人形(どろにんぎょう)には致命的な欠陥(けっかん)があった。


決定的な一打を放つ瞬間、ただ一点、首ばかりを執拗(しつよう)に狙うのだ。

喉笛(のどぶえ)をかき斬られて転がっている死体の数が、その異様(いよう)さを如実(にょじつ)に物語っていた。


もともと殺しに対するこだわりが強い男ではあったが、これはそういう次元の話ではない。今の彼は、死んだ瞬間の遺恨(いこん)だけが、人の皮をかぶって動いているようであった。


(ひぐらし)は、もはや(ひぐらし)ではなかった。


その事実が、東雲(しののめ)の胸に暗い(もや)を生んだ。


「それがお前のなりたかった姿か」


なじるような問いが出かかり、すんでに噛み殺す。

()いたところで、ここにいる泥人形(どろにんぎょう)は生前の同僚ではないのだ。


ならば、もうかける言葉などない。


東雲(しののめ)は半歩足を引いて体を開いた。

(さそ)うようにがら空きとなった首もとへ、一切の迷いなく黒々とした(やいば)が襲いかかる。


しかしどんなに(するど)斬撃(ざんげき)も、軌道(きどう)がわかっていれば意味がない。


東雲(しののめ)は突き出された腕を掴み、(ふところ)へ飛び込んだ。

鋼鉄(こうてつ)(もり)が深々と(ひぐらし)の胸を(つらぬ)き、そのまま(からだ)を縦に両断する。

途端(とたん)にぐしゃりと肉体が(くず)れた。


そして東雲(しののめ)は見つけた。

物言(ものい)わぬヘドロと化した(かたまり)の中に、太陽の光を反射してきらりと(きらめ)くなにかがある。


――あの宝石のような種だ。


漆黒(しっこく)のヘドロは(あわ)く透きとおった種を中心にずるずると集まり、再び肉体をなそうとした。


東雲(しののめ)は、種がヘドロで()もれる前にそれを(ひろ)い上げた。


直後、ヘドロから一本の刃が(おど)り出た。

しかしこれも東雲(しののめ)は予期していた。

馬鹿のひとつ覚えに咽喉(のど)を狙う軌跡(きせき)から首をそらして、指先に力を(こめ)める。


パキリ、とかすかな音をたてて、種は粉々に(つぶ)れた。


その瞬間、床に広がっていた黒いヘドロがざわりと波打(なみう)ち、細かく震えだした。

沸騰(ふっとう)したような気泡(きほう)が無数に()いて、そこからひどい臭気(しゅうき)を放つ黒煙(こくえん)が抜けていく。


次第(しだい)にヘドロの色が薄くなり、表面が(おぼろ)に光りはじめた。


――(おごそ)かな光景であった。


(ほたる)のような光の(あわ)が、ぽつぽつと(ただよ)いながら空へと昇り、真白(ましろ)な月に()み込まれていく。

東雲(しののめ)は眼を細めてそれらを(まぶ)しげに見つめた。


最後に残されたヘドロに小さなのっぺらぼうの口が開き、(ひぐらし)のかすかな声が耳朶(じだ)をかすめた。


「――……願わくば、お前の行く道に、禍事(わざわい)多からんことを」


消えゆく寸前までひねくれた笑みを(のこ)して、魂の(しずく)は遊ぶように宙をたゆたいながら、ゆっくりと天へ吸い込まれていった。


ヤツらしい、どうしようもない遺言(ゆいごん)である。

東雲(しののめ)(あき)れた笑みをひらめかせながら、手の平でくるりと鋼鉄(こうてつ)(もり)をまわした。


「次の世ではせめて、笑って暮らせ」


穏やかに(つぶ)いた彼を目がけて、無数の矢が放たれた。


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