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転生忍者、地獄で鬼相手に無双する  作者: 天川藍
第三章 烏合の戦場
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⑪海中の攻防


東雲(しののめ)(せま)りくる化け物をひたと見据えながら、腰帯に指を(すべ)らせ、ささくれた船底の木目(もくめ)を強くこすった。

そしてすぐさま身を(ひるがえ)し、船を蹴りつけ水を()いた。


化け物は、憎悪と殺意をまき散らしながら、一心不乱に猛進してくるものと思われた。


しかし突然、ヤツの動きがぴたりと止まった。

(からだ)の表面に浮き出た無数ののっぺらぼうが、一斉に赤鬼の船を見た。

直後、鼓膜(こまく)を引き裂くような叫声(きょうせい)をあげ、化け物は巨大な船底へ襲いかかった。


ヘドロ状の肉体からいくつもの爪が飛び出し、まるで(きそ)うように船板を突き刺し、斬りつけ、めちゃくちゃに掻きむしる。


みるみるうちに、分厚い(かじ)が細切れの木片と化し、船底に穴が空いた。

東雲(しののめ)はその隙に、泳いで距離を(かせ)ぎながらも、ひくりと頬を引き攣らせた。


計画どおり――と言いたいところであったが、あの惨状(さんじょう)は期待を遥かに(いっ)している。


東雲(しののめ)は全力でしゃにむに水を掻いた。

あんなモノとまともに組み合っては、次こそ確実に死んでしまう。


護身用に半月刀(はんげつとう)を口にくわえてきたが、化け物の凶刃(きょうじん)とくらべれば、こんな物ただの棒きれに等しい。


艦隊が密集していたおかげで、ヤツが(おとり)に気を取られている間に次の目標へ辿(たど)りついた。

同じように、舵の根元へ(エサ)をねじこむ。

――例の宝石のような種である。

数粒残っていたそれがこの場の命綱(いのちづな)であった。


しかしそれもあと二粒、無駄にすることはできない。


化け物がこちらへむかってきた。

東雲(しののめ)は餌をまいた場所から直線上に逃げ、最後の一隻を目指した。


化け物が二つ目の餌に食いつくのを視認(しにん)しようと泳ぎながら振り返った彼は、その瞬間奇妙な現象を目撃した。

のっぺらぼうのひとつが、ずるりと化け物の(からだ)から抜け落ち、切り離されたトカゲの尻尾のように、無気力に身悶(みもだ)えながら海底へ沈んでいったのである。


気味の悪い光景であった。

本能的な寒気と、いくつもの漠然(ばくぜん)とした憶測が脳裏にひらめいたが、即座に東雲(しののめ)がとった行動は水を蹴る脚を強めることであった。


今は化け物の正体についてあれこれと謎解きをしている場合ではない。


三隻目は少し離れた地点に停留(ていりゅう)していたが、二つ目の種を取り込んだ化け物は再びのっぺらぼうをひとつ産み落とし、その分(からだ)の体積が小さくなった。

比例して泳ぐ速度も目に見えて遅くなり、無事に東雲(しののめ)は最後の餌を仕込み終えた。


息も限界である。

すぐに海面へと顔を出し、船の側面へ指をかけ、化け物から距離をとる。


直後に船が衝撃で揺れた。

三隻とも、船上では原因不明の水漏(みずも)れと操舵不能(そうだふのう)の事態にどよめきが広がっている。


東雲(しののめ)は呼吸を整えながら、混乱の度合いをはかった。

さすがは本国直属の観測部隊だけあって、ひとりの上官らしき男のもと、的確に状況把握に動いている。


これはもうひと働きすべきか、と戦略を()っていると、唐突に海中から黒い影が飛び出した。


「!」


咄嗟(とっさ)に身をひねり漆黒の(やいば)をかわす。

わずかな木目の隙間に身体をあずけた状態での回避である、致命傷(ちめいしょう)はまぬがれたが左腕から鮮血(せんけつ)が散った。


眼下(がんか)の海面近くに、小さなヘドロがへばりついている。

化け物本体ではなく、どうやら産み落とされた(はし)くれの方らしい。


小さなヘドロの(かたまり)から長い爪が伸び、側面の肋材(ろくざい)に深々と突き刺さっていた。

抜けないのかヘドロが不気味にうごめいている隙をみて、少しでも離れようと上へ手をかける。


だがしかし、物音を聞きつけた船員がひとり船べりから顔を出した。


「いたぞ! 侵入者(しんにゅうしゃ)だっ!」


「げっ」


複数の足音が(あわ)ただしく集まってくる。


瞬時に海中か甲板か、化け物か鬼かを天秤(てんびん)にかけ、東雲(しののめ)は船の側面をななめに駆けあがった。


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