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転生忍者、地獄で鬼相手に無双する  作者: 天川藍
第三章 烏合の戦場
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⑧反撃の狼煙


「俺は西大陸へ行くぞ」


赤鬼の艦隊(かんたい)と合流間近であるこの状況で、勝率は風前(ふうぜん)灯火(ともしび)である。


だが、たとえどれほど無謀(むぼう)だろうと、東雲(しののめ)の覚悟はとうに決まっていた。


ここで身を捨てに行かなければ、()かぶ()もまたないのだ。


「死にたくなければじっとしていろ。たとえしくじっても、俺は鬼ではないからな。仲間ではないと言い張れば、アンタらの処遇(しょぐう)が重くなることもあるまいよ」


あまりにもさらりと自分の死後について語るので、青鬼たちは数秒の間、真顔(まがお)のまま固まっていた。

台詞の内容を正しく解釈するのに手間取(てまど)ったのだ。


しかしながらひとりだけ、東雲(しののめ)ならば当然こう言うだろうと待ち(かま)えていた者がいた。


「トトも御供(おとも)しますぞ!」


気持ちいいほどに打てば響くような(こた)えの直後、またしても船が(かたむ)いた。


ぎょっと目をむく青鬼たちの隙間(すきま)を、縄団子(なわだんご)状態のネズミがころころ転がっていく。


どうにも()まらない旅の相棒を拾い上げ、東雲(しののめ)は微妙な面持(おもも)ちで鼻頭(はながしら)をつきあわせた。


「一応()いておくぞ。もし命の恩人だとか、そういう理由で付き合おうってんなら願いさげだが?」


トトはつぶらな瞳をしぱしぱと(またた)かせ、すぐに真剣な表情で首を振った。


「トトはシノ殿(どの)心中(しんじゅう)するつもりはございません。なぜならこの(いくさ)、かならず勝たねばならないからです」


今度は東雲(しののめ)が瞳を瞬く番であった。

一方、島民の何人かは、トトの言葉にハッと顔をあげた。


「このまま海図が奪われてしまえば、西大陸(ユーラヘイム)赤鬼(オグル)どもの手によって荒らされてしまいます。トトの夢の大地を、(けが)されるわけにはいかんのです」


恐怖で(くも)っていた青鬼たちの双眸(そうぼう)に、一筋(ひとすじ)の小さな火が(とも)った。


西大陸に(あこが)れ、夢に()たのはトトだけではない。

ここにいる全員があの場所を目指し、死を覚悟で海へ出たのだ。

その情熱は、一朝一夕(いっちょういっせき)で渡航を決めた東雲(しののめ)の比ではない。


トトは並々ならぬ決意と、深い悲哀(ひあい)のこもった声で続けた。


「昨夜、トトはシノ殿に嘘をつきました」


「嘘?」


「ミクトランを奪還(だっかん)し、一族の夢は果たされたと……。しかしあの(いくさ)には、まだ続きがあったのです」


赤鬼からかつての故郷・ミクトランを取り戻したという世紀(せいき)快挙(かいきょ)は、瞬く間に各地のチミー族を歓喜の(うず)へ巻き込んだ。


岩と砂だらけの過酷(かこく)な土地で、明日(あす)をも知れぬ暮らしをしていた彼らは、ぞくぞくとミクトランへ大挙(たいきょ)した。

――そして、都市はたちまちの内に(あふれ)れ返ってしまった。


これまで厳しい生活であるがゆえにお互いが助け合い、貧しいながらも温かな親愛(しんあい)()をなによりも大事にしてきたチミー族であったが、ひとつまたひとつと移り住んでくる一族が増えるごとに、その金剛(こんごう)(きずな)に明らかなヒビが(しょう)じていった。


特にミクトラン奪還戦(だっかんせん)に参加した一族と、そうでない一族との亀裂(きれつ)顕著(けんちょ)であった。


命懸(いのちが)けで赤鬼と交戦したゲリラ部隊は自らの特権を主張し、後から来た者たちは一族の戒律(かいりつ)である平等を求めた。


次第(しだい)に、都市のあちこちで(いさか)いが起きるのが日常になっていった。


「トトはとんだ(おろ)(もの)でございました。あの頃はただ無邪気(むじゃき)に、悪い赤鬼(オグル)さえ倒せば、我々は幸せになれるのだと信じていたのです」


しかしついに、同族が同族を殺害する事件が起きた。

奪還戦を生き残ったトトの最後の友人が、(いさか)いをとめようと(いか)れる暴徒(ぼうと)の前に立ちはだかり、その凶刃(きょうじん)によって刺されたのである。


彼の死が()(がね)となり、抗争(こうそう)激化(げきか)一途(いっと)をたどった。


トトは、友や親兄弟の命を(いしずえ)(きず)かれた勝利の末路(まつろ)に、おおいなる失望と、背負いきれない徒労感(とろうかん)心折(こころお)れ、一族としての(ほこ)りを()(つぶ)された。


そうして、直視(ちょくし)しがたい現実から目をそらし、逃げるように海へと飛び出したのである。


(おのれ)の道が見えなくなったら、旅に出ろ――。祖父のその言葉を信じ、トトは東大陸(ホルンガルド)をあとにしました。しかしここでもまた、種族(しゅぞく)は違えど同族が同族を(おとしい)れようとしている……。ならばもはや、目はそらしますまい。やるべきことは明白(めいはく)でございます。トトはシノ殿とともに、赤鬼(オグル)とそれに加担(かたん)する者たちへ、宣戦布告(せんせんふこく)をいたします」


「そうか……」


東雲(しののめ)は真顔で(うなず)いた。

なんだか、もの(すご)大義(たいぎ)(かか)げている様子だが、あくまで自分の動機(どうき)我欲(がよく)である。


しかし、とてもそうは言いづらい空気であった。


彼の話を聞いて、仲間の裏切りに面食(めんく)らい、同族と(あらそ)うことに抵抗を感じていた青鬼たちの迷いが()かれた。


相変(あいか)わらず、このネズミは無自覚に他者を鼓舞(こぶ)するのが上手い。


もはやこの場に、無気力にうなだれてヤツらの思惑(おもわく)どおりになることを()とする者はいなかった。


静かに立ちあがった青鬼たちを見て、東雲(しののめ)は頭を()いた。


「あー、一応()いておくぞ。全員、死闘(しとう)覚悟でいいんだな」


「わかってんなら()くんじゃねーや」


老獪(ろうかい)な航海士が、さっきまでのしなびた様子が嘘のように、好戦的な笑みをひらめかせた。


他の者も自由の大地を(まも)らんとする使命感や、裏切られた(いきどお)り、(ゆず)れない尊厳(そんげん)などを胸に、決意を固めた面持ちで頷きあった。


ならば、早急(さっきゅう)に策を組み立て直さねばなるまい。


「そういうおめぇはどうなんだ」


「……ん?」


「鬼でもねぇ、西大陸(ユーラヘイム)へ行ったこともねぇくせに、どうして命を張ってやがる」


これからお互いに背中をあずけ合うのである。

誤魔化(ごまか)しを許さない問いかけに、東雲(しののめ)は仕方なく、自身のしょうもない決意を白状(はくじょう)した。


「そうさな、ひとまずは酒だ。西の大陸の美味(うま)い酒をたらふく飲み歩くまでは死ねねぇな」


「は?」


「ああそれと、――アイツらの泣きっ(つら)(おが)んでみてぇ」


「…………」


赤鬼と五十歩百歩なえげつない言種(いいぐさ)に、青鬼たちの表情がさっと青ざめた。


――はなはだ遺憾(いかん)である。



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