表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生忍者、地獄で鬼相手に無双する  作者: 天川藍
第三章 烏合の戦場
44/59

⑥絶望の転換点


――()じり(もの)の男は(わら)っていた。


これから、この船に乗っている者だけでなく、島の住民たちも亡命者(ぼうめいしゃ)狩りの標的となる。


一度でも(かせ)を解いて脱走した奴隷は、その背中に咎人(とがびと)烙印(らくいん)をおされ、死よりも過酷な処遇が待ちうけているのだ。


しかしながら、彼の胸に同情や罪悪感といったものは微塵もなかった。

仮にも五年の歳月をともに過ごしたというのに、むしろ清々しいと言わんばかりに、男の心は満ち足りていた。


「たいした忠誠心ね」


ダネルの高話(たかばなし)を聞き終えたレイラは、冷ややかに言った。


「よく情が移らずにいられたもんだわ」


軽蔑をふくんだ感想に、彼もまたそれ以上の軽蔑を返した。


「混ざり者も同胞だ、ってか? 笑わせる。あんな言葉を本気で信じたのか」


「…………」


欺瞞(ぎまん)だ、もしくは偽善(ぎぜん)だ。これまでの(みじ)めな人生をやり直そうと、自分を美しく着飾って、善人ぶりたいだけさ」


腹の底に堆積(たいせき)して黒く腐った憎悪と私怨(しえん)を、男はこれみよがしに並べたてた。


「国にいた時、ヤツらが俺たち(・・・ )になにをした? 汚らわしいと(さげす)み、鬱憤(うっぷん)ばらしに(しいた)げ、視界に入るなと(ののし)った。そうしておいていざ国を離れれば、可哀想(かわいそう)だったね、なんて他人事みてェに(あわ)れみやがる。何度殺してやろうと思ったことか」


レイラは否定することなく押し黙った。

男は気分を良くして、大海へむかって高々と両腕を広げた。


「だがこれですべてが(むく)われる! さぞ見物(みもの)だろうよ。あの島の連中や、西大陸でのうのうと生きる元奴隷どもの顔が、恐怖と絶望で(ゆが)む光景は!」


艦隊はもうすぐそこまで迫っていた。


甲板で船を操る者たちの赤黒い屈強な体躯(たいく)と、(ひたい)にそびえる牛のようなずんぐりとした二本角まではっきりと目にすることができる。


彼らは、(とりで)の寄せ集め海賊とは違う。

(そろ)いの重厚な装備を身にまとい、指揮官の指示のもと迅速に動く統率された部隊である。


まだいくらか距離があるというのに、貿易船で待ち受ける青鬼たちは、幼い頃より記憶に刻まれた(おそ)れと身もすくむような圧迫感に息をつまらせた。


「世界の勢力図が塗り替わるぞ! 俺たちの居るこの場所が、新しい時代の転換点となる!」


東西の均衡を瓦解(がかい)させる引き金を、自分が引いたという自負が、ダネルの獰猛(どうもう)な野心をはちきれんばかりに(ふく)れあがらせていた。


そのほとばしる熱情にあてられ、同じく計画に従事していた者たちの何人かは、次第にほの暗い高揚感(こうようかん)に胸を躍らせた。


「……興味ないわ」


レイラは、表情を硬くこわばらせながらも、一蹴(いっしゅう)するように首を振った。


「私は、自分の欲しい物が手に入れば、それでいいの」


即物的(そくぶつてき)なそっけない態度に、ダネルは面白くなさそうな様子で鼻を鳴らした。


「分かっている。お前のお望みはこれだろう?」


ダネルは、銀色の液体が入った小瓶(こびん)をレイラへ投げてよこした。


「こんなもののために一生破れぬ誓いをその身に受けるとは。可愛いほど、(やす)い女だな」


「ほっといて」


レイラは大事そうに小瓶を仕舞うと、ダネルの耳ざわりな笑い声を振り払うように、足早に船倉へと降りていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ