表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生忍者、地獄で鬼相手に無双する  作者: 天川藍
第三章 烏合の戦場
43/59

⑤侵略計画


彼らの故郷である東大陸(ホルンガルド)は、たったひとつの種族が統治(とうち)するにはあまりにも広大(こうだい)な土地である。


しかしながら、その国土の半分以上は、作物の(みの)らない()れ果てた荒野(こうや)なのだ。


東大陸の歴史は、土地の収奪(しゅうだつ)をめぐる血みどろの侵略戦記(しんりゃくせんき)である。

他種族を排斥(はいせき)する差別的で抑圧的(よくあつてき)な社会が生まれたのも、このような厳しい土壌(どじょう)起因(きいん)する。


さらには、年々各地で深刻な砂漠化が進み、その打開策として西大陸(ユーラヘイム)侵攻は提言(ていげん)された。


いわば迷路海流(めいろかいりゅう)の突破は、東大陸全土の切迫(せっぱく)した未来を救う悲願(ひがん)なのである。


「かつて先人たちは、西大陸(ユーラヘイム)へさえたどり着けば、そこに迷路海流(めいろかいりゅう)全容(ぜんよう)を明らかにする海図が存在すると()んでいた」


だが彼らの期待はあえなく打ち砕かれた。


東大陸に比肩(ひけん)する雄大(ゆうだい)な大地と、風光明媚(ふうこうめいび)な自然に(いだ)かれて生きる()の地の人々は、遠洋(えんよう)に対する意識が薄い。


加えて、東大陸から亡命してきた者たちによって、鬼の()む国の凄惨(せいさん)な物語はまことしやかに伝え聞くところであったので、わざわざ命の危険を(おか)してまで迷路海流(めいろかいりゅう)を横断しようと(こころざ)す者などいるはずもなく、若気(わかげ)(いた)りから気まぐれに東の彼方(かなた)(かじ)を切った(おろ)か者は、例によって二度と白い壁の向こう側から戻ることはなかった。


結果、迷路海流(めいろかいりゅう)の謎は謎のまま、なんら解明されることなく今日まで放置され続けた。


幸か不幸か、彼らの無関心な怠惰(たいだ)は、赤鬼の切なる野心を根底から瓦解(がかい)させ、海を越えた国土拡張計画こくどかくちょうけいかくは大幅な遅れを余儀(よぎ)なくされたのである。


潮目(しおめ)が変わったのは十数年前。


迷路海流(めいろかいりゅう)を観測中の先遣隊(せんけんたい)が、任務の片手間(かたてま)に亡命者らしき青鬼たちを乗せた船を拿捕(だほ)した時であった。


その船こそが、浮島(うきじま)と西大陸を()()する貿易船だったのである。


当時乗組員(のりくみいん)であった島民たちは、同胞(どうほう)への義理をたて、口を閉ざしたまま死んでいったが、()()から割り出された結論は死人よりも雄弁(ゆうべん)であった。


そこから浮島の存在が導き出されるのにさほど時間はかからなかった。


この事件は同時に、島の(おさ)と一部の島民にも赤鬼たちの動きを察知させる一助(いちじょ)となった。

もとより、島の者たちは本国に対する最大限の警戒を(はら)って暮らしてきたが、ついに危惧(きぐ)していた悪夢が現実味を()びたとなれば、やるべきことは限られてくる。


最善の策は、島を引き払い全島民を西大陸へ住まわせ、海図を人知れず破棄してしまうことである。


叡智(えいち)の結晶たる海図も、本国に存在を知られた時点で諸刃(もろは)(つるぎ)と化した。

その鋭利(えいり)な切っ先が西大陸を(ほろ)ぼす前に、捨て去るべきなのは火を見るよりも明らかである。


だがしかし、彼らにはそうできないわけがあった。


海図もなく、十分な備蓄(びちく)も積まずに霧の海へ(いど)んだ遭難者の生存率は、一割を切る。


(はる)悠久(ゆうきゅう)の昔より白濁(はくだく)雲海(うんかい)を我が庭のように遊泳(ゆうえい)してきた浮島は、成すすべなく迷路海流(めいろかいりゅう)の怪異に(とら)われていた青鬼たちを、何百、何千と(ひろ)いあげてきた。


いわば、あの岩島は巨大な救命艇(きゅうめいてい)なのである。


ゆえに青鬼たちは、島の内側に(とりで)を造り、生活できるだけの基盤を(きず)いた。


すべては、自分たちよりも後からやってくる同胞(どうほう)の最後の希望となるために……。

たとえ救える者がわずかな人数であったとしても、一人でも多く、ともに笑いあえる仲間を(むか)えるために、彼らは島に住み着いた。


そして、気の遠くなるような観測の果てに、この世で唯一の迷路海流(めいろかいりゅう)網羅(もうら)する海図が完成したのである。


島を捨て、海図を捨てるということは、これら先人(せんじん)のたゆまぬ善意と、これから命を()して海へ出る同胞の命をも捨てることと同義(どうぎ)であった。


西大陸の安寧(あんねい)か、同胞の命か。


選択を(せま)られた彼らは、苦慮(くりょ)(すえ)に、島へ(とど)まることを選んだ。


温かな笑顔とねぎらいの抱擁(ほうよう)(むか)えられた瞬間の、震えるほどの歓喜(かんき)を身をもって知っている彼らにとって、あたえられた幸福を裏切るような真似(まね)をできるはずがなかったのだ。


東大陸(ホルンガルド)西大陸(ユーラヘイム)命運(めいうん)を左右する海図は、島の奥深くに隠された。


海図の内容は島長(しまおさ)と、貿易船を操る航海士(こうかいし)のみが知るところとなり、後継者(こうけいしゃ)は信頼できるものを厳選し、口伝(くでん)によってのみ伝授されるようになった。


以降、漂流者(ひょうりゅうしゃ)をよそおって赤鬼の息のかかったスパイが何度も島へ送り込まれたが、身内として迎え入れられることはあっても、海図への手がかりは徹底(てってい)して隠匿(ひとく)された。


なにより、東大陸において青鬼がひとり残らず奴隷であるように、スパイとして送り込まれた者たちもまた奴隷である。


冷遇(れいぐう)された生活しか知らなかった彼らにとって、島の温かな暮らしは、()えがたいものがあった。


潜入先(せんにゅうさき)で心変わりしないよう、本国に家族や友人を人質(ひとじち)にとられていたり、破格(はかく)成功報酬(せいこうほうしゅう)を約束されてもいたが、北風(きたかぜ)は太陽の輝きには勝てない。


(おもて)だって国を裏切ることはできなくとも、定期報告(ていきほうこく)はいつも必ず「まだ見つからない」という(はん)で押したような回答ばかりが並ぶこととなった。


青鬼では駄目だ。


ならばと次に白羽の矢が立ったのが、赤鬼でも青鬼でもない〝()じり(もの)〟だったのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ