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転生忍者、地獄で鬼相手に無双する  作者: 天川藍
第三章 烏合の戦場
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④終焉のカウントダウン

風がやんだ。

厚く垂れこめていた(きり)は晴れ、船の真上には()んだ青空が静かにこちらを見おろしている。


白い大きな月と、現世(うつしよ)よりも小さく(やわ)らかな太陽が、すまし顔で相対(あいたい)するように(のぼ)っていた。


静謐(せいひつ)という言葉が自然と浮かぶような、美しい空である。

きっとあの場所からは、下界(げかい)(いや)しい争いごとなど、なにも見えていないに違いない。


不気味なほど音のしない海域で、巨大な艦隊(かんたい)が三隻、小さな貿易船を目指してゆっくりと波を()きわけ進む。


あと(いく)ばくもせず、裏切り者に乗っ取られた(あわ)れな帆船(はんせん)は、航路開拓(こうろかいたく)の命を受けた赤鬼の先遣隊(せんけんたい)に引き渡されることだろう。


もしもこの瞬間にささやかな(さいわ)いというものがあるのなら、無風の天候であるがゆえに、艦隊の進行が遅々(ちち)としていることくらいか。


それもまた、気休(きやす)め程度の些事(さじ)である。


波は(こお)りついたように穏やかで、遠目に(きり)白壁(はくへき)がぐるりと四方を囲むようにとぐろを巻いている。


この場所は、迷路海流(めいろかいりゅう)のほぼ中央に位置する〝雲海(うんかい)の目〟と呼ばれる(なぎ)の海域である。


赤鬼の一団はここを中継地点と(さだ)め、迷路海流(めいろかいりゅう)の観測を行っていたのだ。

それも本日をもって御用納(ごようおさ)めとなる。


貿易船の甲板では、あらかた作業を終えた元島民たちが、緊張した面持(おもも)ちで黒光りする艦隊を出迎えていた。

今日この日のために、何年も前から浮島(うきじま)へ潜り込んでいた青鬼たちである。


彼らの中には、()じり(もの)の姿も幾人(いくにん)か見受けられた。


ようやく長年の密命(みつめい)から解放されるというのに、彼らの表情は(かた)い。


しかしその中にあってひとりだけ、鼻歌でも歌い出しそうなほど相好(あいこう)(くず)した者がいた。

ダネルである。


「嬉しそうね」


レイラが平静をよそおった口振(くちぶ)りで呟いた。

彼女もまた、握りしめた(こぶし)が色を失い、白さを増した顔が蝋人形(ろうにんぎょう)のようにこわばっている。


言葉尻(ことばじり)(とげ)があったが、歓喜のただ中に(ひた)るダネルの耳には、(なぎ)のそよ風にかき消されるほどどうでもよい音の差であった。


「歴史的瞬間だ。――五年間、この瞬間(とき)だけをずっと夢見た!」


壮大(そうだい)自己陶酔(じことうすい)(おちい)った者特有の、尊大(そんだい)な台詞である。


だがしかし、レイラには彼の傲慢(ごうまん)な態度を笑うことができない。

このまま(とどこお)りなく海図が先遣隊(せんけんたい)の手に渡れば、彼の主張はただの純然(じゅんぜん)たる事実となるのだ。


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