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転生忍者、地獄で鬼相手に無双する  作者: 天川藍
第二章 泳ぐ極楽島
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⑨青鬼の老爺


あっさり倒れた魚人たちを見て、うむ、と東雲(しののめ)はあごに手をあてた。

――悪い癖である。彼の脳裏では、すでに(よこしま)な考えがいくつも頭をもたげていた。


「シノ殿!」

「よォ、息災(そくさい)か?」


しれっと岩陰(いわかげ)から出ていけば、トトが再会の喜びと安堵(あんど)で瞳を輝かせながら駆け寄ってきた。

一方の怪力娘(かいりきむすめ)は、得体(えたい)の知れない化け物がよほど恐ろしかったのか、眼の端に涙をにじませながら、眉をつりあげた。


「アンタ来るのが遅いのよ!」

「助けてやっただけありがたいと思え」


適当(てきとう)にあしらい、地面に転がっていた(もり)を拾ってくるりとまわす。その双眸(そうぼう)は魚人たちをねっとりと見定(みさだ)めていた。

妙に熱がこもった、怪しい視線である。


「なァ、ちっと()きたいんだが」


すいっと指を前にさし、東雲(しののめ)は真剣な面持(おもも)ちで呟いた。


「アレは食えるのか?」


「…………え、」


しん、と水を打ったような静寂がおとずれた。


「え?」


敵味方双方(そうほう)から、困惑と動揺に()れた視線が突き刺さる。


しかし東雲(しののめ)は大真面目であった。

普段ならばこんな発想はしないだろう。

しかしいかんせん、腹が減っているのだ。


人に似た胴体部分はさすがに躊躇(ちゅうちょ)を覚えるが、あのタコのような頭部は、味はどうであれ食いでがありそうだ。


「ちょ、ちょっと、あんなうねうねしたの、食べられるわけないじゃない」

「なんだ、鬼の国ではタコを食わんのか? 美味いぞ」


ドキリ、と魚人たちの肩が()ねた。この男、本気である。


「お、お待ちくだされ。さすがに、知性ある種族を(しょく)すというのは……!」

「そう、よね。さっきしゃべってたし、立ってるし……」

「なら(ゲソ)だけもらうか」

()えでギラついた視線にさらされて、魚人たちは(おび)えながらじりじりと後退(こうたい)をはじめた。

中には自分の足を隠そうとしている者もいるが、狙われているのはそっちではない。


レイラたちも、ことさらやめさせようとはしなかった。

倫理的(りんりてき)な拒否感はもちろんあったが、それ以上に枯渇(こかつ)した三大欲求が、冷静な判断をにぶらせていた。


「やめんか!」


突然、雷鳴のような大声が混沌(こんとん)を貫いた。


広場のむこう側に、ひとりの老人が立っている。

額に細い一本角があった。青鬼である。


「この者たちは敵ではない。武器をおさめろ」


彼らの(おさ)なのだろうか。

片眼に大きな傷のある厳格な風貌(ふうぼう)の老人は、地に倒れている魚人たちを悩ましげに見やると、次いで()()まされた矢のような眼光を東雲(しののめ)へ突きつけた。


「無礼をわびよう。見慣れぬ風体(ふうてい)ゆえ、我らに(あだ)なす者かと疑った」


穏やかな言葉とは裏腹に、老人の(たか)のごとき双眸(そうぼう)が瞬きもせず威圧してくる。

これ以上ことを構えるな、と忠告しているのである。


(あだ)をなされたのはこちらなんだが」


「いやはや、(まこと)に申し訳ない。近頃とみに赤鬼(オグル)のならず者どもと出くわすことが多くてな。みな気が立っていたのだ」


老人のもとへ居並んだ魚人たちが、その頭部をずるりと()いだ。

その正体は、化け物に身を(ふん)した青鬼たちであった。


大層(たいそう)腹もすかれている様子、非礼(ひれい)のかわりといってはなんだが、夕食を馳走(ちそう)させてくれ」


ふいに、島の側面にあった大岩が、轟音(ごうおん)を響かせながら横へ転がった。

巨大な空洞が姿を現し、中から幾人(いくにん)もの青鬼がこちらの動向(どうこう)をうかがっている。


「――歓迎しよう。赤鬼(オグル)の砦へ火を放った、剛毅(ごうき)なる勇士たちよ」


「なぜそれを!?」


トトが驚きに目をみはった。

東雲(しののめ)は、海上に積み上がった船の墓場を思い起こし、――してやられた、とこめかみをヒクつかせた。


小船を木端微塵(こっぱみじん)にされたところからすべて、彼らの手荒な〝歓迎〟の一環(いっかん)だったのだ。


(このタヌキ(じじい)め……!)


見知らぬ他者の本質を見極める定石(じょうせき)として、意表(いひょう)をつくことはもっとも手っ取り早い手段である。


とんでもない先制攻撃からの品定(しなさだ)めを受けていたのだと悟り、東雲(しののめ)は苦虫を噛み潰した。


「ここは本国より逃げてきた青鬼(ユニル)が隠れ住む島。すでに先客が、お主たちの到着を待ちわびている」


トトとレイラが、わっと喜色(きしょく)をあらわにした。


よく無事だったな、と再会に水を差すようなことは、さすがに言わずにおいた。


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