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転生忍者、地獄で鬼相手に無双する  作者: 天川藍
第二章 泳ぐ極楽島
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⑧魚人vs忍者

魚人(ぎょじん)たちがなにごとかしゃべったが、東雲(しののめ)のいる場所からはくぐもっていてよく聞こえない。

異形(いぎょう)な見てくれだが、会話できるだけの知性はあるらしい。


次第に言い合いとなり、ひとりがレイラの腕を強引に掴んで、どこかへ連れて行こうとした。

しかしそんな暴挙をネズミが許すはずもない。


一条の細い光が夕闇にきらめき、磨きあげられた小さな剣が、(よろい)の隙間を()うように突き刺した。

相変わらず素早い身のこなしである。


引き()れた悲鳴があがり、レイラが解放された。

すると彼女は、恐怖で顔をこわばらせながらも、タコ人間へむかって果敢(かかん)に拳を振り抜いた。


ゴッ、と予想外な重い音が鳴り、タコ人間が吹き飛んだ。


どよめきが走り、他の仲間たちがぎょっと身を引く。

彼らだけでなく、トトも(はと)が豆鉄砲を食ったように彼女を凝視していた。


「……あのお転婆娘(てんばむすめ)、護衛なんかいらんじゃねェか」


くわばらくわばら、と(かわ)いた笑いが忍び出る。

(はかな)い外見にだまされそうになるが、東雲(しののめ)は彼女の体重を思い出していた。

そりゃあ繰り出される拳も軽くはあるまい……。


しかしそれは持って生まれた体質の話であって、彼女自身が戦いの場にむいているかどうかとは別問題である。


三竦(さんすく)みの原因をつくった張本人は、(おび)えと混乱で今にも倒れそうであった。


遭難して五日目、疲労も空腹も限界に達している。加えて多勢に無勢では、彼女らだけで切り抜けるのは厳しかろう。


かくいう東雲(しののめ)も、先ほどの化け物との攻防でさすがに気怠(けだる)さを隠せなかったが、金ヅル――、(いな)、護衛対象を見捨てるわけにもいかない。


ひゅっ、と風を切って無数の影が飛んだ。


(こぶし)ほどの大きさの石が、目にもとまらぬ弾丸のごとき速度でタコ人間の顔面へぶち当たった。

石は針の穴を射抜くような正確さで、(もり)を持つ手や、足の指先を襲い、次々と歩く海産物(かいさんぶつ)たちを広場へ陳列(ちんれつ)していく。


突然の襲撃に彼らは狼狽(うろた)え、警戒してあたりに視線をめぐらせた。

しかしどこにも乱入者の姿はない。

石は、広場のまわりに乱立する岩場のあちらこちらから飛んでくるのだ。


彼らは、自分たちが大勢の何者かによって包囲されているという錯覚(さっかく)(おちい)った。


もちろん仕掛け人は東雲(しののめ)ひとりである。


彼は縦横無尽(じゅうおうむじん)に岩場を跳びかいながら石を投擲(とうてき)し続けた。

たまにわざと岩場へぶつけ、跳弾(ちょうだん)させることで自身の居場所を攪乱(かくらん)するなど、巧みに敵を(まど)わせていく。


ちなみにこの石を投げるという行為、一見地味で格好悪い印象を持たれがちだが、実際は刀を振りまわすよりも楽に人を殺傷(さっしょう)できる、合戦でもよく使われる手段である。


東雲(しののめ)はこの礫業(つぶてわざ)が得意中の得意であった。


生きて情報を持ち帰ることを本分(ほんぶん)とする忍者たちは、やむをえず交戦と相成(あいな)った場合、己の生存率をあげるため、刀や槍の届かない間合(まあ)いの外からの攻撃手段を重視した。


そうして生み出されたのが手裏剣である。


しかしアレは、里の鍛冶屋(かじや)が独自の製法によって生産する秘伝の武器であった。

そのため数に限りがあり、もっぱら身分や忍務(にんむ)に応じて里が個人へ支給する枚数を管理していた。

加えて形状が特殊であるため、所持しているところを見られれば即刻出身がバレてしまうという致命的(ちめいてき)な欠点があり、上忍(じょうにん)でもそう多くは持ち歩かない。


ましてや、東雲(しののめ)のような末端の者には十分な数が回ってこないこともしばしばであった。


その反面、石ならばどこにでもタダで転がっている。

彼が礫業(つぶてわざ)傾倒(けいとう)した背景には、そういった世知辛(せちがら)い事情が絡んでいるのだった。


東雲(しののめ)は用心に用心を重ねた。

先ほど、ヘドロの化け物の(ひだ)に苦戦を強いられたこともあり、あのタコ人間たちも自分の理解を越えたなにかを秘めているのではないかと警戒したのだ。


しかし、彼奴(きゃつ)らは呆気にとられるほど脆弱(ぜいじゃく)であった。


(おか)にあがっているからだろうか。

石の襲来を受けた化け物たちは、あっさりと地面へ引っくり返り、いつまでも痛みに身悶(みもだ)えている。


広場は、さながら港の魚市場(うおいちば)のような有様(ありさま)となった。


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