表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生忍者、地獄で鬼相手に無双する  作者: 天川藍
第二章 泳ぐ極楽島
24/59

⑤帆船の墓場

迷路海流(めいろかいりゅう)をあてもなく漂泊(ひょうはく)すること五日が過ぎた。


広大な霧の海域はどこまで進んでも終わりが見えず、日数を確認する手立ては、淡く届く陽光が途切れる時間帯を数えるほかない。


幸い、しとしとと糸のような細い雨が断続的に降ってくれるので、少量の飲み水を確保することはできたが、案の定釣りの成果はさっぱりであった。


二日目からは縄をばらして小さな網をつくり海へ垂らした。

すると、まれに小魚やエビが引っかかるようになった。

しかし空腹を癒すにはほど遠い。


しばしば海面を浮きつ沈みつ流れてくる海藻を拾っては、かぼそい声で鳴く腹の虫をなだめるのだった。


沈黙と倦怠(けんたい)の日々に、一番まいっている様子なのはレイラだ。

しかし初日の一件以来、彼女の瞳から生きようとする意志が消えることはなかった。


少女とて、まがりなりにも鬼である。外見こそ貧弱な印象をぬぐえないが、案外タフなのかもしれなかった。




かくして、五度目の黄昏(たそがれ)がおとずれた。


()れ落ちた太陽の光が、霧の底を怪しげな赤銅色(しゃくどういろ)に染め、ただでさえ不明瞭な視界を暗くぼやけさせていく。

夜の(とばり)が色濃くなるにつれ、今日もまた駄目だったかと、各人の胸に重い落胆が生まれた。


だが、その時である。


ふいにトトが大きな耳をピンと立て、豊かなヒゲを震わせた。

そしてやや緊張した空気を(まと)いながら、警戒した面持(おもも)ちで船の後方へ鼻先をむけた。


しっとりと水気をおびた飴色(あめいろ)の毛が、剣山(けんざん)のように逆立っている。

常にないその様子に、東雲(しののめ)たちも船尾へ視線を走らせた。


しかし当然ながら、重厚な霧の壁に(はば)まれて、一寸先も見通しがきかない。


「……なに? なにかあるの?」


「わかりませぬ」


曖昧(あいまい)(こた)えに反して、硬直した声音はなにかの存在を確信した響きを(はら)んでいた。

五感ではなく、本能で異変を察知しているのかもしれない。


張り詰めた沈黙が船の上にわだかまった。

警戒と不安と、かすかな期待を抱いて薄闇を見続けることしばらく……。


次に反応を示したのは東雲(しののめ)であった。


時刻は逢魔(おうま)が時である。

濃藍(こいあい)と金と(くれない)がべったりと混じりあう海上に、ゆらゆらと(ただよ)うなにかが見えた。


木片だ。砕けた木板のようなそれを拾いあげれば、他二人の視線が集まる。


返す返す眺めても、ただの板きれである。

しかし、彼らが肩すかしに拍子抜けした直後、間を置かずして異様な光景が船のまわりを取り囲んだ。


どこからともなく漂流してきたおびただしい量の板くずが、海面を埋め尽くしている。

突然、トトがはっと息を飲んだ。


「あれはっ、青鬼(ユニル)の方がたが乗っていた船の外装では!?」


「なに?」


「……嘘でしょ」


見る影もなくバラバラに打ち砕かれた残骸の山は、一隻だけのものとは思われない。


まさしく船の墓場ともいうべき場所に、小さな帆かけ船は飲み込まれた。


瓦礫(がれき)が進路の邪魔をして前にも後ろにも抜け出せそうにない。

トトが瓦礫へむかって声をかけようとした。残骸の中に、遭難した青鬼たちがいるのではないかと思ったのだ。


しかしその口を、東雲(しののめ)の手の平が(ふさ)いだ。


「むごっ」

「静かにしろ……、なにか来る」


その言葉が終わるやいなや、前方にぽっかりと闇が現れた。


太陽が雲にでも隠れたのかと思ったが、どうやら違う。

雲海(うんかい)の一角に、暗く(おぼろ)な|幽気がたたずんでいる。

緊張が走った。


彼らが見ている目の前で、模糊(もこ)とした闇はむくむくと膨らみ、やがてなにかの巨大な影が、急速に近づいてくるのだとわかった。


霧が不気味に渦を巻き、尾を引きながら流れていく。

白い霞幕(かすみまく)をかきわけて、見上げるほど巨大ななにかが姿を現した。


それはなんと(こけ)むした陸地であった。

硬い岩盤に覆われた岩島が、荒波を起こしながらこちらへ迫ってくる。


「……あー、西大陸(ユーラヘイム)ってのは、これか?」


「バカ! そんなわけないでしょう!?」


「ぶつかりますぞ!」


悲鳴をかき消す轟音(ごうおん)が霧の海に響き渡り、小船は木端微塵(こっぱみじん)に吹き飛んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ