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転生忍者、地獄で鬼相手に無双する  作者: 天川藍
第二章 泳ぐ極楽島
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③海霧


さて、情報源といえば――。


「おふた方、どうやら困ったことになりましたぞ」


「……おう、ネズ公、いたのか」

「ずっとおりましたが!?」


ひょっこりと現れた小さな毛玉は、いつの間にやら立派な旅装束に身をつつんでいた。

赤鬼に奪われていた私物を回収したらしい。


落ち着いた緑の外套(がいとう)をはおり、背中にはこれまた小さな(かばん)を背負っている。

自らを戦士と豪語(ごうご)した彼らしく、肩からななめにかけた菜箸(さいばし)ほどの細い剣が、きらりと誇らしげに輝いていた。

笑ってしまうほど様になっている。


「いやさ、姿が見えんから、てっきり風にでもあおられて海へ落ちたかと思ったぞ」


それは心配をおかけして、とトトはかしこまって頭を下げた。

軽い冗談のつもりだったのだが、真にうけたようだ。


仰々しいほどの礼節をもって東雲(しののめ)に接するネズミの態度に、レイラが変な顔をした。物言いたげな視線を受け流し、先をうながす。


「なにかあったか?」

「実は……」


どうやらこの抜け目ないネズミは、短い時間にも骨おしみすることなく、船内を探っていたらしい。


この手狭な帆かけ船には、屋根つきの小さな船室が備えられている。

先ほど東雲(しののめ)も中をのぞいてみたが、特筆すべき物はなにもなかった。――それが問題であった。


「食料はおろか、水もほんのわずかしか積まれておりません。その上、羅針盤(らしんばん)や海図ですら乗せられていないのです」


出航準備前の船を強奪したのだから当然である。

あの大騒動の最中そこまで気をまわす余裕はなかった。東雲(しののめ)は後悔しても(せん)なしと肩をすくめたが、青鬼の少女はただでさえ青白い顔をさらに青ざめさせた。


「ようは西へ行けば良いんだろう。おおまかな方角さえ確かめてりゃあ、いずれはどっかに流れ着くさ」


「……馬鹿ね。そんな適当な航海で西大陸(ユーラヘイム)へたどり着けるなら、とっくに東大陸(ホルンガルド)青鬼(ユニル)はひとり残らず海へ殺到(さっとう)してるわ」


レイラはへたりこんで頭を抱え、トトも(けわ)しい表情をしている。


「どういうこった」


西大陸(ユーラヘイム)直前の海域は、迷路のように複雑で入り組んだ潮流(ちょうりゅう)(はば)まれているのです。正しい航路を知らなければ、下手をすると、永遠に海の上を彷徨(さまよ)うことになります」


「あー……、そりゃあまた……」


ようやく事態の深刻さが伝わった。

なるほど、食料も水もないとなれば、永遠といわず数日が生きていられる限度であろう。


「つまりあれか、遭難必至(ひっし)というわけか」


なかなかどうして、前途多難である。


一縷(いちる)の望みは、先に出た船に積み荷が残されていれば、あるいは……」


捕縛されていた青鬼たちが乗り込んだ船は、こちらのものより規模の大きな帆船だった。もしかすると、それなりの備えが積まれたままになっていた可能性がある。


すがるような思いで、二人と一匹はそろって舳先(へさき)へと目をむけた。

つい先ほどまで、先行した帆船がそちらの方角に小さく見えていたはずであった。


しかしその時になって、彼らは海上の様子がおかしいことに気づく。

望みの船影(せんえい)はどこにもなかった。


太陽の位置から判断しても、進路はまっすぐ西へ軌道をあわせたままである。


「なんだありゃあ……」


(はる)か前方に、灰白色(かいはくしょく)の濃霧がたっぷりとした(すそ)を広げてぬりかべのごとく(とどこお)っている。

おそらく青鬼たちの船は、あの霧の帯のむこう側へ隠れてしまったに違いない。


「思い出しましたぞ……」


果てしなく続く冬の山脈のような水平線を見据えて、ネズミが静かに言葉を(つむ)いだ。


西大陸(ユーラヘイム)への到達を困難たらしめる〝迷路海流(めいろかいりゅう)〟――。そのげに恐ろしきは、雲海(うんかい)のごとく重く垂れこめる海霧(うみきり)にある、と……」


やがて、彼らを乗せた小さな帆掛け船もまた、分厚く渦巻く霧の中へと飲み込まれていった。


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