帰る家
零二が連れ出され、次の日の早朝に特務部隊へ説明した。
だが、もう一つやる事がある。
それは無断で八百屋を休んだことに対してのおばちゃんへの謝罪だ。
あれから、なんとか九惨の怒りを沈め、各々が自分の仕事に戻った。
零二は特にやることも無かった為、一度戻っておばちゃんに
伝える事にしたのだ。
もちろん朔夜からも了承を得ている。
そして、何故か美沙も付いて来るというので勝手にさせた。
恐らく逃げないように見張るつもりだろう。
いくら零二といえど、戦争間近なのだから逃げるわけが無い。
零二は失礼だなと思いながらも、美沙と共に八百屋へ向かう。
(本当は零二隊長が好きな女性を見定める為なんでけどね。
私が誰よりも一番近くで見てたんだから・・・・・・)
美沙はずっと前から零二の事を好いていた。
だが、鈍感零二がこの気持ちを察する事はなかったのだ。
美沙は零二と共に八百屋へと向かう。
昼過ぎということもあり、お客さんの方はだいぶ少なくなっていた。
「おばちゃん、遅くなっちゃってごめんね」
昼過ぎにやってきた零二に驚くが、後ろに控えている美沙を見て
全てを察する。
美沙もおばちゃんに頭を下げていた。
「零二、、、そっか・・・・・・また、あの仕事に戻るんだね。
どうだい? 一年しかいられなかったけど楽しめたかい?」
育ての親でもあるおばちゃんは、当然零二の事情を知っている
。
何せ、一年前まではほとんど軍人として戦っていたのだから。
そんなおばちゃんの表情もどこか寂しげな表情。
「うん、、、ただ、もう少しでいいからこの平穏な暮らしをした
かったよ」
零二はここの暮らしが大好きだった。
ただ、野菜を並べて売る。
それだけの仕事だが、十分に満足していたのだ。
それに、何より雪乃に会えたことが大きかった。
少し、期待していたがまだ早いこともあり雪乃は当然いない。
「って事で、おばちゃん、また暫く行ってくるね。
雪乃ちゃんにもよろしく!」
やはり、零二も切ない表情をしている。
それはそうだ。
まだ25歳だというのに戦争に駆り出されるのだから。
零二がナンバー2であり、国の最強の兵器として。
そう思うと、おばちゃんも心が痛かった。
痛かったが、国王の決めた事を口出しできるほど偉くもない。
「行ってきな零二! そして、いつでも戻ってきなさい。
あんたの家はここなんだからさ」
そう笑顔で話してくれるおばちゃんの言葉はとても暖かかった。
帰る場所がある。
それだけで、零二は十分に満たされる。
涙を堪えておばちゃんに「またね」と伝えると、零二は
再び来た道を折り返す。
美沙は零二の後ろを歩き続ける。
背中越しにもわかる、寂しげな空気。
何かを言ってあげたいが、何を言えばいいか分からない。
こんな時、どう慰めてあげればいいのかわからなかった。
そう思っていると、口を開いたのは零二であった。
急に立ち止まり、美沙も驚きその場に立ちつくす。
「なぁ、美沙・・・・・・俺には両親が居ない。
だから帰る場所だってない。 だけど、おばちゃんは
俺の家はあそこだと言ってくれた。
でもな、俺の家は他にもあったぞ。
俺達の家族は他にもあった。
お前達特務部隊だ。
だから、全然落ち込んでなんかないから気にするな」
そう振り返る零二の顔は笑顔であった。
千里眼のスキルを使わなくてもわかる。
零二は心の底から思ってくれているのだと。
そう思うと、美沙もなんだか嬉しくなってきた。
「はいッ! 特務部隊は家族であり我が家ですよ!
そんな一家を支えるのが零二隊長ですからね?」
美沙の言葉に頷く零二。
これで、雪乃以外の心残りはなくなった。
あとは、来る戦争に備え勝つのみ。
零二は再び気合を入れて城へと戻るのであった。
司令室にて書類仕事をする朔夜。
その報せはいきなりだった。
ガルズ王国が抱える偵察部隊。
その報せによれば、三日後にスヴァルト王国がガルズ王国へ
攻め込むとのこと。
「なるほどな。 やはり、敵はナンバー2か。
零二に限って負けることは無いと思うが、少しでも
情報を集めた方がいいだろう。
『白影』に偵察の数を増やすよう伝えてくれ」
朔夜は偵察兵に指示を出すと、偵察兵は返事をしてそのまま
その場を後にした。
(スヴァルト王国。 ナンバー1である『あの男』のスキルは
わかっている。 奴は狡猾な男。 恐らくなにかしてくるはず)
神妙な面持ちで相手の意図を考える。
朔夜は先読みが得意であり、毎回敵の更に上をいく。
朔夜に対して、頭脳戦で戦えばガルズ王国内で勝てる者はいない。
いや、恐らく世界でも勝てる者はいないはず。
良くて互角に戦えるものが数名。
それほどに朔夜は頭脳戦を得意としていた。
零二の勝率を少しでも上げるため、朔夜もまた頭脳で
スヴァルト王国ナンバー1と戦うのであった。
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