意味があって意味がない
源斎達がまだ開戦する前。
「おいお前、残砡様を見なかったか?」
とある施設の中でそう話し掛けるのはナンバー8である
残砡の副長であり、開発局副局長だ。
名を珠里という。
高身長であり、スタイルも良く美人なその容姿。
ただ、人付き合いがあまり得意ではなく、残砡以外に対しては冷たく接してしまうことが多々ある。
つまり、残砡信者という事だ。
そんな残砡信者である珠里は、常に残砡に付いて回っているのだが、どうやら見失ってしまった様子。
周りの配下に聞いても皆が残砡の姿を目にしていないと言う。
「ここにいないとなると・・・・・・あそこか?!
少しここを空ける。 後は頼むぞ」
配下に一言述べると珠里は心当たりのある場所へと向かう。
転移しながら進むと、そこにはある一本の木が立っていた。
それは桜の木だ。
まだ春前である為に咲いてはいないが、もう少し月日が経てば満開となり、王都一の桜の木へと変貌するだろう。
狂科学者とも呼ばれており
嬉嬉として人体実験をしていると言われている残砡にも
一つだけ人間じみたところがあった。
それが『桜』である。
毎年必ず桜が咲くと見に来ており、何時間もただただ桜を見つめる。
その感も珠里はただただ黙ってその姿を見守っていた。
もう時期咲く頃だから、恐らくここにいるだろうと思ったがどうやら予想は外れた。
桜の木の下には誰もおらず、珠里は辺りを見渡した。
そして、不意に路地裏の方に目をやった時、そこには
残砡の姿が。
名前を呼び近付こうとしたが、思わず口を閉じた。
何故なら、残砡は見たこともない男と怪しげな笑みを浮かべて話していたのだ。
珠里は残砡に絶対の忠誠を誓っている。
誓ってはいるが、あんな状況を目の当たりにすれば、怪しまずにはいられない。
むしろ信じるために転移で近付き隠れながら小耳を立てた。
「〜〜〜。」
「さ良いでしょう。 では孫加殿。 スヴァルト王国での私の
地位と身の保証は頼みましたよ?」
「えぇ。 私はスヴァルト王国ナンバー3。
必ずや応えましょう。
ですが、それは貴方が約束を守ってからです。
次回の戦、任せましたよ?
では契約完了です」
「契約完了ですね」
珠里の頭は真っ白になった。
これは聞き違いでなければ完全に裏切りだ。
しかも相手は今戦っているスヴァルト王国。
もしや、今回の無謀な戦いもこの孫加が中に侵入する為の
囮に過ぎなかったのでは?
珠里は悩んだ。
この事を総司令官に伝えるべきか。
だが、まだ確実に裏切ると決まった訳では無い。
自分の隊長を信じれなくて何が副長か。
何かあれば直ぐに自分が対処しよう。
そう心に決め、珠里は今回の件を黙認することに決めた。
そして、琥珀の思った通り源斎に当たっている軍はただの囮に過ぎずあっという間に瓦解していた。
「全く手応えがないな。
逃げるものに深追いはせず、来るものに全力で当たれ。
掃討戦を始めるぞ」
琥珀の指揮と十殺隊の力により、敵の数はどんどん減っている。
敵が全滅するのも時間の問題である。
今回の戦は源斎が出るまでもなく終わった為、源斎はその分
心眼で相手の動向を探っていた。
しかし、この戦になんの意味も見受けられないのだ。
つまり、答えはなんの意味もない戦。という事になる。
だから、源斎はずっ頭を悩ましていた。
一体何がしたかったのか。
そうやって考えているうちに敵は全て殺した。
複製である相手は切っても血が出る訳では無い。
切れば消えるし、話もしない。
だから、捕虜にして尋問することも出来ないのだ。
源斎はこの答えを持って十殺隊を率いて王都へと引いた。
それから数日後、源斎達は王都へと到着し、源斎はそのまま
司令室へと報告に向かう。
現場で見た事。そして感じた事を朔夜へと報告する。
「なるほど。 つまり、それが答えなのかもしれないな。
あの戦に意味は無い。 いや、外に目を向かさせるという
事を目的とするならば意味はあった。
もしかしたら、スキルか何かで敵が侵入している事も
ありえるな。 真明! 近衛兵の警備を増やし王族を
しっかりお守りしろ。 そして、『俄蘭』にも
王都内の警護を増やすように伝えてくれ」
「はっ!!!」
真明は朔夜から命令を受けるとその場を後にする。
「では我等も辺りを警戒するとしましょう」
「すまない源斎。 戦から戻ったばかりだというのに」
「なぁに、国の一大事やもしれぬのだからそこは
お互い様じゃよ。 では早速行ってこようかの」
「このことは後で必ずや穴埋めさせてもらう。
助かる源斎」
礼を述べると源斎は何も気にするなと言わんばかりに笑って
部屋を出ていった。
「どうしたものか。 今回の戦は絶対に侵攻が目的では無い。
そしね無意味に戦うわけが無い。
ともなれば、狙いは・・・・・・くっ、スヴァルト王国め。
一体何を考えているんだ」
敵の思考が読めずにいる朔夜。
それでも、有る情報を頼りに正解を目指すしかない。
その頃、スヴァルト王国では
「孫加。 うまくいったのか?」
「えぇ。 残砡は我が手中です。 彼には愛国心というものが
ないようですしね。 と言っても裏切られては困るので
一応確認はしてみますよ」
「ならば、次の戦は、、、」
「えぇ。 私が出ます」
数日後。
スヴァルト王国軍出陣の報せがまたもガルズ王国へと届く。
三回連続の侵攻。
これには流石に連勝しているガルズ王国も恐怖する事となる。
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