遠い存在
「・・・・・・えっ?・・・・・・」
零二の時が止まる。
絶対とは言わないが、かなりの高い可能性でOK返事が貰えると思っていたからだ。
ようは自惚れていたとも言えるだろう。
だが、そう思っても仕方がなかった。
何故ならば、
「ご、ごめんなさい! 零二さんの事が嫌いな訳では
無いんです。 むしろ・・・・・・好き、だと思います・・・・・・」
そう。
雪乃も零二と出会った時に一目惚れをしたのだ。
今まで恋愛をした事がなかった為、好きという気持ちに気付けなかったが、零二が居なくなってから気付いた。
これが好きという気持ちなんだと。
だから、零二が自惚れるのも仕方がないのだ。
そして、雪乃の好きという言葉で再び零二は我に返る。
「な、ならどうしてッ?! 好き同士ならいいじゃん!」
何故お互い好き同士なのに付き合えないのか?
この時の零二には知る由もなかった。
まさか、雪乃が追い詰められていたとは・・・・・・。
「だ、ダメなんです。 零二さんと私では住む世界が違いすぎ るんです・・・・・・零二さんはこの国のナンバー2であり
この国に居なくてはならない存在。 唯一無二なんです。
私みたいなただの平民が零二さんの横に居ていいわけない
零二さんにはもっと相応しい人がいる。
私、、、自分への劣等感に押し潰されそうなんです
本当にごめんなさい・・・・・・」
雪乃が涙ながらにそう話す。
だが、零二も引くに引けなかった。
いや、雪乃が零二を好きならば引く必要がないからだ。
「雪乃ちゃんという存在も唯一無二でしょ?
この世に一人しかいない俺が大好きな相手。
確かに隠していたのは申し訳なかった。
でも、雪乃ちゃんへの気持ちは隠したことないよ。
本当に大好きなんだ。 ずっと頭の中には雪乃ちゃんが
いるんだよ。
だから、お願い・・・・・・もう一度考え直して欲しい」
再び頭を下げる零二。
いつもみたいに巫山戯た様子は無く、真剣な面持ちだ。
「ありがとうございます。 ですが、今の私ではだめなんで す。もしいつか零二さんに相応しい女になったその時、
もし、まだ私のことを好きでいてくれたなら、その時
零二さんの隣に居たいです・・・・・・ずっと、、、」
ここまで話しても折れない雪乃。
流石の零二もこれ以上言うのは野暮だと感じ諦めた。
「雪乃ちゃんの意思は固いみたいだね。
わかったよ。 俺はずっと雪乃ちゃんを好きでいる。
だから、必ず迎えに来るよ!」
零二は笑顔でそう話すと、泪を浮かべながら雪乃も返事をする。
「はい!!!」
こうして、零二の恋は実ることは無かったが、未来への種は残すことができた。
そして、相思相愛という事にも気付けた。
それだけでも御の字である。
零二と雪乃は満足したのか、部屋を後にし会計を済ませると
雪乃を家まで送り届けた。
いつもの様に笑顔で別れを告げ、零二は一人家へと向かうのであった。
零二が雪乃と食事をしている頃、ガルズ王国の王城では皆が
忙しくなく動いていた。
こんな騒々しいのは久しぶりである。
それもそのはず。
なんと、以前攻めてきたスヴァルト王国が再びガルズ王国へと
侵攻しようとしているのだ。
そんな情報を朔夜はいち早く手に入れ、直ぐに重鎮達に伝えたのだ。
おかげで武官、文官は忙しなく動いていた。
敵の数は?
率いる将は?
どの方角から?
考えることは山ほどあった。
そして、司令室でも熟考するものが一人。
総司令官である朔夜だ。
彼女がガルズ王国ナンバー1であり総司令官でありこの国の心臓と言っても過言では無い。
朔夜は偵察から貰った情報を頼りに必死に試行錯誤する。
「やられてまだ日も浅いと言うのに、、、
恐らく零二の力を見て弱いと侮ったのだろう。
あまりにも浅はかな奴らだ。
しかし、こうも戦が続けば国民は怯えてしまう
次こそ完膚なきまでに力を見せないとだな・・・・・・」
そんな事を一人呟いていると、部屋へとノック音が聞こえてきた。
「コンッ」
この部屋に来る人間は大体決まってくる。
ゴッドナンバーズだ。
ちなみにガルズ王国では上位十人は『十神将』と呼ばれている。
つまり十神将くらいしかこの部屋へは出入りしない。
よって朔夜はノック音だけで誰が来たか分かるのだ。
朔夜が許可するとやはりといった相手がそこには立っていた。
「どうした源斎。 この非常時に急用か?」
『源斎』
齢60になり、髪は白く、皺も増えてきた。
とはいえ、その厳格さは未だ衰えず、彼が来ると空気が張りつめる。
彼は剣術の達人であり、この国の剣術師範でもある。
剣において彼の右に出るものはいない。
ナンバー1の朔夜でさえ、彼の剣術に勝てずにいるのだから。
そんな彼は盲目であり、常に目を閉じている。
「お忙しいところ申し訳ないのう。 とはいえ非常時故に参った。
どうじゃろうか総司令官。 此度の戦いは我が軍に任せてもらえ ないだろうか?」
源斎の言葉に眉がピクっと反応する。
確かに彼の力は絶対の信頼がある。
それに彼が率いる軍も、ガルズ王国でも屈指の部隊。
何せ、皆が源斎に鍛えられているのだから。
そんな彼の率いる兵士は一人で十人を殺す事から『十殺隊』という
二つ名まで世界に知れ渡っている。
何より、彼の力も然ることながらその冷静さや知略も朔夜は
買っていた。
「そうか。 敵の数や将が分からない今、すぐに二つ返事は
できないが、前向きに考えておこう。
源斎の力は頼りにしているぞ」
源斎は確かに強い。
だが、もし相手がもっと上のナンバーズを出してくるのなら
こちらもそれ相応の人間をぶつけなくてはならない。
源斎なら上でも倒せるだろうとは思ってはいる。
朔夜の良い返事に期待し、源斎は軽く礼を言うと直ぐにその場を後にする。
一人司令室に残る朔夜は、窓から見える晴天を見上げ思いに耽ける。
(敵の攻める意図がわからないな。 本当にスヴァルト王国は
零二達の力を侮り、第二次侵攻を始めるのか?
もっと違う何かがあるのじゃないだろうか、、、)
兎にも角にも情報が足りない。
とはいえ、朔夜の予感は的中する事になる。
この後、国内に、それも十神将の中から反逆者が出るとは誰も思わないだろう。
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