格の違い
「あの親玉は俺がやる。 残りの奴らは頼んだぞ九惨」
零二が振り返り、九惨にそう伝える。
自分の敵が取られたら九惨は味方であろうと殺しにかかる。
だが、零二に対しては、そんな事しなかった。
九惨の事だから、相手の親玉には敵わないなんて甘っちょろい思考はないだろう。
恐らく、質より数。
単純に多い方に満足したのだろう。
返事もなければ頷きもしないが、零二は九惨が納得してくれたのだと感じ取った。
「うし! んじゃああの敵達はアイツらに任せて
俺は・・・・・・アイツだな」
奥の方で腕を組み、悠々とこちらを見つめる一人の男。
スヴァルト王国ナンバー2である陳塊だ。
「隊長の邪魔をさせないで! 皆も九惨に続くよ!」
零二が出ると同時に副長である美沙も出撃していた。
直接現場で指示を出すのだ。
目の前で敵を嬲り殺している九惨に続き、美沙や他の特務部隊達も続く。
零二が相手と一騎打ちできるようにと。
味方が奮闘してくれている中、零二は陳塊の元へ歩む。
「お前がここの総大将だな? 何故仲間にあんなことができ
る? 自我を無くし操るなんて、仲間のすることじゃない だろ」
零二は先程から気になっていたことを聞く。
寄生虫をばら撒き、部下である兵士達を操る。
寄生虫が取り付いている限り、彼等は傀儡。
生きた屍なのだ。
自分の意思で戦うのではなく、操られて戦っているのだ。
兵士として、それはあまりにも酷というもの。
だから、零二はきれていた。
対する陳塊はというと、
「これは戦争だ。 勝たなければなんの意味もない。
負けそうな戦況は変えればいい。
弱い兵士なら強くすればいい。
敵であるお前が甘ったれた言葉でこの私に注意するんじゃ
ない!」
先程まで冷静だった男が声を張り上げる。
自分のやり方に零二がケチつけたからだ。
「同じナンバーでも、お前らと私の国の格の違い見せてやろう!
雪崩虫」
陳塊が両手を前に突き出すと、その両手から次々に虫が飛び出す。
虫達が数千、数万と出てきていた。
それが一気に零二目掛けて突っ込んで行く様は、美沙や幹部達も
心配や不安を隠せない。
特に千里眼のスキルを持つ美沙には、あの虫達が危険であることは瞬時に理解出来た。
何せ、力でいうとナンバー100相当に匹敵するのだ。
それが数万近くもいるのだから恐怖せずにはいられない。
しかし、当の本人である零二は全く背負う様子は無い。
むしろ、いつも通り平然としておりただ片手を前に突き出す。
「お前の言う通りだ。 俺の国とお前の国では格の違いが
ありすぎる。 お前がうちに来たらナンバー100くらい
じゃねぇのか? 雷鳥」
零二の手から放たれる、雷の鳥。
その大きさは、2m程もありそのまま虫を喰らうように飛んで行く。
雷鳥に触れた虫達は一瞬にして消し炭となっていた。
そして、雷鳥は止まるこなく、速度を緩めることなく
何万もの虫の中突っ込む。
数秒もすると数万いた虫達は全て消し炭となっていたのだ。
これには流石の陳塊も、味方である特務部隊達も驚かずにはいられない。
特務部隊達は、この一年でだいぶ成長し、少しでも隊長に
近付けたと思っていた。
だが、こんな光景を目の当たりにすればそんな事
思うこと自体馬鹿馬鹿しく感じる。
それ程に圧倒的な力であった。
特に驚いたのは技を受けた陳塊だ。
更に防御の硬い虫を出してようやく雷鳥一体を止めることができた。
あまりにも自力が違う為、先程まで優位だと思っていた立場が一気に逆転する。
そして、静かに悟った。
(わ、私では奴に勝てない・・・・・・くっ、ならばッ!!!)
陳塊は地面から、空から、様々な虫達をありったけ出していく。
正面からだけではなく、背後にも回らせて。
つまり、零二の全方位から虫を攻撃させた。
零二は四面楚歌の状態ではあるが、先程同様に全く焦る気配は無い。
「だから、お前の力じゃ俺には遠く及ばねぇって。
雷刃 乱式」
零二の手から次々に放たれる雷の刃。
一瞬触れるだけで消し炭となるその刃が、全方位に向かって放たれる。
虫達は攻撃することは愚か、近付く事さえ出来ずに死んでいった。
まさに無駄死にである。
狂乱気味の陳塊から繰り出された虫達はまたしても一瞬にして
全滅した。
「あ、ありえない・・・・・・わ、私は、、、ナンバー2だぞ!!!
いでよ! 我が最強の昆虫の王よ!!!」
陳塊の両手から現れる巨大な頭。
巨大な頭から推測するに、全長10mは有りそうだ。
「フッハッハッハッ!!! これが出た時点で私の勝ッ・・・・・・
ち、、、だ?」
巨大な虫の頭と共に陳塊の首が地面に落ちる。
零二が雷の如く速さで自身の手持ちの武器である刀を持って
斬り殺したのだ。
零二の刀は帯電しており、陳塊の首や虫の首は焼け焦げており
血が固まっている。
陳塊のせめてもの救いは、痛みを感じる間もなく零二によって
斬られた事だろう。
零二が終わるのと同時に特務部隊達も、残兵を倒していた。
そこへ美沙が零二に駆け寄る。
「流石零二隊長! 隊長の言う通り、格の違いを見せつけました
ね!」
だが、零二はどこか浮かない顔をしている。
(本当にそうか? ナンバー2にまで登った男がこの程度?
何かがおかしい気がする・・・・・・。 朔夜さんに報告だな)
零二は全く手応えの感じない陳塊に対し違和感を覚えた。
とにかく、今は皆で勝利の凱旋だ。
「勝鬨だぁッ!!!」
零二の掛け声で皆が大歓声を上げる。
こちらに負傷者はいるものの、戦死者はゼロという凄まじい結果で終わったのだ。
とにもかくにも、相手の侵攻は失敗に終わるのであった。
皆で談笑しながら、王都へと引き返す特務部隊。
だが、後に零二のこの違和感は的中する事になるのを彼は
まだ知らない、、、
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