第76話 シュベリーの町へ
次の日、東の町シュベリーを目指す道中で、今日の旅仲間の直人とさくらに昨日思い出した日本人の盗賊のことを話した。
そして、救出しなければならないのか質問してみると……。
「盗賊という犯罪者になってしまった場合は、救出しないでいいんじゃないですか?」
「ん~、やっぱり救出はダメか……」
「それか、捕まえて衛兵につき出すのはどうです?
そして、犯罪奴隷となったところで引き取ると……」
「やっぱり、犯罪奴隷にしないとダメだよな……」
盗賊という犯罪者になってしまったんだ。
罪を償うためにも、犯罪奴隷にならなければ助けることはできないよな。
日本から、自ら召喚されて来たっていうのに、何やっているのか……。
俺あっちの中で、その盗賊に落ちた三人の日本人を見つけた際は、捕まえて衛兵につき出し、犯罪奴隷になったところで引き取ることにした。
そして、日本に帰れる時までこき使うということになった。
「それにしても、望んでこの世界に来たのに犯罪者になるなんて、俺には信じられませんね……」
「たぶん、何も知らずに神殿を出て、盗賊に襲われ仲間にしてほしいと懇願した、ということだろう。
本人たちは、スキルとかユニークスキルとか使っていなかったし……」
「何も自覚ないまま、盗賊になったんだ……」
「本人たちは、説明書読まないタイプだとか言っていたな……」
「……何か、助けなくてもいい気がしてきました」
「私も~」
気が抜けるというか、自業自得な気がしないでもない。
でも、一応日本人だしな、犯罪者として今度見たら助けよう……。
「ユウタさん、馬車が来ます!」
「端によって、避けようか」
「はい」
俺たち三人は、街道の端に避けると馬車の御者が手を上げて挨拶してくれた。
へぇ、ああいうふうに挨拶してくれるのか。
俺たちは、感心しながら街道を進んでいると、今度は人とすれ違う。
六人の冒険者のようだ。
全員、革鎧を着て、剣と盾を持って歩いていた。
何人かが、荷物の入ったカバンを持っていたが、荷物持ちなのかな?
会釈だけの挨拶をして、すれ違う。
向こうも、会釈だけのあいさつを返してくれる。
そのまますれ違い、俺たちはシュベリーへ向けて歩いていった。
シュベリーの町の門が見えると、その城壁の外で農作業をしている人たちを見かけるようになる。
シュベリーの外に畑を作り、そこで作物を作っているようだ。
魔物とかに襲われる心配はないのだろうか?
そう思いながらその畑の側を通ると、畑の端に変わった杭が打ち込まれていた。
動物の像を模ったものに、杭がついていて、杭の部分だけを地面に打ち込んでいる。
何だろうと、じろじろ見ていると、畑で作業している人が気づき声を掛けてきた。
「何かあるのかい?」
「いえ、ここに刺さっているのは何かと思いまして……」
そう言って、杭を指さすとその人は笑顔で説明してくれた。
「それは、魔物除けの杭だよ」
「魔物除けですか?」
「ああ、魔物除けだ。
それを打ち込んでおくと、魔物が寄ってこないんだ。
おかげで、町の外でも畑を作ることができるんだから便利なものだよ」
「へぇ~、シュベリーの町では、これを売っているんですか?」
「ああ、売ってるよ。
いい魔道具屋ができて、本当に大助かりだ」
「へぇ~」
いろいろと情報が聞けたので、お礼を言って街道に戻る。
すると、直人が話しかけてきた。
「ユウタさん、なぜあんな話をしたんですか?
俺たちは、農作業なんてしないのに……」
「直人、重要なのは魔道具屋の方だよ」
「魔道具屋?」
「あの魔物除けの杭、おかしいと思わない?」
直人は、う~んと考え始める。
また、一緒にさくらも考え始めた。
「……すみません、考えても分かりません」
「私も~」
直人もさくらもお手上げと、俺を見てくる。
「あの杭の先端にあった動物だけど、あれ、この世界にはいない動物なんだよ」
「え? そうなんですか?」
「ええ!?」
二人とも驚いて、離れた畑の杭がある場所を振り返って見た。
話しながら、歩いているのだからもう見えない場所まできてるぞ。
「か、確認できない」
「私、走って見てきていい?」
「ダメ、諦めろ」
「ぶ~」
頬を膨らませて怒るさくらは無視して、直人と話を進める。
「杭の先端の動物は、ウサギだった。
でも、この世界のウサギに似た動物は存在しない。
似たウサギは、魔物なんだよ」
「それじゃあ、先端にあったのは魔物のウサギに似たものだったのでは?」
「いや、確かに動物のウサギだった。
あの農家さんも、見たことない動物だって言っていたしな」
「でも、それじゃあ……」
「分からないか?
この世界にない動物を模った杭の魔道具。
それを作ったものは、この世界にない動物を知っているということ……」
「あ?! もしかして、日本人が作った?」
「当たり。
新しくできた魔道具屋が作ったって、あの農家さんも言っていた。
そして、この世界にない動物を模って作った杭。
答えはおのずと出るだろ?」
「その魔道具屋に、日本人がいるってことですね?」
「その通りだ」
このシュベリーの町には、地に足の着いた日本人がいるということだ。
しかも、魔道具を作っているということは、それ相応のユニークスキルも持っているということ。
一度、訪ねてみるのもいいだろう。
この町での、日本人の話が聞けるかもしれないし……。
「ユウタさん、もうすぐ町に入れますよ」
「この町の門も大きいね~」
シュベリーの町の門にいる門兵の人に、冒険者ギルドのカードを見せるとすんなりと通してくれる。
やはり、冒険者になっておいてよかったな。
さて、まずは冒険者ギルドへ行ってお金を少し降ろさないとな……。
読んでくれてありがとう。
これからも頑張ります。




