第74話 ダンジョンからの引き上げ
第五階層へ行った俺たちは、すぐに引き返しガンショップの扉を出して仲に引きこもった。
一応、作戦会議のためと、理由を付けてだ……。
「……主?」
「すまないな、ロバート。
ちょっと、みんなを落ち着かせてくれ……」
ガンショップの床に座りこんでいる。
カタカタ震えている者もいるが、今は少し気持ちの整理が必要だろう。
「……主、第五階層の魔物は何だったんだ?」
「ガイコツだ」
「ガイコツ? 人間の?」
「ああ、人間のガイコツだ。
それも、階層自体が屋敷の廊下のような造りになっていてな。
しかも、少し薄暗いんだ。
で、そこに人間のガイコツが登場すれば……」
俺が、床で座り込んで落ち込んでいるみんなを見渡すと、ロバートは俺が言いたいことが分かったらしい。
「こうなる、というわけか。
それにしても、主は落ち着いているな?」
「俺は何度か、ガイコツと戦闘経験があるからな。
まあでも、あの時と今回では演出が違っていたが……」
あの時は、氷の階層だったからある程度明るかったな。
だから、ガイコツが出て来ても魔物として対処できたわけか。
あれが、今回のような演出で出現すれば、俺もこうなっていたかもな……。
ある程度時間が経ってから、温かい飲み物をみんなに配ると気持ちの整理がついたようで、みんな落ち着いていた。
「さて、再び五階層へ挑もうと思うんだが……」
「む、無理だよ~」
「今は落ち着いてるけど、ガイコツ相手なんて無理!」
「私も、ホラーは苦手……」
ガイコツを相手にするのを嫌がるさくらたちを、無理矢理戦わすことはできないな。
ならば、このまま第五階層へ行かずに引き返すか?
レベル上げのために、第五階層へ向かおうとしていただけだしな。
このまま、今までの階層を引き上げながら戦っても、ある程度はレベル上げができるか……。
再び、スキルや魔法を覚えて挑むという手もある。
ならば、ここは退き時だな。
「分かった!
それなら、ここから上まで引き返すぞ!
魔物を倒しながら進めば、ある程度レベルも上がるだろうしな」
「やった!」
「さすが先輩! 考えてるぅ~」
ガイコツと戦いたくないといっていたさくらたちが、笑顔で喜んでいる。
かなり、苦手な魔物になってしまったな……。
「それじゃあ、気持ちが落ち着き次第出発だ!」
「「「「オー!」」」」
こうして、神殿近くにあるダンジョンの攻略が終わった。
次に、このダンジョンに挑むときは、スキルや魔法を覚えて来ることになるかもな……。
▽ ▽ ▽
ダンジョンから地上に出ると、すでに夕方だ。
神殿側に、温泉宿の扉を出現せて、今日はここで泊まりだ。
明日の朝、町へ向けて出発とすることにした。
俺は、温泉に浸かりながら考える。
このまま、大人数でパーティーを組むという選択はないだろう。
スキルや魔法を覚えれば、戦い方も変わってくる。
今回のダンジョンで、俺のレベルは六十を超えて七十近くになった。
みんなのレベルもまた、かなり上がっているはず。
そうなれば、それぞれで腕試しをしたくなるものだ。
そこへ、大人数で依頼をこなしても納得いかないだろう。
「ここは、少数のパーティーに別れて依頼をこなしていくのがいいはずだ。
となれば、クランを作るしかないな……」
「クラン、ですか?」
「おっと、直人いたのか」
直人が、一緒に温泉に浸かっていて、俺の独り言を聞いていたようだ。
クランを作ることに、少し考えている。
「いましたよ。
それより、クランを作るんですか?」
「ああ、俺たちで集めた日本人を保護するクランを作ろうと思ってな。
いつまでも、みんなで行動というわけにはいかないだろう?」
「ですよね。
ユウタさんたちは、これからも日本人を見つけるためにあちこち動くわけですから、仲間が増えていきますよね……」
そう、保護した日本人や声を掛けた日本人たちが仲間になるかは別だが、一緒のクランを作っておけば、何かあったとき連絡がしやすいとも思ったのだ。
居場所が分からないということだけは、避けたいかな。
「それに、もし日本に帰ることができるとなった時、連絡がすぐ着けば便利だろう?」
「確かに。
そう考えると、ますますクランを組むことを考えますね」
後でみんなと話し合うことで、俺は風呂から上がった。
これ以上は、のぼせてしまいそうだからだ……。
夕食後、みんなで話し合ったが概ねクラン設立には賛成だった。
だが、他の日本人を加えることに関しては反対意見が出る。
主に、直人たちだ。
一緒に異世界に来た時にいた、残りの四人の男子たち。
それが原因らしい。
「私は、あいつらとは組みたくない!」
「私も!」
「俺もです。
ユウタさんにはお世話になって、感謝しかないですけど、こればっかりは賛同できません。
日本人ってだけで、保護しなければならないとは限らないと思うんです」
直人が言うには、望んで異世界に来ている日本人もいるということ。
そして、今の生活に満足している者もいるということ。
そういう人たちは、日本へ帰ろうとは思わないのではないか。
……まあ、確かにそうだろうな。
こっちの世界で成功しているわけだし、今さら日本に帰ってどうなるというものでもない。
もしかしたら、辛い現実に帰ってきたことを後悔するかもしれないと……。
とりあえず、クランの設立は賛成されたので、作ることになった。
ただし、日本人全員の保護はしないことになった。
そして、一応居場所だけは分かるようにしようということになる。
何かあった時のためと、日本からの情報を教えるためだ。
今も、俺のユニークスキルで日本と繋がることはできるのだ。
新聞という形で、情報をやり取りできるかもしれない。
もしかすれば、携帯でのやり取りも可能になる時がくるかも……。
読んでくれてありがとう。
これからも頑張ります。




