第66話 お姉ちゃん
神殿を出ていく、粋がっていた三人を見送ると、俺たちは何事もなかったかのように神殿内の貼り紙の確認に戻った。
パーティーを組んだことで、お互いを意識している感じが何とも心地いい。
安心感があるんだよな。
神殿内の貼り紙には、メイド召喚のことがちゃんと書かれてあった。
それによれば、メイド召喚は二十六人にだけ与えられるスキルで、ちゃんとナンバリングがされている。
そして、そのナンバーは、A~Zまであるそうだ。
また、メイド召喚と同じ召喚に執事召喚も存在する。
これは、メイド召喚と同じような召喚だが、かなりレアなのか存在は確認しているものの召喚できるものは見つかっていない。
「この世界には、いろんな召喚スキルがあるんだな……」
「何か見つけたんですか? 先輩」
「いや、この貼り紙だよ。
例の、メイド召喚に書かれている貼り紙でな?
面白い追加情報もあった」
「……へぇ~、執事召喚ですか。
でも、こうなるといろんな召喚対象がいそうですよね」
そう言いながら、何やら考えている様子の熊野。
妄想はいいが、自分に関係ありそうな貼り紙は確認し終わったのか?
まあいいか。
俺は、この神殿近くのダンジョンについて書いてあった貼り紙を確認しに移動する。
その貼り紙は、中央の石碑の所にあった。
比較的新しい貼り紙だったから、見つけて間もないものなのだろう。
そして、貼り紙をして情報を提供した、と。
貼り紙によれば、ダンジョンの位置は神殿の裏手にあり、神殿を出てぐるりと回れば確認できるらしい。
階層は、十階層まで確認したがそれ以降は確認できていない。
各階層ごとに出現する魔物は違うが、ボスなどの強力な魔物の存在は十階層までは確認していない。
十階層以降で、もしかしたら出現するかもしれないとある。
「う~ん、十階層まで各階層ごとに出現する魔物が違う、か……」
「何です? 先輩、この貼り紙は……」
「神殿裏にある、ダンジョンの情報だ」
俺が、聞いてきた熊野に答えると興味を持ったようだ。
「ダンジョンですか~、異世界物には定番のレベル上げの場所ですね。
先輩たちは、行くんですか?」
「ああ、そのつもりだが……」
すると、熊野が困ったような表情で答える。
「私も、ダンジョンに行ってみたいんですけど鎧も武器もないんですよね~。
こんな状態で行ったら、足手まといになっちゃいますね」
「何だそんなことか、それなら大丈夫だ」
「……何か手があるんですか?」
「ああ。だから、今は貼り紙の確認を済ませてこい」
「……分かりました。
何をするか分かりませんが、先輩を信じますからね~」
「おう」
そう言って、貼り紙を確認するために俺の側を離れた。
その時、再び神殿の奥から光が現れた。
どうやら、また召喚者が現れたようだ……。
でも、こんなに頻繁に現れるようになっているのか?
熊野が教えてくれた情報に、間違いはないと言ことか……。
今度は、声は聞こえずゆっくりと一人の女性が現れた。
「……ん? どこかで見たことが「お姉ちゃん!?」」
その時、貼り紙を確認していた菜月が現れた女性を見て、大声で叫んだ。
「菜月? 菜月っ!!」
「お姉ちゃん?!」
また、現れた女性も、菜月を見て叫びお互い近づき抱き合っている。
お互いの存在を確かめ合うように、ギュッと抱きしめていた。
なるほど、どこかで見た顔だと思ったのは、菜月に少し似ていたからか。
彼女は、菜月の姉ということか……。
少し落ち着いたのか、今は二人でいろいろと話をしている。
それを見守る、ひよりたち。
直人が俺と熊野の側に来て、いろいろと説明をしてくれた。
「彼女は、菜月の姉で間違いないんだよな?」
「はい、名前は長谷川翔子。確か十九歳の大学生です。
姉妹仲が良くて、確か俺たちがここに来る前に唯一連絡していたと思います」
「なるほどな。
で、俺の報告から、こうして異世界に来たというわけか?」
「たぶんそうかと。
こうなると、俺たちの兄弟とか親がこっちに来てしまう可能性がありますね……」
「それはないわよ」
直人が、俺に自分が危惧したことを話すと菜月の姉、翔子さんが言ってきた。
「それってどういうことですか?」
「林君、だったわよね? 菜月と同級生の」
「はい、そうです」
「菜月と一緒に、こっちの世界に来たあなたたちの親兄弟がこっちに来ることはないわ。何故なら、私が代表としてきたの。
みんなの親や兄弟姉妹に頼まれてね」
「……え?」
翔子さんは、着ていた上着のポケットから何通もの手紙を取り出した。
「これは、あなたたちの親や兄弟姉妹から預かってきた手紙よ。
スマホとか近代的なものは持ち込めないと思ってね、手紙にしてもらったの。
でもよかった、私の考えていた通り手紙なら持ち込めると思ったわ……」
それで、手紙が持ち込めたのか……。
翔子さんは、直人にさくらや紗香、そしてひよりに手紙を渡すと俺の所に来た。
「あなたは、菜月たちの同級生じゃないわね?」
「俺は、神崎なな子探偵事務所所属の調査員、森島裕太です」
「同じく、調査員の熊野絵美です」
「探偵事務所の調査員ってことは、あなたがあの報告書をもたらした方ですか?」
「まあ、俺の報告書がどう扱われているのか分かりませんが、異世界に召喚されたとか報告したのは俺です」
そう言うと、翔子さんは頭を下げて俺を言ってくれた。
「ありがとうございました!
あなたの報告は、私たちに希望の光をくれました。
ずっと、ずっと探していても見つからなくて……」
「ああ、そんなことはしないでください。
俺たちは、調査、報告が仕事です。
あなたの妹さんを発見、保護したのは偶然なんですよ」
「それでも、お礼を言わせてください!」
そう言って、再び頭を下げる。
そんなにお礼を言われると、菜月の今の状況が説明しづらいです……。
読んでくれてありがとう。
これからも頑張ります。




