第63話 メイド召喚
次の日の朝、俺たちは宿を引き払って東に向けて街道を歩いている。
最初の神殿を目指すためだが、みんなそれぞれ足取りが重そうだ。
「何だかみんな、足取りが重そうだな……」
「……力が抜けたのよ。
日本に帰ることができないなんて……」
「そうよ、何が希望の扉よ。
私には、絶望の扉に見えたわ」
「……あのユウタさん、あの扉が完全に開くにはどうすればいいんですか?」
恨み節の菜月とひよりの様子に、直人が扉を開かせるための条件を聞いてきた。
たぶん、それで希望を持たせようとしているのだろう。
「転移の扉は、俺のレベルによって開く間隔が変わる。
今の俺のレベルが、三十五だから、開く間隔は三センチほど。
全開、もしくは人が通れるようにするには、一メートルは必要だと思う。
となると……」
「ん~、一メートルは百センチだから……。
レベル千以上!?」
「レベル千なんて、勇者並みじゃない!
そんなレベルになるまで、何百年かかるのよ?!」
「そうです! 今すぐ帰してください!
私たちを、日本へ帰してください!!」
「……」
レベル千以上とは、大変な道のりになるな……。
でも、何か手があるはずだ。
それに、全開までと考えれば、レベル千や二千ではすまなくなる。
「いや、何か手があるはずだ」
「手、ですか?」
「転移の扉を全開にすると考えれば、レベル千や二千ではすまないだろう?
だから、何かあるんじゃないかと思ってね……」
「確かにそうですね。
レベル千なんて、高すぎるレベル設定もおかしいと思いますし」
「レベル上げを頑張りながら、調べてみよう」
「ですね」
話をしながらも、神殿を目指して歩いている。
最初は、足取りが重かったみんなも神殿が見えてくるころには、普通に歩いていた。
「お、神殿が見えてきたぞ」
「あのユウタさん、神殿もそうですけど街道も魔物が出ることってないですよね?
何かあるんですかね?」
「確か、魔物除けが仕掛けられているとかどこかで聞いたことがあったような……」
「魔物除けですか?」
「ああ、そのおかげで安全に街道は進めるんで、乗合馬車とかがあると聞いたな」
「なるほど……」
「まあ、それでも盗賊は出るらしい」
「え、それって大丈夫なんですか?」
「盗賊は冒険者や、領主の兵士たちの巡回で何とかしているらしい。
だから、盗賊に会うことなんて「おい! そこの女連れの男二人!」」
もう少しで神殿という街道で、盗賊の集団に出くわした。
人数は五人。
いや、草むらから五人ほど盗賊が出てきた……。
「な、何々?!」
「何、こいつら……」
「ちょっ、ちょっと!」
みんな騒ぎながら、俺と直人の後ろに隠れるように集まる。
盗賊たちは、それぞれ剣などの武器をチラつかせながら、俺たちをニヤニヤしながら見てくる。
「フヒヒ、なかなかの上玉じゃねぇか?」
「ああ、スタイルもいいようだしかなりの値段で売れるだろうな」
「まあその前に、俺たちで味見をするんだがな!?」
「「「わははは」」」
何がおかしいのか、盗賊たちは笑っている。
というか、もう勝った気でいるのだろうか?
「おい、そこの男二人!」
「は、はい!」
「俺たちですか?」
「そうだ、まあそんなに怯えるな。
俺たちは、今お金に困ってんだ。
そこの女たちを、俺たちに差し出せば命だけは助けてやるぞ?」
「さあ、どうする?」
そんな条件出されても、のめるはずもないだろうに……。
何を考えているのか。
「ユ、ユウタさん、どうしましょうか?」
「どうしましょうかって、言うこと聞くわけにもいかないだろう?」
「そ、それじゃあ……」
「そ、戦うしか道はないね。
さくら、紗香、それと菜月、メイド召喚だ!」
「え、な、何言ってんのよ~」
「こんな時に、メイド召喚してどうすんのよ~」
「いいから召喚しろ!
必ず、助けになるはずだから!」
「わ、分かったわよ。
……いくよ、紗香」
「わ、分かった、さくら。
いいよね? 菜月」
「う、うん」
【【【メイド召喚!】】】
三人の召喚術が発動すると、地面に魔法陣が三つ現れる。
そして、その魔法陣からメイド服を着た女性が三人現れた。
それぞれの女性は、同じメイド服にもかかわらず髪形、顔つき、目の色とそれぞれで違っている。
そして、その手に持つ武器も違うのだ……。
召喚されたメイドたちは、唖然とする盗賊たちを置き去りにして、それぞれの召喚者の前に膝まづいた。
「お嬢様、ベルと申します。
この度は、召喚していただきありがとうございます。
誠心誠意、お嬢様をお守りいたします」
「は、はい、よろしく……」
「お嬢様、私はケイと申します。
召喚していただき、ありがとうございます。
お嬢様のお世話は、私にお任せくださいませ」
「よ、よろしくね、ケイ」
「お嬢様、よくぞ私こと、ソフィを召喚していただき、ありがとうございます。
お嬢様のお世話、護衛は、私にお任せくださいませ」
「よ、よろしく……」
三人のメイドは、さくらたちに挨拶を終えるとすぐに立ち上がり、盗賊から自分の主人を後ろに隠す。
そして、手に持つ刀を腰に構えた。
「ユ、ユウタさん、これって……」
「これが、ユニークスキル『メイド召喚』の正体だ。
召喚した主人に仕える、メイドであり護衛でもあるんだよ。
戦えるメイドってことなんだろう」
「す、すごく強そうですね!」
メイドたちに睨まれ、盗賊たちが立ち直る。
呆然としていた顔を両手で叩いて、正気に戻したのだ。
「おいおい、女が増えたぞてめぇら!!
いつまでぼ~っとしてんだ! 獲物が目の前にいるんだ!! 気合を入れろ!!」
「おっしゃあ!!」
「いいかぁ! 女は傷付けるなよ!!」
「へ、へへへ……」
盗賊たちも構えを取り、いつ戦闘が始まってもおかしくはない。
俺も、腰から銃を取り出し盗賊に向けて構えた。
また、みんなもそれぞれに武器を持ち、構えをとる……。
読んでくれてありがとう。
これからも頑張ります。




