第60話 異世界の病
奴隷商を出た俺たちは、すぐに脇道に入った。
「? どうしたんですか? ユウタさん」
「このまま、宿に帰るわけにもいかないだろ?」
「……ああ、確かに」
俺と直人の後ろにいる大勢の女性たちを見て、納得する。
こんな大勢で、宿に帰れば何を言われるか分かったものじゃない。
それに、宿泊料金も追加で支払わないといけなくなる。
俺は、医療院ホスピルの扉を召喚して、全員を中へ入れた。
「ここは、病院ですか?」
「ああ、ここは医療院ホスピル。
まあ、病院と同じと思ってくれ」
「ですけど、廃病院みたいですよ?」
「今は、人手不足で動いてないだけだよ。
決して、廃業しているわけじゃあない」
するとそこへ、一人の白衣を着た男性が歩いてきた。
「久しぶりだな、主殿。
今日は、どうしたんだ?」
「人手を集めてきたんだよ、ホーリー。
それと、見てもらいたい患者がいるんだけど……」
そう言って、俺の後ろの女性たちに視線を送る。
すると、ホーリーが笑顔で答えてくれる。
「これはありがたい、主殿。
それと、見てほしい患者は背負われている三人か?」
「ああ、三人とも病気みたいでな。
少し見てやってくれないか?」
「分かった。
それじゃあ、私について来てくれ」
そう言うと、踵を返してロビーを進んで行く。
待合室を通り、診察室へと入っていった。
また、ホーリーが歩いていくと、どんどんと明かりがついて行き歩きやすくなる。
なるほど、この医療院はホーリーそのものってことか。
診察室に入ると、診察台に背負われていた三人が寝かされる。
ただ、診察台は一つしかないためぎゅうぎゅうで寝かされている。
聴診器を当てて、呼吸や心臓の音を。
脈拍を図り、鑑定魔法を掛けた。
「なるほど、これは確かに病気だな」
「分かったのか?」
「ああ、この子たちは……、ちょっと狭いぞ? 主殿」
「分かった。
住まないが直人、優香、それとさくらと紗香、それに菜月とひよりは診察室の外にあった待合室で待っていてくれるか?」
「……病名は、教えてくれないの?」
「緊張しながら待ってたんだけど……」
「後で教えるから、外の待合室で待っていてくれ」
「は~い」
「絶対教えてよ~」
そう言いながら、さくらと紗香が外に出る。
それに続いて、菜月とひよりが診察室を出ていき、最後に直人と優香が出ていった。
「あ、あのご主人様。私たちも、外に出たほうがよろしいでしょうか?」
「えっと、君の名前は?」
「あ、私は、アンといいます」
「アンたちは、残っていてくれ。
後ほど、君たちにはここで働いてもらうことになるからね」
「こ、ここで、ですか?」
「そうだよ。
このホーリーについて、この施設のことやいろいろな勉強をしてほしいんだよ」
「ご、ご主人様の命令とあれば聞きますが……」
アンたちは、少し戸惑っているようだな。
今も、キョロキョロとこの場所を見回している。
まあ、この病院みたいな施設は、異世界には無いみたいだからな……。
「ついでだ、みんなの名前を教えてくれるか?」
「は、はい。私は、ポニーといいます」
「スージーです」
「ロロです」
「フィリーといいます」
「エラです」
「この子たちの名前は分かるか?」
「あ、私知っています。
手前から、アシュリー、シドニー、ベラです」
「そうか、ありがとう」
「い、いえ……」
エラは、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
人見知りするのか?
「それでホーリー、三人の病名を教えてくれるか?」
「ああ、この三人はホリレンブル病にかかっている」
「ホリレンブル病? 初めて聞いた病名だな……」
「ホリレンブル病は、まず風邪に似た症状が出る。
そして、その症状が百日ほど続いてから、臓器が溶け出す病気だ。
風邪によく似た症状の時に、分かれば対処は簡単なんだが、この子たちはすでに臓器が溶け始めている。
病気になってから、かなり放置されていたんだろう」
なんてことだ。
だが、風邪だと思ってあの奴隷商は扱っていたがなかなか治らず、廃棄するしかないところまできていたってことか。
「それで、治るのか?」
「ああ、治る。
まず、薬を注射で投入し風邪の症状を治す。
その後で、治癒魔法を掛ければ臓器も元に戻る。
で、完治だ」
「治るなら、安心だ。
ホーリー、彼女たちを治した後は、ここで働かせるからよろしく頼むぞ」
「了解した。
張りきって治させてもらおう」
ホーリーと握手を交わすと、診察室を後にする。
待合室に戻ると、直人たちが向かえてくれる。
「ユウタさん、それで彼女たちの病気は何だったんです?」
「ホリレンブル病というらしい」
「ホリレンブル病? 聞いたことない病気だ~」
「もしかして、地球にはない病気ですか?」
「みたいだな。
俺も聞いたことない病名だったし、治療の仕方も薬と魔法を使うそうだ」
「へぇ~」
やはり、異世界には異世界の病気が存在している。
ほぼ、治癒魔法で治ってしまう世界だからこそ、治癒魔法で治らない病気は不治の病のような扱いを受けているんだな。
「ところでさあ、菜月とひよりも私たちと一緒に戦うの?」
「友達なんだろ?
なら、一緒に戦った方がいいだろう」
「わあ、菜月とひよりも一緒に戦おう!
私たちこれから、ダンジョンに行ってレベル上げをする予定なんだよ」
「あいつらがいなければ、伸び伸びとレベル上げができるでしょ?
それに、もし再び会うことがあった時、レベルを上げておけば怖がることないよ!」
「そうそう。ここにいるユウタさんは、結構頼りになる人なんだよ」
「……私たちは、あなたに購入してもらったときからあなたの奴隷です。
あなたの方針に従います……。
でも! 夜の相手は、絶対にしませんからね!」
「私も、お断りです!」
菜月とひよりに、力強く断られた。
もとより、そんなこと思ってもみなかったが、少しショックを受けた。
女子高生に、手を出すつもりはないのに……。
読んでくれてありがとう。
これからも頑張ります。




