第57話 昔の仲間とお人好し
宿を出て、まずは冒険者ギルド近くにある武器屋へ向かう。
この武器屋は、防具も扱っていて初心者にはありがたい武器屋だ。
俺たちがその武器屋に入ると、午前中の時間帯にもかかわらず先客が何人かいた。
「さて、さくらと紗香の武器だが、本当に弓でいいのか?」
「そう言われると、困るんだよね~」
「弓が、扱いやすかったから使っていただけだし……」
「なら、他の武器も見て回るか」
そう言って、他の武器が置いてあるコナーにも足を運ぶ。
すると、先客の一人が話しかけてきた。
「あれ? 大塚さん?」
「え?! 林君……」
「久しぶりだね、大塚さん!
それにそっちは、鈴木さん!」
「え、さくらと紗香がいるの?
あ、ホントだ?! さくら! 紗香!」
高校生ぐらいの男が話しかけてきたと思ったら、その後ろからさくらたちと同じぐらいの年の女が飛び出して、さくらと紗香に抱き着いた。
どうやら、二人とも知り合いのようだ。
「……久しぶりだね、優香」
「優香……」
「どこいってたの?! あの時から、ずっと探してたんだよ?」
すると、さくらと紗香がキョロキョロと周りを気にし始める。
「大丈夫。私たち、伊藤君たちとは別れたの」
「え、本当に?」
「ああ、この世界に来てからのあいつらの態度がおかしくなっていてな、大塚さんたちともめたときもおかしかっただろ?
大塚さんたちがいなくなった後も、おかしくなって俺たちがついていけなくなったんだ」
「で、私たちはパーティーを抜けて今に至るってこと。
あいつらが今どうなっているかは、知らないわ」
「そう、伊藤たちはいないんだ……」
さくらが、伊藤という人物がいないことに安堵している。
何やら、仲間だった人たちともめたみたいだな。
「さくらと紗香は?
今、どうしているの? 食べていけてる?」
「あ~、私たち、奴隷になったんだよね……」
「ええ?! さくらと紗香、奴隷になったの?!」
「……ここにいるってことは、そこの人が主人ってことか?」
「そ、私たちと同じ日本人のユウタさんよ」
「奴隷商にいたところを、助けてもらったの」
「助けてもらったって、主人になっただけだろ?
解放してもらったわけでもないようだし……」
そう言って、俺を睨む林君。
さくらと紗香の側にいる優香さんも俺を睨んでいる。
……何だろう、すごく居心地が悪い。
「ちょ、ちょっと、私たちの恩人を睨まないでよ」
「こいつが解放すれば、済む話だろ?」
「済まないわよ! 私たち犯罪奴隷になっているんだから……」
「ええ?! ど、どういうことなの?」
それから、さくらと紗香は今までのことを話し始めた。
みんなと別れてから、二人でパーティーを組んで冒険者ギルドで依頼を受けるもののうまくいかず、受付嬢と問題を起こして捕まり、奴隷落ちしてしまった経緯を話す。
「そんなことになっていたんだ……」
「あの、すみません睨んでしまって……」
「誤解が解けたならいいよ。
それよりも、他の人たちはいいのか?」
「他の人?」
「ほら、伊藤君だっけ?」
「……伊藤たちのことは、分かりません。
別れてからは、なるべく会わないようにしていましたから……」
「急に言動がおかしくなって、周りに噛みつくようになったんだよね……」
「態度も偉そうになって、命令するようになっていたし……。
今、どうしているのか……」
「この町にいないの?」
「いないみたいだよ。
会わないようにしてきたけど、ずっと姿も見てないからな……」
林君たちの話では、町中でも見かけなくなったそうだ。
前は、町中で見かけたときは避けるように路地を曲がったりしたそうだが、最近はそれも無くなったという。
「それで、さくらと紗香はどうしてる?
ちゃんと、食べさせてもらってる?」
「そこは心配ないわよ。
ユウタさんは、ちゃんとしている人だもの」
「そうね、私たちのことを考えてくれているみたいよ」
「へぇ~」
まあ、さくらと紗香を購入してから何日も経っていないけど、ちゃんとはしているつもりだ。
それに、これからダンジョンに潜ってレベル上げをしていくつもりでもあるしな。
「あのユウタさん、俺たちとパーティーを組んでくれませんか?」
「ちょっと、林君」
「俺たちも、まずい状態なのは変わりないだろ?
大塚さんたちは、運よくユウタさんに拾われたけど、俺たちもこのままじゃあ……」
「……」
「優香、まずい状態なの?」
「……うん、借金がかなりあってね。
このままだと、奴隷落ちになるかもしれないの」
「返済期限はまだあるが、このままだと間に合わないかもしれないんだ」
そう言って、折れた剣を見せてくれた。
「昨日、ついに折れてしまったんだ。
ゴブリンと戦っている最中だったから、焦ったよ……」
「だ、大丈夫なの? けがは?」
「ケガはしてない。
でも、パ-ティーに迷惑を掛けてしまって追い出されてしまったんだ」
「それじゃあ、今後は二人だけで?」
「だから、ユウタさんに頼むんです。
俺たちと、パーティーを組んでくれませんか?
同じ日本人として、俺たちを助けてください! お願いします!」
「ユウタさん……」
頭を下げる林君と優香さん。
そして、縋るような目で見てくるさくらと紗香。
俺はため息を吐くと、パーティーを組むことを了承した。
「分かったよ、パーティーを組んでもいいよ」
「本当ですか? ありがとうございます!」
「ありがとうございます?!」
「やったね!」
「これからよろしくね!」
四人で喜んでいるが、俺ってお人好しなのかもしれないな……。
ただ、剣を持っていた林君は前衛なのだろう。
ただ、これからは盾を持って盾剣士として活躍してもらえないかなと、考えてしまう。
パーティーを組むことになった俺を含めた五人で、どんな戦い方かで装備も変わるか。
とりあえず、お金はある。
装備に魔法を考えてもいいかもしれないか……。
読んでくれてありがとう。
これからも頑張ります。




