第52話 温泉宿
ベッドの上で、笑い転げているさくらと紗香は無視して、俺はシェーラたちに質問する。
「シェーラたちは、何かできるか?」
「わ、私は、料理が得意です。
家では、母の手伝いでよく料理をしていました」
「トトは、料理か……。
他はどうだ? できる、もしくは得意だというものはないか?」
「私は、何でもできます。
妹たちを、養っていましたから……」
「シェーラだけで、妹たちの面倒を?」
「はい」
「そうか……。
リムはどうだ? 何かできることはあるか?」
「私は、特に何もなくて……」
「ん~、なら一緒に働いてもらう方がいいかもな」
「え? あのご主人様、一体何の話ですか?」
俺は、不安そうなシェーラを置いてベッドから立ち上がると、扉召喚を行う。
召喚する扉は…。
「【温泉旅館みなし屋の扉 召喚】」
そう唱えると、床に魔法陣が出現しそこから木でできた引き戸が出現した。
大きなガラスがはめ込まれていて、そこに白い文字で旅館みなし屋と書かれてあった。
「な、何、何々?!」
「これが、ユウタさんの扉召喚?!」
「ほえぇ~」
「す、すごい……」
俺は、すぐにシェーラたちの方を向くと声を掛けた。
「シェーラたちは、俺について来てくれ。
さくらと紗香はどうする?」
「もちろん、ついて行く!」
「私も!」
そう言われて、俺は少しうれしくなりながらも扉を引いた。
ガラガラという音がしながら、扉は横へスライドして行く。
俺がまず、中に入ると、シェーラたちは恐る恐る中へ入り、さくらと紗香はウキウキしながら中へ入ってきた。
そして、目の前に広がる光景に驚いていた。
「ようこそ、温泉旅館みなし屋へ、主様。
当旅館は今、人手不足のため休業中だと言っておいたはずですが?」
「その人手を連れてきたんだよ、カナデ。
こっちにいる、シェーラ、ステラ、リディア、リム、そしてトトの五人がここで働いてもらう者たちだ」
「あ、あのご主人様、働くって……」
「ああ、君たちには、この旅館で働いてもらおうと思ってな?
もちろん、給料も出すし休みもある。
仕事は、そこにいるカナデが教えてくれるはずだが……」
「もちろん、私が教えますし、スキルも身につけさせます。
いや~、さすが主様!
今日は、歓迎会を開きますよ~」
そう喜んで、旅館の奥へと走って行った。
和服姿だったのに、大丈夫だろうか?
「ユウタさん、私たちは?」
「そうそう、私たちはどうすればいいの?」
困った表情で、俺に寄ってくるさくらと紗香。
何も言われなかったことで、不安になっているのだろう。
「さくらと紗香には、俺と一緒にダンジョンに潜ってもらおうと思ってな。
それに、他にも来ている日本人について教えてもらいたかったし」
「まあ、いいけど」
「武器とか防具とかは、ユウタさん持ちになるの?」
「まあ、その辺はしょうがないから、明日にでも登録と武器防具を買いに行こう」
「了解!」
「頑張ります!」
嬉しそうに気合を入れる、さくらと紗香。
そこへ、旅館の奥からカナデが走って来た。
「さあ、みなさん! 温泉の用意ができましたよ。
主様も一緒に、入ってください!
そして、よく体を洗ってくださいね」
「「「「「え?!」」」」」
ポカンとする、シェーラの妹二人。
その横で、カナデの発言で驚いたシェーラたち。
さくらと紗香も、一緒に驚いていた。
「カナデ、ここって男女別々だろう?」
「もちろんそうですよ?
……あら? もしかして、期待させちゃいました?」
「ベ、べべべ別に、期待なんてしてないし~!」
「わ、私も同じだし~」
「あわわわ」
「あ、あの、あの……」
「ど、奴隷なら、しょうがないのかな……」
みんな混乱している。
とりあえず落ち着かせて、温泉に入って一息つこう。
身体洗って、今までの辛い思いを水に流そう……。
「とにかく、中に入ろうぜ……」
俺たちは、玄関で何をしているんだよ……。
▽ ▽ ▽
身体を洗って温泉に浸かり、ゆっくりする。
日本人として、温泉に浸かると本当に気持ちがいいね~。
すると、木の壁で遮られている隣の女湯から声が聞こえた。
おそらく、シェーラたちが喋っているのだろう。
これから、この温泉宿で働いてもらうんだ。
みんな仲良くなってほしいね……。
『すごいです。
髪も肌も、艶々です。
シェーラも、どうです?」
『ええ、私も使ってみて驚いているわ、トト』
『リムも、艶々ですよ~』
『そうでしょう、そうでしょう。
シャンプーとリンスにボディソープを使えば、髪も肌もきれいになるのよ』
『それにしても驚いたわ、さくら。
ユウタさんが、温泉旅館の扉を召喚するなんて……』
『扉召喚。少しバカにしていたけど、もしかしてものすごく便利な召喚スキルかもしれないわね』
やや間があって、リムの声が聞こえる。
『そういえば、お二人はご主人様と同郷なのですか?』
『同郷、になるわね』
『そうね、出身は同じね』
『? どういうことですか?』
『私たちの故郷はね、島国なのよ。
その中でも、少し離れているってことね』
『同じ村や町出身、というわけではないのよ。
でも、同じ国だから懐かしいわね~』
そこからは、それぞれの故郷の話になっていた。
さくらや紗香の話からは、日本に帰りたいという気持ちは伝わった。
とりあえず、いつまでも盗み聞きはよくないと思い風呂から出ることに。
露天風呂から出て脱衣所へ入り、バスタオルで体を拭く。
そして、アイテムボックスから着替えなどを出して着替えると、お風呂を出た。
「主様、食事の用意ができてますよ。
こちらの大広間に、お越しください」
「ありがとう、カナデ」
廊下で待っていたカナデに、大広間の場所を教えてもらい移動する。
カナデはおそらく、女性陣を待っているんだろう。
いろいろと、教えることがあるんだろうな……。
読んでくれてありがとう。
これからも頑張ります。




