第51話 日本人召喚者
奴隷商の店を出ると、すでに日が傾きかけていた。
俺は七人の奴隷たちを連れて、近くの宿屋に入った。
近くといっても、奴隷商の店からはまっすぐ大通りへ向けて行った先にある宿屋で、今まで泊まった宿とは違い結構大きい。
宿に入ると、ロビーがあってフロントがある。
「すみません、泊まりたいんですが大丈夫ですか?」
「え~と、大丈夫ですよ。
何泊お泊りですか?」
「三泊でお願いします」
「全員一緒の部屋で、よろしいですか?」
「はい、それでお願いします」
「え~と、それですと、一番大きな六人部屋をご用意することになりますが……」
「お幾らですか?」
「六人部屋は、一泊銀貨十枚となりますので、三日で銀貨三十枚ですね」
「では、これで……」
俺は、アイテムボックスから金貨一枚を出し支払う。
「はい、金貨一枚確かに。
では、お釣りの銀貨七十枚です。お確かめください」
対応してくれた男からカウンターに並べられた銀貨を数えて、確かに七十枚あると分かると、アイテムボックスに収納した。
「では、こちらが鍵になります。
部屋は、三階の階段近くの部屋の三〇二号室です。
すぐに分かりますので」
「ありがとうございます」
鍵を受け取り、階段を上って三階へ。
そして、階段の近くにあった三〇二号室の扉を開けて、みんなで中へ入る。
七人の女の子たちは、奴隷商からずっと喋らずついて来ていた。
「さて」
部屋に入ってすぐに俺が喋ると、女の子たちはビクッと怯え始める。
そう怯えなくてもいいのだが、それは仕方ないことだろう。
「まずは、自己紹介をしておこうか。
俺の名前は、森島裕太。ユウタと呼んでくれ」
「森島……、本当に日本人だったんだ」
「も、森島さん、私たちを助けてくれて本当にありがとう!
あんな所に捕まって、ずっと心細かったんです……」
「本当に、ありがとうございます!」
そうお礼を言うと、大塚さくらと鈴木紗香は泣き出した。
二人抱き合い、他の奴隷の女の子が見ている前で泣いていた。
「お、お姉ちゃん……」
「お姉……」
「うん、うん……」
今度は、シェーラさん姉妹が抱き合って泣いている。
お互いバラバラにならずに買われたこと、無事でいたことで安心して鳴いているのだろうか?
さらに、トトとリムの二人も俯いて、静かに泣いているようだ。
ここは少し時間を置くか……。
全員が泣き止むまで、十分ほどかかったが漸く緊張が解けたみたいだ。
「あ、あの、私はシェーラと言います。
この子たちは、私の妹でステラとリディアです。
どうか、末永くよろしくお願いします、ご主人様」
「よ、よろしくお願いします」
「お願いします」
「あ、ああ、よろしく。
シェーラ、ステラ、リディア」
「ご主人様、私はトトと言います。
成人したばかりですが、しっかりご奉仕しますのでよろしくお願いします」
「よ、よろしく、トト」
「初めまして、リムと言います。
村から、口減らしとして売られてきました。
ご主人様だけが頼りです。お願いします、捨てないでください……」
「だ、大丈夫だ、捨てたりしないから。
これからもよろしく、リム」
シェーラたちの自己紹介を聞いているとき、サクラと紗香の目がまるで汚物を見るような目で俺を見てくる。
何だろう、君たちを助けたはずなのに責められている感じだ。
「あ~、私たちも自己紹介した方がいい?」
「できれば頼む」
「コホン、私は大塚さくら。呼ぶときは、サクラでいいわ。
少し前に冒険者をしていたんだけどうまくいかなくて、何度も依頼を失敗して、受付嬢に嫌味を言われたの。
それで、その受付嬢を叩いたらこうなってしまったというわけ」
「私は、鈴木紗香。呼ぶときは、サヤカで。
私も冒険者をしていたんだけど、さくらのとばっちりでこうして今に至るってわけね」
「な、なるほど……」
少し頭の痛くなる二人だが、たぶん大丈夫だろう。
それと、確認しておかないといけないことがあるんだよな。
「ところで、さくらと紗香は二人でこの世界に来たのか?」
「いいえ、クラスメートと一緒によ」
「私たちの他に、十人ほどのクラスメートと一緒に来ました」
「その十人は、今何しているのか分かるか?」
「う~ん、一緒に冒険者になったのは分かるけど、その後は分からないわ」
「私も。
みんなそれぞれでパーティーを組んで、依頼を受けていたから分からないわね。
冒険者になった後は、連絡もしてなかったし……」
ということは、冒険者になったのは知っているが、その後は知らないってことか。
今も生きて、冒険者をしていてくれればいいんだけどな。
この二人のことがあるから、どこかで奴隷落ちしてないか、もしかして死んでないか心配になるな……。
「それじゃあ、二人のユニークスキルを教えてくれるか?」
「私たちの?
いいよ、私のユニークスキルは『メイド召喚』よ。
このスキルを使うと、メイドが出て来て私を守ってくれるの。
採取以来の時とか、便利だったわね」
「私のユニークスキルも、さくらと同じ『メイド召喚』よ。
使い勝手は、言うまでもなく採取の時に便利なだけね」
「みんなは、どんなスキルを貰ったのかしら?
そうだ、ユウタさんのユニークスキルは何?」
「そんなにお金を持っているってことは、かなりのスキルなんでしょ?」
さくらと紗香は、興味津々に俺のユニークスキルのことを聞いてくる。
普通は、信用できるものにでも話さないものなんだが、そういう警戒心は無いみたいだな。
「俺のユニークスキルは、扉召喚だな。
いろんな扉が召喚できるぞ」
「「……」」
少し沈黙があった後、二人して笑い始めた。
「あっははは、ユウタさん、と、扉召喚って!」
「それ、それ、面白すぎる~!」
笑われるようなスキルでもないんだがな。
扉召喚の真の力を知ってしまうと……。
読んでくれてありがとう。
これからも頑張ります。




