第47話 資金調達
「久しぶりだな、主殿。
また、来るとは言っていたが、こんなに早く来るとは思わなかったぞ?」
次の日の朝早く、俺は扉紹介屋の扉を召喚した。
邪魔されないようにと思って、こんな時間になってしまったのだが……。
「今回は、別の用件で扉を紹介してほしくてな」
「フム、それで、どんな扉を紹介してほしいんだ?」
「宝物庫の扉を紹介してほしい」
「宝物庫となると、お宝いっぱいか、それともお金いっぱいかだが?」
「今回は、お金いっぱいで頼む」
「そうなると、泥棒ということになるぞ?」
ん~、犯罪者になるのは避けたいんだよな。
犯罪者となると、他の町へ行けなくなるから……。
「泥棒にならない、お金いっぱいの扉はないか?」
「ん~、いくつかあるが、この世界の扉か? それとも主殿の世界での扉か?」
「この世界の扉で」
この扉の契約精霊ガンゼスは、椅子に座り目の前の空間を指で操作している。
おそらく、あそこに操作盤とか検索盤が出ているのだろう。
俺には見えないんだが……。
「そうなると、遺跡の扉ということになるな……。
お金いっぱいの扉となると……これだな」
すると、床から赤い扉がせりあがってきた。
だが、かなりボロボロの状態だ。
「これは?」
「主殿の要望通りの扉だ。
お金がいっぱいあり、かつ泥棒扱いにならない扉。
そして、今の主殿のレベルと魔力を考えてこれをチョイスした」
「ありがとう、ガンゼス。
開けていいのか?」
「ああ、開けて扉の向こうにあるお金を、アイテムボックスに収納したらすぐに戻ってきてくれよ?
危ないからな」
「危ない?」
「これから行く先は、忘れ去られたある遺跡の宝物庫だ。
魔物はいないが、罠があるかもしれない。
だから、すぐに帰ってくるように、ということだ」
「わ、分かった……」
俺は、少し躊躇したが、ドアノブを掴んで回し扉を開けた。
ギィ~という錆びた蝶番の音が響いたが、開けた先は少し明るかった。
そのため、中が確認できる。
白い布袋に、溢れるように金貨が入っているのが見えた。
その白い袋が、見えるだけでも十袋以上あるようだ。
俺は、慎重に中へ入ると次々と白い袋をアイテムボックスに収納していく。
ふと白い袋を持ち上げようと、手で掴むとバリッと破れてしまった。
どうやら、かなり布袋が劣化しているようだ。
アイテムボックスへの収納が一番確実だな……。
部屋いっぱいの、白い布袋をアイテムボックスへ収納していると、白い布袋に隠されるようにあった扉を発見した。
これも、赤い扉だが金属でできている扉のようだ。
だが、ところどころ腐食しているのか、穴が開いている。
とりあえず、部屋にある布袋を収納してから考えようと、扉をそのままにして布袋の回収に専念した。
そして、布袋を回収し終わると、その金属の扉の前に立った。
俺がドアノブに手を掛けた瞬間、後ろからガンゼスの声を響く。
「ちょっと待った、主殿!
その扉の開閉は、契約違反になるぞ?」
「え、そうなのか?」
「ああ、今回の主の目的はお金いっぱいの扉だったはずだ。
他の扉を開けるという条件はなかった。
だから、それを開けると、契約違反になりこっちの扉が消えてしまうぜ?」
俺はそれを聞いて、すぐにドアノブから手を離した。
そして、すぐに入ってきた扉に移動し、気になりながらも扉を潜る。
扉紹介屋の店内に戻ると、さっきまで金貨いっぱいの布袋を回収していた部屋の扉が消える。
どうやら、契約違反にはならなかったようだ。
「……」
「どうした、主殿。
あの扉の先が気になるのかい?」
「ああ、あの先はどうなっていたのか……」
「フフ、あの扉の先は魔物の巣だぜ」
「え? ガンゼス、知っているのか?」
「主殿の潜った扉は、忘れ去られた遺跡の扉とはいえ、魔物が巣くっていることにはかわりないんだ。
所謂、遺跡ダンジョンってところか。
だから、もし誰かがその遺跡を見つけてダンジョンに潜ってあの扉を見つけても、中にあるお宝は何もないってことだ。
まあ、他にもあるみたいだから、何もないってのは言いすぎだがな……」
そうか、本来ならその人が発見するものを、俺が回収してしまったってことか。
何だか、複雑な気分だ……。
「お、主殿、落ち込んでいるのか?
優しいねぇ~。だが、世の中食うか食われるかの弱肉強食な世界だ。
お宝は、どんなやり方にせよ見つけたもん勝ちなんだぜ?」
「そんなに割り切って、考えられないよ、俺は」
「そうかい?
ところで、回収したお金はいくらあるのか数えたか?」
「いや、まだだが……」
「ちゃんと数えておいた方がいいぜ?
何せ、遺跡の金貨だ。そのまま使うことなんてできやしない。
だから、換金する必要があるわけだ」
そうか、遺跡の金貨ということは昔のお金。
今のお金とは違う価値というわけだ。
それなら、冒険者ギルドなんかにもっていった方が価値があるのかもしれないが……。
「ん~、この金貨を鋳つぶして金塊として扱えないかな?」
「主殿は、金貨は金だけでできていると思っているのか?
金貨は、金以外の金属も混ざっているんだ。
鋳つぶしただけでは、金塊にならないぞ」
「……何か、お金よりお宝の方がいい気がしてきたぞ」
「まあ、換金を考えるとお金よりお宝だな、主殿。
こんな失敗も経験だ、次は頑張れ!」
ガンゼスは、そう言っていい笑顔で俺の肩を叩く。
扉召喚って、結構深いのかも……。
はあ、この金貨どうしようかな……。
読んでくれてありがとう。
これからも頑張ります。




