第37話 ダンジョン探索 前日
その日の夕方、馬車一行は目的地、スノーブレンという山の麓にあるダンジョン側の研究所へと到着した。
「おお、待っていたよ」
「聖剣の集いのリーダー、ガーロンドだ。
あなたたち研究者が出した依頼、遺跡ダンジョン内の調査と採取の件で少し話がある」
「ならば、こちらへどうぞ。
レイラ、他の皆さんを宿にご案内してあげてくれ」
「分かりましたー」
研究所と言われる大きな建物の中へ、最初に声を掛けた研究者とリーダーのガーロンドは中へ入っていった。
それと入れ違いで、建物から出てきた女性が俺たち全員を宿へ案内してくれる。
「こちらへどうぞ~」
そう言って、馬車五台を先導し宿へと連れてきてくれた。
といっても、研究所のすぐ隣にある建物だったのだが……。
その建物の中に入ると、大きなロビーがあり、まるでホテルのようだ。
そこの受付にレイラさんが話を通しテ、人数分の部屋の鍵を用意してくれた。
俺は、二階の一番端の部屋だ。
どうやら、女性たちが三階で、男どもは二階に振り分けられたようだ。
「それじゃあ、明日の朝九時に、ダンジョン前に集合だ。
ポーターは、このロビーに集合してくれ。
ダンジョン探索の時に運ぶための、荷物を用意してもらうからな。
それじゃあ、今日はお疲れ様。解散!」
「「「お疲れ様です!」」」
聖剣の集いのメンバーが、声を掛け合って解散していく。
俺たちポーターも、この場は解散して明日、このロビーに集合だ。
「な、エリカ。この後一緒に、食事でもどうだ?
いろいろ話とか聞きたいしさ……」
「ごめんアーバン。
クーデリアと約束があるの。また今度ねぇ」
「では、失礼します」
そう言って、エリカとクーデリアの二人は連れ立っていなくなる。
たぶん、クーデリアの武器の調達だろう。
馬車の中でも、そう言っていたし……。
アーバンは、二人を見送ると俺を睨んできた。
「おい、いい気味だって思ってんだろ」
「何のことだ?」
「エリカに振られたことだよ。
お前も狙ってんだろ? エリカとクーデリアのこと……」
「同じポーターの依頼を受けた、仲間としか思ってないよ」
「嘘つけ! エリカやクーデリアの胸や尻ばかり追いかけていたくせに!」
それは、お前だろ? アーバン。
馬車で、二人と喋りながら見えないところで、手をワキワキさせていたじゃねぇか……。
「いいか! エリカとクーデリアは俺のものだ。
お前のようなブサイクより、俺のようなイケメンの方がふさわしい。
二度と、嫌らしい目で見るなよな!」
そう言うと、宿の二階へ通じる階段を上がって行った。
一体何なんだ、あの男は……。
俺は、ため息を吐きながら自分の部屋へと向かうため階段を上がって行った……。
次の日の朝、俺は部屋に召喚した自分のマンションの扉から出てくる。
「それじゃあ、行ってくるよ、アニス」
「行ってらっしゃいませ、主様」
そう言葉を交わし、扉を閉め送還する。
やっぱり、自分の家のベッドが一番だな。
昔、給料奮発していいものを買ったかいがあった。
目覚めが、まったく違うんだよな~。
準備を終えた俺は、時間を確認し午前七時だと知る。
おそらく、この時間帯に朝食の誘いが……。
そう思っていると、ドアがノックされた。
「はい!」
『あ、起きてらしたんですね。
朝食の用意ができていますから、一階の食堂まで来てください』
「分かりました、ありがとうございます」
『いえ、これも仕事ですので』
そう返事をすると、ドアの前から気配が消える。
おそらく、次の人を呼びに奥へ行ったのだろう。
俺は部屋の中を見渡し、忘れ物がないかを確認後、部屋のドアの鍵を開けて部屋を出た。
そして、再び鍵を閉めると、一階へと急ぐ。
朝食を食べるためだ。
一階に降りて食堂へ入ると、すでに聖剣の集いのメンバーや同じポーターのエリカとクーデリアがいた。
みんな食事をとっている。
「あら、ユウタ、こっちに座って早く食べなさい」
「ユウタさん、おはようございます」
「おはようございます、エリカ、クーデリア。
二人とも、早いんだな」
「何言ってるの、遅いぐらいよ」
「そうだよユウタさん、聖剣の集いのメンバーさんたちは、私たちよりも早かったんだから……」
「へぇ~」
そこへ、朝食が運ばれてきた。
パンに目玉焼きにサラダに、紅茶だ。
メニュー表によれば、基本、朝食はこのセットらしい。
で、追加でいろいろみんな頼むのだとか。
まあ俺は頼まなかった。
何故なら、アニスの朝食を食べてきたからそんなに入らないのだ。
傍から見れば、少食に見えたかもしれないな。
運ばれてきた朝食を食べていると、俺たちの点呼を取っていたジョーさんがメンバー全員に声を掛けた。
「それじゃあ、各々準備を怠らないでくれ!
ポーターの四人は、この後ロビーに集合だ。
運んでもらう荷物を、それぞれのアイテムボックスや無限鞄に納めてもらう。
エリか、采配を頼むぞ」
「はい、分かりました」
「それじゃあ、あと一時間後にはダンジョン前に集合だ。
みんな、今日からしっかり働いてくれよ!!」
「「「「「おおー!」」」」」
メンバーの人たちが席を立ったり、その場で紅茶やコーヒーなどを堪能したりと、各々で過ごそうとしていると、大欠伸をしながらアーバンが現れた。
そして、俺の隣に座ると朝食を給仕のお姉さんに頼んでいた。
「おはよう、エリカ、クーデリア」
「……あんたねぇ、もう少し早く起きなさいよ。
もうみんな、準備に入っているわよ?」
「え、マジで?
みんな早いんだな~。俺も見習わないとな~」
そんな風におどけて、運ばれてきた朝食に手を付けた。
どうやら、アーバンは朝が苦手のようだ。
「ところで、朝食の後はどうすればいいんだ?」
「食べたら、ロビーの集合でしょ?
ダンジョンに運ぶための荷物を受け取って、ダンジョン前に集合しているメンバーと合流。
そして、一緒にダンジョンへ行くことになるわ」
「緊張します、エリカさん……」
「大丈夫よ、クーデリア。
私たちポーターは、基本後ろに下がって自分たちを守ることに専念すればいいのよ」
「わ、分かりました」
すると、朝食を食べながらアーバンが、クーデリアに笑顔で話しかける。
「大丈夫だよ。
俺の結界で、エリカもクーデリアも守って見せるからさ」
「そうね、アーバンの結界があれば大丈夫でしょう」
「よろしくお願いします」
「はいよ、任されました~」
そう言っておどけるアーバンだが、その結界に俺は入っているのか?
何だか、本当に嫌な予感しかしないな……。
読んでくれてありがとう。
これからも頑張ります。




