第36話 ポーターたち
次の日の午前七時五十分ごろ、北門の外では五台の馬車と十人ほどの冒険者が集まっていた。
そして、懐中時計を取り出して見ている人を発見。
おそらくあの人が、募集をした人だろう。
「あの、ポーター募集の貼り紙を見て応募したものですが……」
「おお、募集に応じてくれた冒険者か。
俺は、パーティーの人員担当のジョーだ。
君の名前は?」
「ユウタです。
アイテムボックスのスキルを持っていたので、応募しました」
「それはありがとう。
だが、もう少し待ってくれるか?
募集したポーターの数は四人。今来ているのは、ユウタを入れて三人だ。
最後の一人が来ていない」
「分かりました」
「一番最後の馬車に乗ってくれ。
他のポーターも乗っているから、自己紹介を済ませておくといい」
「はい、分かりました」
そう返事をして、俺は五台ある馬車の最後尾の馬車に移動した。
最後尾の馬車の荷台を覗くと、二人の女性が座って話していた。
「あの、ポーターのユウタと言います。
今回は、よろしくお願いします」
「ああ、私はエリカよ。
何度か、このパーティーには参加しているから分からないことがあったら聞きなさい」
「私は、クーデリアです。
今回が初めてで、今、エリカさんにいろいろ質問していた所でした」
「そうでしたか、俺も初参加なのでよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「それでユウタ、あなたが最後だったの?」
「いえ、もう一人ポーターがいるみたいですよ」
「そうなの……、あ、時間だ」
エリかは、自分の懐中時計を取り出して時間を確認すると、午前八時になったことを知らせてくれた。
遅刻か? それとも、このメンバーで出発か?
そう考えていた時、北門から走って近づいてくる男がいた。
「す、すみませ~~ん」
「遅い! 時間厳守だと聞いていないのか!」
「す、すみません! 受付嬢のリンさんから……」
「もういい、早く馬車に乗れ! 最後尾の馬車だ。
すでに、他のポーターはそろっているぞ!
挨拶と自己紹介を済ませておけよ!」
「は、はい!」
「ガーロンド、ポーターは全員揃った。出発だ!」
「了解!」
そう声が聞こえて、次々と馬車が出発していく音が聞こえる中、最後のポーターが、荷台に上がってきた。
「お、お待たせしました。
ポーターに応募した、アーバンと言います。
よろしくお願いします」
「私はエリカよ」
「クーデリアと言います、よろしくお願いします」
「ユウタです、よろしくお願いします」
全員で挨拶すると、アーバンはエリカとクーデリアが座っている方へ座った。
「ちょっと、バランスを考えなさい。
アーバンは、ユウタの隣よ」
「あ、ハイハイ」
そう言って、俺の隣に座り直す。
そしてすぐに、俺のことをジロジロと下から上へと眺めて、フッと笑みを浮かべた、気がした。
何だ?
その間にも、馬車が動き出し揺れ始める。
「さて、馬車も出発したし、今回のダンジョン探索に関する説明をするわよ?」
「エリカは、ポーターのリーダーなのかい?」
「私が、一番経験があるってだけよ。
このパーティーのポーターには、何度か参加しているからね」
「なるほど、続けて」
「……まず、今回潜るダンジョンは北のスノーブレンという山の麓にあるダンジョンよ。
凍り付いた遺跡がダンジョン化したものだから、防寒着を用意したでしょ?」
「はい、用意する物の中に記載されてました」
「クーデリアは、ちゃんと読んでいるのね。
ユウタは、用意している?」
「はい、用意してきました」
「アーバンは、持ってきているわよね?」
「あ~、あ、あった。
ちゃんと持ってきているよ」
アーバンは、肩から下げていた鞄の中を探って、防寒着を取り出す。
どうやら、アーバンは無限鞄を持っているようだ。
「今は仕舞っておきなさい。
ダンジョンに入ってから、それを着ればいいわ」
「分かった」
「今回探索するのは、『聖剣の集い』というパーティーで冒険者の中でも、トップクラスのミスリルランクの人が、四人もいるパーティーよ」
「ミスリルランクが四人! すごい!」
「パーティーの人数は、私たちを抜いて十人いるわ。
だから、私たちは絶対のポーターに徹すること。
戦闘に参加なんて、邪魔になるだけよ」
「ですね、分かりました」
「了解です」
「は~い」
「あと、私たちが運ぶ荷物だけど、現地に置いてあるから、その時に渡されるみたいね」
「現地に、ですか?」
「ええ、ダンジョンは遺跡がダンジョン化した物。
学者たちの研究所が、その近くにあるのよ。
そこに、荷物は届けられたみたいね」
エリカの話では、その学者たちの依頼でダンジョン探索に潜るようだ。
そのため、ポーターが運ぶ荷物はその研究所宛てに届けられて、俺たちに渡される予定なのだとか。
「そして、私たちが主に運ぶものは、ダンジョン内で発見、採掘された調度品などを運んでもらうことになるわ」
「何だ、お宝じゃないのか……」
「発掘品も、今回の依頼者である学者にとってはお宝よ。
それに、ダンジョンなら財宝もあるでしょうし、それを運ぶこともあるわよ」
「そうだよな!
ダンジョンなら、そういう財宝もあるよな~」
何だか、変な奴だなアーバンって。
「それと、あなたたちは自分を守るための武器は用意してあるの?」
「私は、光魔法が使えるので魔法で防御を……」
「クーデリア、とっさに魔法なんて無理よ。
何か、武器か盾を用意しておいた方がいいわよ?」
「で、でも、今、それを言われても……」
「向こうに着いたら、研究所に置いてあるものを借りましょう。
私も選ぶの手伝うわよ」
「は、はい、お願いします」
「ユウタは、何か持ってきたの?」
「俺は、この銃を持っています」
「へぇ~、銃なんて珍しいわね。
予備の弾はあるの?」
「大丈夫です」
昨日の夜、ガンショップの扉を開いて、用意したからな。
足りるはずだ。
「アーバンは、何か用意している?」
「俺はこれ、結界の魔道具。
これで、結界を張って敵から身を守れるってわけだ」
「魔道具なら、詠唱とかいらないからとっさの時に役立ちそうね」
「ああ、任せておけ」
クーデリアの方を見て、アピールするように言っている。
いざとなったら、俺が守ってやるってことかな?
クーデリアも、それを見て、頼もしく思えているようだ。
そして、エリカの印象も、最初の頃とは少し違うように思える。
ん~、これは何となく嫌な予感がするな……。
読んでくれてありがとう。
これからも頑張ります。




