第28話 新しい扉 後編
朝、俺は眠い目をシャキッとさせるため、寝室から洗面所へ移動する。
その時、リビングを通れば、メイドと挨拶を交わした。
「おはようございます、主様」
「おはよう、アニス」
「早く顔を洗ってきてくださいね?」
「ああ、そうするよ」
歩きながら会話を交わし、洗面所へ移動する。
そして顔を洗い、家にメイドがいるといいな~と再確認するのだ。
再び、リビングに戻ると、今度は朝食となる。
メイドのアニスと一緒に、料理をテーブルに並べると椅子に座り、手を合わせた。
「いただきます」
「はい、いただきます」
今日の朝食は、少しこんがりなトーストに、両面を焼いた目玉焼き。
柔らかく焼いたベーコンに、野菜サラダだ。
飲み物は、コーヒーを注いである。
まずはコーヒーを飲み、それからトーストをかじるのが俺のいつもの食べ方だ。
「そういえば主様、レベルが上がってスーパー大月の扉を出せるようになりましたね」
「ん? ああ、そういえばそうだな。
それがどうかしたの?」
「いえ、スーパー大月の扉があれば、買い物も楽になると思って」
「え? 召喚できる扉同士、干渉することができるのか?」
「はい、行き来はできます。
ですから、今朝の朝食に卵が出てきているでしょ?」
「ああ、そういえば!
朝市での買い物では、卵は売ってなかったからな……」
「品揃えは、少ししかありませんでしたが、ある程度はそろいますから」
「お米は、売っていたの?」
「はい、ですからすでに確保してありますよ」
「おお、今日は米料理の夕飯がいいな~」
「はい、ではそのように」
「ありがとう、アニス」
美味しい朝食を終えて、俺は着替えて宿の部屋に戻ってきた。
昨日、自分のマンションの扉を召喚した時と違い、魔力も体力も満タンだ。
まずは、一階に降りてもう一晩泊めさせてもらおう。
「ああお客さん、出発かい?」
「いや、もう一晩泊めてもらえないかと思ってね?」
「こちとら商売だ。貰えるものを貰えれば、問題ないよ」
「では、もう一晩のお金を……」
「はい、まいど。
部屋は、今使っている部屋でいいのかい?」
「ああ、同じで頼む」
「はいよ」
すんなりと、同じ部屋に泊まれることになった。
もちろん、素泊まりなので食事などは別料金だ。
早速俺は部屋に戻り、中に入って鍵をかけ、扉召喚をする。
まずは、ホテルの扉を召喚だ。
「【ホテルビリーブの扉 召喚】」
そう唱えると、床にいつもの二倍の大きさの魔法陣が出現した。
そして、そこから出てくる扉は……。
「か、回転扉?!」
そう、回転扉の侵入口が表れたため、その分場所を取ったのだ。
俺は恐る恐る回転扉に入り、中へ進むと広いロビーに出た。
天井も高く、まさに豪華ホテルのロビーだ。
キョロキョロと、ホテルのロビーを眺めているとフロントのカウンターから声を掛けられた。
「主様、ようこそホテルビリーブへ。
私が、ここの支配人を務めます契約精霊のセリーヌです。
ですが、主様には申し訳ございませんが、ここを利用することはできません」
「ん? それはどうして?」
「人手が足りないからです。
現在、このホテルには私しかおりません。
そのため、ここを営業できる状態にするには全く人手が足りないのです。
ですから、主様にお願いがあります」
「それは、もっとレベルを上げてほしいと?」
「それは、このホテルの施設増設には必要ですが、人手不足の解消にはなりません。
私が言いたいのは、ここで働いてくれる人を集めてほしいということです」
「人手か……」
「奴隷でも何でも構いませんので、集めてもらえますか?」
「それはもちろん。
でも、従業員となると教育が必要だよね?」
「それは、私が責任もっていたしますのでご心配なく」
「よし、ならば、もっと人手を集めれるように頑張るよ」
「主様、よろしくお願いします」
そう言葉を交わし、回転扉を出て宿の部屋に戻ってきた。
「利用できない扉があるなんて、思ってもみなかったな。
おそらく、この扉は育てる扉ってところか……」
魔法陣に回転扉が吸い込まれ、床の魔法陣が消える。
さて、気持ちを改めて次の扉を呼びだそう。
「【乗り物屋ソニックの扉 召喚】」
そう唱えると、すぐにパシンという軽い音とともに言葉が聞こえた。
召喚場所が狭いため、呼び出せませんでした、と。
どうやら、この乗り物屋の扉はここでは呼び出せないほど大きいらしい。
そこで、宿の裏手にある裏庭で召喚することにした。
幸い、今は昼前。
宿の裏庭には、誰もおらず召喚しても大丈夫だろう。
「【乗り物屋ソニックの扉 召喚】」
そう唱えると、地面に魔法陣が出現し、大きな扉がせりあがってきた。
……これは、ガレージの扉だな。
しかも、シャッターまで完備している。
高さ三メートルほど、横の長さ六メートルほどか?
そんな大きな扉の中にある、人が出入りするための扉を開けて中に入った。
「いらっしゃい、主。
乗り物屋ソニックへ、ようこそ。
俺が店長で、契約精霊のソニックだ。よろしくな」
「よろしく、ソニック。
それで、ここにはどんな乗り物がそろえてあるんだ?」
「あ~、期待しているところ悪いが、今はこれしかねぇぞ、主」
そう言って、指さした先にあるのは、原付バイクだ。
「原付バイク?」
「正確には、魔動力炉で動く小型バイクだな。
馬力は、原付バイクと同じだ。
ただ、燃料が魔力で外部から吸収するようになっているから、ほぼ永遠に走っていられる」
「へぇ~、それはすごい」
「主、全然すごくないぞ?
こいつは一応、地球の原付バイクと同じだからな?
つまり、メンテナンスとかがいるんだ。
向こうじゃあ、オイル交換とかあったろ?
そういうことは、こっちでも必要なんだよ」
「そうなのか……。
燃料の心配はいらなくても、メンテナンスの心配は必要か。
なら、バッテリーとかはどうなんだ?」
「バッテリーの代わりに、魔石が必要になっている。
もちろん、高額な魔石ではなく弱い魔物から採れる魔石でも大丈夫だ。
錬金術で、ちょちょいのちょいと一つにまとめて使うからな」
「へぇ~。
あ、後、何であのガレージの扉が大きいんだ?」
「それは、この倉庫の広さを見ればわかるが、主のレベルが上がれば、ここにいろんな乗り物が増えていくからだ。
そして、それらを外に出すときあのガレージの扉の大きさが必要になる」
それで、あの大きさなわけか。
部屋の中で呼び出せない大きさなのも、使用するのは外という感覚だからか……。
「で、その原付バイク、乗れるのか?」
「今は、無理だな」
「なぜ?」
「バッテリー代わりの魔石がないからな」
「そうか……」
ホテルビリーブと、乗り物屋ソニックはすぐに使えない扉だったな。
足りないものがいっぱいだ……。
読んでくれてありがとう。
これからも頑張ります。




