第27話 新しい扉 中編
「【扉紹介屋ガンゼスの扉 召喚】」
呪文を唱えると、宿の部屋の床に魔法陣が表れ、そこから扉が出現した。
出現した扉は真っ白で、取っ手の所が金色だ。
「……すごい扉が出てきたな」
早速、取っ手を取り扉を押すと、カランカランとドア鐘が鳴って中に入れた。
「いらっしゃい、主殿。
扉紹介屋のガンゼスにようこそ。
俺が、この店の店主のガンゼスだ」
「よろしくな、ガンゼス。
それで、ここはどんな扉を紹介してくれるんだ?」
「まあ、慌てるなよ主殿。
まずは、こっちの椅子に座ってからだ」
そう言って、店の真ん中にある木の椅子に座らせられる。
ガンゼスは、丸いテーブルをはさんで向かい合うように椅子に座った。
「さて、主殿。
まずは、俺の扉紹介屋の扉を召喚できるようになって、おめでとう。
主殿にとって、ここは重要な扉になるはずだ」
「……それは、俺の本来の目的が分かっているんだな?」
「ああ、主殿は、異世界に召喚された日本人たちを元の世界に戻したい、だろ?
その目的に関して、この店はうってつけだ。
いや、おそらく主殿だけが、召喚されて来た人々を元の世界に帰すことができると思う」
「マジかよ……」
「マジだよ、主殿」
「ということは、あるんだな? 転移の扉が」
「ああ、これがそうだ」
ガンゼスがそう言って、右手を下から上へ振ると床から扉が出現した。
白い下地に、龍のシルエットが描かれた扉が出現する。
俺は椅子から立ち上がると、扉に近づき黒いノブを回して扉を押す。
しかし、一向に開かない。
鍵がかかっているのかと思い、椅子に座ってこちらを見ているガンゼスに視線を送ると、答えが返ってきた。
「鍵はかかってないぞ、主殿」
「でも、開かないぞ?」
「それは、どこに扉を繋げるか言ってないからだ。
それでは扉も、どこに繋げていいのか分からないだろう?」
「なるほど。なら、俺の職場。
神崎なな子探偵事務所の調査室の俺の机の側へ」
そう言うと、扉に描かれていた龍のシルエットの目が光る。
そして、俺はもう一度、黒いノブを回し扉を押した。
すると、二センチほどの隙間が開いて、扉が動かなくなる。
力いっぱい押そうが、全体重を掛けようがビクともしなかった。
俺は、そのわずかに開いた隙間に声を掛ける。
「だ、誰かいますか~?」
「……え? 裕ちゃん?! 裕ちゃんなの!?」
「その声は、朱美か? どうやら、本当に繋がったようだな……」
「急に、扉が出現するからびっくりしたわよ!
早く、そこから出てきなさい、裕ちゃん!」
「いや、それが無理なんだよ。
これ以上、開かないんだよ」
「そんなバカなこと……、あら、本当に開かない……」
俺は、すぐにガンゼスを見て質問した。
「これを開けるには、どうしたらいいんだ?」
「主殿、転移の扉はレベルの高さで開閉できる隙間が変わる。
つまり、その扉を全開まで開けたいなら、もっとレベルを上げなければならないってことだ」
「……ここでも、レベル上げが関係するのか」
「裕ちゃん?! ダメ、開かないわ!」
「朱美、とりあえず、現段階での調査報告をしておく」
「え? 何? 調査報告?」
「神隠し事件の件だ。
朱美が、調査をお願いしてきただろ? その報告だよ」
「え?! 裕ちゃん、もう調査を始めたの?
まだ、他のメンバーを決めてなかったのに?!」
「とにかく、現段階での報告だ。
例の掲示板を最初から眺めていると、異世界へと召喚させられる仕様になっていた」
「い、異世界?! ホントに?!」
何か、声のトーンが上がったんだが……。
どうやら朱美のやつ、ワクワクし始めたらしい。
「すべての元凶は、大賢者ルフと名乗るものとその仲間たちが関係しているらしい。
それと、こっちで日本人を発見した。
名前は……」
「え? 待って、日本人を見つけた?
ちょっと待って、今メモを取るから………はい、どうぞ」
「見つけた日本人の名前は、川崎梓、警察官。
それと、同じ警察官で、近藤という名字だけが分かった。
さらに、さいとうこうたろうという男だが、漢字が分からない。
今はこの三人だけだが、他にもかなりいそうだ……」
「待ってぇ……、さいとうこうたろう……あったわ。
失踪者リストには、一人だけだったから漢字も分かったわ。
……それにしても、本当に異世界に召喚されていたなんてね……」
「これからも、随時報告を上げるよ」
「了解。こちらからも、調査員を送るわ。
そっちで、合流してくれる?」
「いつ送るんだ?」
「次の報告の時に、教えるわ。
その時、合流をしてくれればいいから」
「分かった」
「……それにしても、無事でよかった。
裕ちゃんがいなくなって、心配してたんだよ?」
「そ、それは悪かった……」
「……俺がいなくなって、そんなに心配していたのか」
「それはそうよ! いろいろと手続きが大変なんだから!」
「……何だ、その手続きとは」
「保険とか、マンションの管理とか、いろいろ……」
俺は、そっと扉を閉めた。
そして、力が抜けるように椅子に座った。
「ハァ~、何かドッと疲れた」
「それは魔力を消費したからだな、主殿」
「魔力消費?
……な、1958もある魔力が24まで減っている。
これって、もしかして……?」
「そうだよ、主殿。
転移の扉を開けている時間中は、魔力を消費する」
「それじゃあ、報告も最小限しかできないってことか……」
「いや、主殿がレベルを上げれば問題は解決だ。
すべては、レベルによって決まるってことだな」
「ということは、レベルが低いうちは書類による報告の方がいいな。
その方が、時間を無駄に消費しなくてすむ」
だが、光明も見えてきた。
日本に帰還できる扉の発見は、どんなものであろうと嬉しいことだ。
二度と戻れない日本ではなくなったのだ。
「しかし、この魔力残高では、他の扉を召喚することもできないな……」
「主殿、今日はもう休んだ方がいいぞ?」
「ああ、そうだな。そうするよ」
「また、来ることを願っている」
「ここは、絶対に来るだろう?」
「そうだったな……」
そう会話を交わして、俺は扉紹介屋の扉を出ていった。
宿の部屋に戻ると、真っ白い扉は消え、床の魔法陣も消えた。
その後、俺は自分のマンションへの扉を召喚し、自分の寝室で眠る。
明日は、もう一泊して召喚できる扉を調べなければ……。
読んでくれてありがとう。
これからも頑張ります。




