第21話 確認と出発
リルカさんが自分のテントに入った後、シャーリーさんから借りた時計を確認する。
時刻は、午前四時を少し回ったところ。
今日の出発は、午前七時からだから全員を起こすのは午前六時前後。
「あと二時間ほどか……」
見張りの持ち時間は、一人三時間から四時間ほど。
リルカさんとの喋りに、扉召喚のロバートとのやり取りで一時間程か。
結構、時間を潰せるものだな……。
薄暗いがある程度の明かりがところどころある、洞窟型ダンジョンの通路などを見渡しながら、辺りを警戒していると気配察知のスキルが欲しくなる。
「……時々、周りを警戒しながら時間を潰せるものはないかな……」
そう独り言を呟きながら、ふと思いつく。
そういえば、今の自分のレベルはいくつになったのかな? と。
右側を見れば、四階層への階段の入り口が口を開けて待っている。
こんなところまで、パーティーの一人とはいえたどり着いたのだ。
だいぶレベルが上がっていても、おかしくはないはず……。
そう思いながら、自身のステータスを表示する。
前に確認したときは、宿屋でレベル六だったよな……。
「お! レベルが十一まで上がっている。
ここまで、結構な数の魔物を倒してきたからな。
上がらないはずがないか……」
だがこれで、体力が561、魔力が979。
数字で表すとかなりすごいように思えるが、レベル十一でこの数値なんだ。
ベテランの金ランク冒険者となれば、レベル百は超えていそうだから数値はもっとすごいことになっていそうだな……。
後は、召喚できる扉が二つ増えているな。
スーパー大月と魔道具屋スレットか。
スーパー大月は、日本で暮らしていた頃に近所にあったスーパーだ。
いろいろな食材が売っていたけど、主に買うものは総菜ものばかりだったな。
独身の一人暮らしならそうなるよな。
次は、魔道具屋スレットか。
これは、この異世界ならではの店だな。日本に魔道具屋なんてないだろうし。
俺自身も聞いたことない。
何が売っているかは分からないが、初心者講習が終わったら確認しよう。
後は、扉固定化のスキルが増えていた。
説明によれば、今までは、扉を召喚し、俺が出入りしたらすぐに送還されていた扉を召喚したままにできるらしい。
これなら、俺以外の人が利用することも可能だけど、それには従業員を雇うか奴隷を購入するかしないといけないな。
基本、契約精霊たちは俺以外との接触を嫌うらしい。
最悪、契約破棄されて扉消滅とかされるかもしれないからな。
そんな最悪なことを考えると、少しお腹が空いた。
そこで、アニスが作ってくれたサンドイッチを食べることに。
「そういえば、朝食も食べそこなっていたな……。
アイテムボックスから出して、今のうちに食べておくか」
初心者講習を受けることの緊張と、初めてのダンジョン、そしてダンジョンの魔物との戦闘ですっかり忘れていたようだ。
改めて、アニスの作ってくれたものを確認して、感謝の気持ちでいただく。
朝食は、小さく分けられたトーストと目玉焼きにベーコン、それにサラダがついていた。
それをフォークで食べる感じだ。
次に、お弁当用に作ったサンドイッチ。
挟んでいる具は、卵に肉にハム。
そこへ、日本の各種調味料で味付けをして飽きさせない味付けだ。
それにしても、限られた食材でよくここまでのものが作れるな……。
アニスは、本当に料理上手なメイドだ。
食事を終え、見張りを続けていると時計の針が午前六時を指す。
全員を起こして、出発の準備だ。
「全員起床~! 全員起床~!
時間だよ~! 起きろ~!」
テントに向かって、そう声を掛けると最初に出てきたのがリルカさんとシャーリーさんの二人。
テントから出た二人は、すぐに荷物を確認してテントを仕舞い始める。
そして、テントを畳んで仕舞うとすぐに明かりの側に来て座った。
「おはようございます、リルカさん、シャーリーさん」
「ああ、おはよう」
「おはよう、ユウタ君」
朝の挨拶を交わした後、テントから出てきたのがカールだ。
すでに、リルカさんとシャーリーさんが起きているのを確認すると、慌てた様子で荷物のチャックと自分の使っていたテントを畳み始めた。
そして、テントを畳み終えるとリュックに仕舞い、俺たちの側に来る。
「おはようございます」
「おはよう、カール」
「おはよう、カール君」
「おはよう」
そんな俺たちの挨拶が聞こえたのだろうか、慌てた様子でそれぞれのテントから出てきたフローレルとローラの姉妹。
服は、昨日の防具の下のインナーで、髪は寝癖がついたぼさぼさの状態で、二人とも飛び出してきた。
どうやら、寝過ごしたと思ったらしい。
「お、おはようございます!」
「おはようございあす……」
「おはよう二人とも。
まだ時間はあるから、今のうちに服と髪を整えたほうがいいぞ?」
「え、は、あああ!」
「……はぅ!」
真っ赤になった二人は、すぐに自分のテントに戻り身支度を整え始めた。
俺とカールは、口を開けて驚いていたが、普通にしていたシャーリーさんも、苦笑いをしていたリルカさんも、よくあることだよと言っていた。
その後、少し照れた感じで姉妹そろってテントから出て来て、自分の手荷物をチェックし、テントを畳んで仕舞うと近づいてきた。
ものすごくばつが悪そうだ……。
「そ、それじゃあ、朝食としようか」
「そ、そうだな。
朝食を食べたら、出発といこう」
「わ、分かったわ……」
「分かりました……」
「「了解」」
保存食の朝食を済ませると、俺たちは出発する。
次は四階層だ。
確か、この初心者講習では十階層を目指す予定のはずだ。
だとするなら、このペースでは十階層には今日中に到達できないことになる。
今後、どこかでペースを上げるか、今のペースのまま、いけるところまで行くかのどちらかだな。
このことを、カールたちにも話すとそれぞれで意見を出す。
「俺は、このままのペースで進むことを提案する」
「俺もカールに賛成だな。
ペースを上げても、今の俺たちではすぐに限界が来る。
そして、十階層にたどり着けないまま引き返すか、最悪死ぬかだろう」
「ん~、そう考えると私もこのままに賛成かな」
「私もです」
「リルカさんとシャーリーさんは、どう思いますか?」
「私たちは、意見を言わないよ。
私たちはあくまで、君たちのパーティーの監視役だからね」
「だから、君たちの判断に任せる」
「……なら、リーダー、決めてくれ」
「分かったわ。
私たちは、このままのペースで十階層を目指します。
これでいいわね?」
俺たち全員が頷くと、再び前進を開始する……。
読んでくれてありがとう。
これからも頑張ります。




