第12話 朝市の隅で
「お、ここは、花が売っているのか」
朝市の中を移動しながら見て回ると、いろいろな物が売られていた。
また、同じ野菜を売っている店でも、値段や見た目、さらに大きさなんかがそれぞれで違うようだ。
「ここは、肉屋か……」
「お、いらっしゃい!」
「おじさん、これは何の肉なの?」
「これは、オークの肉だよ。
焼いて食うと、やわらかくて美味いぞ~」
「へぇ~、じゃあこっちのは?」
「こりゃあ、コルカバードっていう鳥の肉だな。
でも、ただのコルカバードじゃねぇぜ? 若い個体のものだ。
だから、肉が柔らかいんだ。
揚げ物なんかで食うと美味いぞ」
揚げ物何て調理法が、この世界には浸透しているんだな。
それにオーク肉、食べてみたくなった……。
「おじさん、オーク肉とコルカバードの肉、両方ください」
「まいど~。どれぐらい包む?」
「合わせて、銀貨一枚でお願いします」
「銀貨一枚なら、オーク肉が……これぐらいか。
コルカバードは……、ええい、おまけだ!
はいよ、二つ合わせて銀貨一枚だ」
「ありがとう、おじさん」
「おお、またよろしくな!」
紙袋の中に、オークとコルカバードの肉が入っている。
結構、包んでくれたな……。
俺はそれを、アイテムボックスに仕舞うと再び朝市を見て回る。
残り銀貨一枚。
何に使うかは、慎重に選ばないとな……。
「……これは、香辛料か?」
「いらっしゃい、見ていっておくれよ。
珍しい香辛料とか、入っているよ~」
「へぇ~」
塩や砂糖、いろいろな香辛料があるが、珍しいものは特にない。
それに、ここにある物は家にもあるからな。
……ん?
「お姉さん、これ味噌、かい?」
「おや、味噌を知っているのかい?
これはねぇ、三つほど離れた町で作っていたのを別けてもらったんだよ。
スープに入れて使うと、結構おいしい味になるんだよ?
私も使っているものさ。お兄さん、買うかい?」
「ああ、いや、買うわけじゃないんだ。
ただ、珍しいものが売っているなと思ってね」
「だから言ったろ?
珍しいものとか入っているって」
「確かに」
味噌があるってことは、日本人が作っているのかもしれないな。
三つ隣の町か、何れ会いに行かないといけないか……。
香辛料の店を離れ、他に何かないかと朝市を回る。
だが、時間もお昼近くになり、閉める店も多くなった。
そんな中、朝市の端で奴隷を売っている店を発見した。
「奴隷も、朝市で売っているのか……」
「いらっしゃい、お兄さん。
どうだい? どれか買わないかい?」
「ん~」
朝市という簡易的な場所で、屋台のようにして売っているからか奴隷の数は三人と少なかった。
それとも、売れ残りというやつだろうか?
檻の中には、三人の獣人の女の子が入っていた。
首に大きな首輪をつけている。
あの首輪が、隷属の首輪というのだろうか?
「この子たち以外が欲しいなら、うちの店に来てくれれば紹介できるぜ?」
「店?」
「ああ、俺の店はそこの通りを一つ入ったところにあるんだ。
これ、渡しとくから、何か欲しい奴隷があったら訪ねてくるといい」
「ああ、ありがとう。
ほしい奴隷があったら、行ってみるよ」
「ああ、待ってるぜ」
そう言って、名刺を渡してくれた。
裏には、店の地図が書かれている。
しかし、さすが異世界だ。奴隷までいるなんてな~。
こうして、俺の朝市探索は終わった。
買いたい物も買えたし、これからどうするかな……。
朝市の場所から離れ、冒険者ギルドに向かっていると本屋を見つけた。
この世界に本を作って、売ることができる技術があるのかな? と疑問に思い、入ってみることにした。
「いらっしゃい」
「おじさん、この町周辺の地図ってあるかい?」
「あるけど、あんた冒険者か?」
「そうだけど」
「なら、ギルドで申請すれば、タダでもらえるだろう」
「え、そうなのか?」
「……あんた、新人か?」
「ああ、昨日冒険者になったばかりだ」
「なら知らないんだな。
新人冒険者が受けることができる、冒険者講習で地図のことも習うはずだ。
だから、まずは冒険者講習を受けな。
地図が欲しいなら、それを受ければ貰えるはずだから」
「そうなのか。ありがとう、おじさん」
「いいってことよ。
それじゃあ、地図はいらないってことで、他の本を買ってくれよな」
「そうだな……」
そう言って俺は、本屋の中を見て回る。
この世界の識字率がどうなのかは知らないが、いろいろな種類の本があった。
物語を書いたものや、知識を得るための本に、レシピ本まであったな。
中でも驚いたのが、写真集だな。
どこの誰かは知らないが、イケメンや美人のお姉さんがいろいろなポーズをして笑顔で載っている。
というか、この写真集なる概念の本は、絶対日本人が広めたに違いない。
「おじさん、この本、人気あるのか?」
「ん? ああ、その写真集か。
結構、人気の本だよ。特に王都とか大きな都市で人気でね、うちでも仕入れてみたんだが、売れ行きは好調だよ。
半年に一冊新しいのが出るみたいでね、楽しみなお客さんもいるくらいだ。
それ、買うのかい?」
「どうしようかな……」
「それが最後の一冊だ。
次の入荷は半年後。どうする?」
「買った!」
「まいど~、一冊銀貨一枚だよ」
「はい、銀貨一枚」
「まいどあり。
包むかい? お兄さん」
「いや、大丈夫」
そう言って、アイテムのボックスの中に仕舞うとおじさんが驚いていた。
「ほ~、あんたアイテムボックスを持っているのか」
「ん? 珍しいのか?」
「ああ、珍しいが持っていない者がいないわけじゃあない。
それに、後からでも習得できるからな。
かなりの高額らしいが……」
「……それじゃあ、あんまり人前で使うものじゃないのか?」
「いや、そんなことはない。
持っているものは、人前でも使っているようだぞ。
ただ、頼まれごとをよくされるそうだがな」
「あ~」
これは、フラグの予感がする。
今日、朝市でバンバン使っていたからな。
何か、お願い事をされそうだ……。
そんなことを考えながら、俺は本屋を後にした。
読んでくれてありがとう。
これからも頑張ります。




