9
もしもし? もしもーし?
──水橋明里(23歳 OL)
カチコミから一晩明けた翌日。テレビをつけると昨夜の出来事が大々的に報道されていた。ニュースによると、暴動とともに彼らの罪状が次ぐ次に暴かれ、関係者が芋づる式に逮捕されているらしい。それから詐欺の手段について話が移り、関係先として私が百日癌を診断された例の病院がモザイク付きで映し出される。
『えー、調査によるとこの病院のB医師は教会幹部と結託し、偽装した診断を下して患者の不安を煽り、そして言葉巧みに患者を教会の信者になるように誘導していた模様です。B医師は医師免許を持っていないヤブ医者であり、現在、余罪も含めて調査が行われています』
画面の右端にB医師の顔写真が表示される。そしてその顔を見た瞬間、私は思わず声をあげる。
「どうしたんですか?」
同じソファに腰掛けていた清水さんが眉を潜めて尋ねてくる。私はテレビに飛びつき、画面に映し出されたB医師の顔を観察した。そこに映っていたB医師とはまさに私に百日癌と宣告し、それから教会へ行くように進めてきたあの医師だった。
教会幹部と結託し、偽装した診断を下して患者の不安を煽り、そして言葉巧みに患者を教会の信者になるように誘導していた 。
私はニュースで読み上げられた言葉を頭の中で繰り返す。あいつは偽の診断書で教会に患者を送り込んでいた。ということはつまり、私もまた百日癌という嘘の診断をされた可能性があるということだった。
*****
「診断の結果が出ました。水橋さんは百日癌ではなく、五十日癌です。名前の通り、発症から五十日後にぽっくり死んでしまう病気ですね」
私は、目の前の若い医者の顔をまじまじと見つめた。それからこれが夢ではないことを確かめるため、ゆっくりと医者の顔に手を当ててみたが、やめてくださいと医者から手を払い除けられた。水橋さんが百日癌を宣告されたのは何月何日ですか? 医者の問いかけに、私はゆっくりと日付を答える。医者が頷き、ちょうど今日で五十日目ですね、とまるで人ごとのように宣告する。
「まあ、でもそんなに悲観することでもないとは思いますけどね」
目の前が真っ暗になった私に、医者が耳糞をほじくりながら声をかける。
「百日癌だと百日も我慢しなければならなかったのが、五十日で済むんですから。そうそう、精神を落ち着けるためのおすすめの宗教施設があるんですが、興味あったりします?」
****
「持病か何かですか?」
車で待機していた清水さんが助手席に乗り込んだ私に尋ねてくる。ずっと黙っていたけどさ。そんな前置きをつけた上で、私は彼女に返事をする。
「言ってなかったけど、私、ついこの前百日癌って診断されたの。何でも、発症から百日後ちょうどにぽっくり死んでしまう病気らしいの」
「ああ、そうなんですね。私の叔父も同じ病気で五年前に亡くなってますよ」
「でね、改めてこの病院で診断してもらったんだけど、百日癌じゃなくて、五十日癌の間違いだったってさ。そして、さらに最悪なことに、今日がその五十日目だってこと」
「それはお気の毒に」
車を出して。助手席に座った私は清水さんの方を見ることもなく、そう伝えた。
「どこに行きます?」
「世界の端っこまで行ってくれる? 私の人生の最期に、一番ふさわしい場所だと思うから」
「世界の端っこってどこです?」
「それくらい自分で調べてよ」
清水さんがエンジンをふかしながら、やれやれと肩をすくめる。私はシートを倒し、両手を組み、それからゆっくりと目を閉じた。車がゆっくりと動き出し、運転席の清水さんの声が聞こえてくる。
「へい、Siri。世界の端っこまでの行き方を教えて」