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私達は誰に対して、また何のために、

自らの存在証明を強いられているのだろうか

──水橋明里(14歳 中学生)

 思い返せば、恥と後悔の多い人生でした。


 恋愛も、仕事も、どれもこれも上手くいった記憶なんてない。初恋だった高校時代の先輩にはこっぴどく振られ、大学時代に初めて付き合った人には私の友達と浮気された。仕事だって、生活するために就職したみたいなもので、やりがいなんてこれっぽっちだってない。そのうえ、直属の上司なんてセクハラとパラハラ両刀使いのハゲデブで、そのくせ一丁前に不倫をしまくってるクソ人間だ。


 低空飛行のまま飛び続けている人生。私の人生を一言で言い表すとそんな感じ。


それでも。心の端っこでは少しだけ、いつか風向きが変わって上昇していくことを期待していたもしも私の人生が感動もののヒューマン映画だったなら、パッとしない毎日に突然人生の転機が訪れて、いろんなドラマを繰り広げた後で、愛する人とキスをしてエンドロールが流れてくれる。でも、実際はそんなことはなくて、別に幸せの絶頂にいたわけではない私に訪れたのは、突然の余命宣告。私の人生は映画ですらなくて、趣味の悪い、イギリスのバラエティ番組のコントに過ぎないのかもしれない。


「今日限りでこの会社を辞めます」


 余命宣告をされた次の日。上司は辞表と私を交互に見て、大きなため息をつく。私の辞表を指先で摘み、私の目の前でひらひらと揺らしながら、お決まりの文句を言ってくる。


「あのなぁ、そんな簡単に会社辞められると思ってんのか? そんな急に辞められたら他のやつに迷惑極まりないだろ」


 明里ちゃんは気を遣えて、本当にいい子ね。子供の頃、私は周りからそんな風に言われていた。私はまだ子供だったから、それを真剣に受け止めて、みんなにとっての良い子を進んでやってきた。別に何か見返りを求めてそんな風に生きてきたわけではない。でも、良い子になりたくてなったわけでもないし、今まで頑張って良い子として生きてきた私に神様は何をしてくれた? 神様は別に幸せをプレゼントしてくれたわけでもないし、代わりにくれたのは、余命百日という残酷な現実。だったら、私がすることは決まっている。


「決めたんです。そういうことを考えるのはやめようって」

「はあ?」

「つまり、人生残り少ないのに、お前みたいなクズ人間に気を遣ってる時間はないんだよ! 馬鹿!」


 それから私は辞表と共に、スーツの内ポケットに入れていた写真を叩きつける。私の言動に上司が怒りで眉を吊り上げ、それから机の上に叩きつけられた写真を見て、顔が青ざめる。写真に写っていたのは、私が数ヶ月前、たまたま目撃した上司の不倫現場の写真。上司は怒りと驚きで大きく咳き込み出し、周りにいた同僚たちは突然大声を上げた私へと目を向けていた。私は上司に背を向ける。そして、上司の机に叩きつけたものと同じ写真、それをあらかじめ何十枚もプリントアウトしたものをポケットから取り出し、それを宙に向かってばら撒いてやった。


 写真が舞い、上司が叫び、日頃から上司を日頃からよく思っていない同僚たちから歓声混じりの声が聞こえてくる。上司の声も、同僚たちの声も無視して、私は走り出す。あと数ヶ月で死んでしまう私に怖いものなんてなかった。後悔も、いつも会社で感じていたような圧迫感も感じない。あるのは解放感、それだけ。大騒ぎになっている部屋を飛び出し、私は階段を使って、新卒からずっと働き続けてきた会社とおさらばをするのだった。


 余命百日という短い時間。私はこの短い時間で何かを成し遂げなければならない。といっても、やりたいことをやるには何事もお金がかかる。働いてはいたけれど、貯金は少ないし、別に可哀想だからという理由で誰か私にお金をくれるわけでもない。


 どうすれば、やりたいことをやれるだけの大金をすぐに手に入れられるのか。答えは一つ。


 映画と同じように、私は銀行強盗をすることを決めた。

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