第7話 白いのと黒いの
うぃぃぃ……
「ふっ……ふふっ、イヒッ!はははっ!ハーハッハッハ!」
一面荒れた岩の大地が広がる中、巨大で禍々しい城があった。その城の一室で、高笑いを上げる怪しげな大男。
全体的に黒っぽい格好。両腕には外し方の分からない腕輪が取り付けられている。頭には2本のうねったツノが生えており、髪は黒く両目が完全に隠れる程度に長い。
「遂に、遂に完成したッ!その名も〈哨戒ノ塔〉!フフッ、来たる愚かな侵略者よ。貴様らの計画は潰えた。せめて送ってやろう。未来へ、偉大なる鎮魂歌……ァア”イッ!」
無駄なポーズをいくつかとり、ニヤリと鋭い笑みを浮かべながら男は言った。
「貴方が無駄な仕掛けを施さなければ……とっくに完成してた……」
覇気のない、透き通った女の声。
全身白一色で、肌も青白い。長く艶やかな白髪を腰のあたりまで垂らしており、身体のほとんどが髪で隠れている。黒い男と同じぐらい身長は高く、全身を眺めると髪の毛から手足が飛び出ているような格好で、かなり不気味だ。
「ふっ、何を言う。お前も楽しそうに創っていたではないか。初めて水を見た炎のように」
黒いのはキザな口調で話す。動きもいちいち目につく。
「あれは……ボツを供養しただけ……貴方のお遊びに丁度いいと思って……」
黒いのとは対照的に、白いのは喋っている時に動きが全く無い。口元も髪の毛で隠されており、まるで直接脳に語りかけているかのよう。
「お遊びではなぁいッ!全255基もの哨戒ノ塔がウィルダリア全土を監視し、侵略者を即座に発見するのだァ。さぁらにっ!塔に施された数々の魔法陣によって、全土が我らの独壇場となるッ!なるッ!独擅場ゥ!」
「それはそう……無駄な仕掛けがお遊びってこと……」
「ふっ、趣を考えてのことだ。無粋な奴だと思われたくないのでな。決して無駄ではないのだよ。これは時間軸と似ている」
「そう……」
白い女は興味なさそうに相槌を打つ。
「ちなみに……理由を教えてやろうか?」
「いらない……」
「そうか。では教えてやらない。いいか?辛いからだ!悲しいからだ!!御ッちんちんとケツの穴の毛はッ!生える必要がないからだッ!真の愛は質量をもたないッ!真の愛は空間に宿る歪みと流れダ!カ!ラ!……ドゥァア!!」
「うん……そうだね……」
黒い男は熱弁のあまり何処かに吹っ飛んでしまうが、白い女にはまるで響いていない様子。
「ハア、ハア……直に、真のウィルダリア総力戦が始まる……。ことの次第によっては〈七曜〉の奴らと共闘することになるやも……。ふっ、ふふっ。クウッ!我ながら実に趣深いぞ。これは罪深くもある……」
何処かから戻ってきて、含みのある笑顔で意味ありげなことを言った風の黒い男。
「ところで……貴方が思っている以上に……みんな貴方のことが嫌い……ファルガバードも貴方のこと嫌ってる……」
「おい、何故わざわざファルガバードの名をわざわざ出すのだわざわざ。わざわざ。……俺には理解ができない。お前は天才だっ!」
「……。きもっ……」
「……うぇ?」
マヌケな声と共に、白い女をしばらく、30分ほど見つめる。
――――
「……フッ、まぁ別に嫌われていようが我の知ったことではないがな。侵略者の相手など、我々だけでも十分。ただ、それでは人々がまたあらぬことを騒ぎ立てるだろう。愚かなあやつらを想像するだけで……うっ!あぁ……右腕と踵が疼くッ!刻まれし魔の悪魔がッ……!」
痛々しさ満点の言動を見せつける黒い男。
そして唐突に、白い女が何かを察知した。
「あ……」
「ふむぅ。なるほど。早いな」
黒い男も、女と同じく何かに気づいた様子。
「哨戒ノ塔の攻略を終えようとしている者がいる」
「175号……迷路の……」
「この早さ。奴らだろうな」
「あの位置……近いのはアーガスと……トーザス……それと、ファルガバード……」
「フッ。ムフン!丁度いい。記念だ。我々から出向いてやろうではないか。祝福と、警告と、ついでに敬意と絶望をアナタにお届け。ちょっとばかりの甘酸っぱさは120%増量。きっとばかりのアマちゃんっぽさは2億10%増ッ!量ッ!!空間を支配し我が物とする……世界の抜け道ィッ!!」
「きも……」
「……うぇ?」
2人の姿はフッと揺らぎ、そして消えた。
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「行きましょう」
ファルガバードが黒い扉を押し開く。
見えたのは、紫色に鈍く輝く直径1メートルほどの球体。部屋の中心で浮いている。
そして、その前で俯いたポーズをキメた背の高い大男がいた。ツノが生えており、ファルガバードと同じぐらいの身長だ。
「フッ、深黒にして晦冥……万象万物が我を表すに足らず……故に名は無い……。そんな我を、人々はこう呼ぶ。『黒の魔王』『厄災』あるいは軽蔑を込めて『黒いの』とか……」
その男の自己紹介のようなものを聞いた唯と智博。あまりの痛々しさと異質な雰囲気に、全身に鳥肌が立つ。
「なにあれ……ちょっとヤバすぎじゃね?」
「うん。あれはもう手遅れだよね……。頭イっちゃってる」
ふたりはファルガバードの陰に隠れてコソコソと話す。
「まさか、あなたと直接遭遇するとは思っていませんでしたね〜。……何の用です?」
ファルガバードの黒いのに対する声は、どこか威圧的だった。少なくとも、唯や智博と話すときのような、ふわふわした感じとは違う。ふたりはその空気を感じ取り、ファルガバードの背後で黙った。
「フッ。用があるのはそちらであろう?そちらが来たのだからなァ!我は質問に答えに来てやったのだ。さっさと質問するがいい」
「そうですか。では質問させてもらいます。こ――」
「ウムよくぞ訊いてくれたッ!ファルガバードよ!この塔の正体はそうッ!〈哨戒ノ塔〉!!全255基ッ!性能は同じに、趣は1つ1つ異なった物をッ!我ながら中々いい出来だァ……!これらによって!そうッ!我々は来たる侵略者に備えているのだッ!!」
まだほとんど何も質問されていないのに、勝手にうるさく喋り出す黒いの。しかも動きまで騒がしい。両手を広げて天を仰いでいる。
「……まだ何も訊いていませんよ」
「訊かれなくても言いたかったのだ。分かるだろ。勝手に言い出したんだから。分かりたまえファルガバード。我の気持ちを理解って?ねえ」
うざったい動きと発言を繰り出すが、ファルガバードは表情を変えない。
「色々と気になることが増えましたが……質問してもいいですか?」
「いいぞぉ!どんどん質問してくれ!」
「この塔とこのふたり、なにか関係はありますか?」
ファルガバードが唯と智博の背中を優しく押し、ふたりはひょっこり顔を出す。
「あ、どうも……」「こんちは……」
相手が何やらヤバい人物だと悟り、恐る恐る声を出す。
「む、誰だオマエたち。いたのかちんちくりん共。まるで気づかなかったぞちっこいの。おい、ファルガバードとはどういう関係だ」
「えっと、ファルガバードさんは保護者?みたいな感じですかね?拾われまして……」
冷や汗をかきながら、智博が答える。
「保護者だと?ふっ、成る程。ファルガバードは人類における庇護者、という訳か。実に趣深い。そして我も趣深い」
「……?」「???」
ふたりはちょっと何言ってるか分かんないという感じの顔。
「この子たちは別の世界からこちらの世界に迷い込んだんです。何か思い当たることはありませんか?」
ラチがあかないと踏んだファルガバードが、直球で訊ねた。
「ンなにッ!?別の世界からだと!?さては侵略者!……なのか?嘘だろおい。我の想像を遥かに下回っておるぞ。よく見せてみろ」
「よく見せて……」
黒いのがふたりに近づこうとした瞬間、白髪で身体がほとんど隠れた女がフッといきなり現れ、ふたりの目の前に立った。
「すごい……魔力が全くない……」
白い女は髪の隙間から片目を覗かせ、目ん玉をカッ開いて瞳孔をギューッと縮める。
とんでもない目力で見下ろされながら観察されるふたり。あまりの威圧感に、智博までもが身体を動かせなくなる。
「お触りは厳禁ですよ〜?」
言葉は穏やかだが、ファルガバードは全身から溢れ出る強者特有の圧で、白い女を制する。大震災が起きる数秒前のような空気に、唯と智博は冷や汗が止まらない。
「うん……触らないよ……見てるだけで十分分かる……この世界の生き物じゃない……」
白いのはふたりを観察し終え、退く。それに合わせて張り詰めた空気も少し緩む。
「で、どうですか〜?何か思い当たることは?」
ファルガバードは黒いのに改めて訊いた。
「ンッンー。無くはないが、そもそもお前たち何処から来た」
「ええっと、地球って星の、日本ってところ、です……」
さっきまでの場の空気もあって、たどたどしい受け答えになってしまう智博。唯は智博の服をギュッと握ったまま離していない。
「む、星だと。さては天の果てにある世界からやって来たか」
「はい、多分そんな感じで……」
「なるほどなるほどな。1つ言ってやれるのは、お前たちの様なちんちくりんは侵略者ではない。侵略者がやって来る流れに巻き込まれたのであろうな」
「巻き込まれた……?」
「さっきから『侵略者』というのは何ですか?あなたの虚言にしては多用しますよね〜?」
「虚言ではなァい!!我が虚言を吐いたことがあるか!?」
「あります」
「存在の7割が……虚言でできている……」
「…………」
ファルガバードだけでなく白い女にまで否定され、黒い男
はしばらく黙った。
「ンとにかくッ!近いうちにこのウィルダリアを侵略しに、侵略者がやって来るのだ。これは未来なのだ!!」
「根拠はあるんですか?」
「既に何人か怪しいのが来ている。会った訳ではないが、感じるのだ。寧ろそこのちんちくりん共が根拠と言えよう。そのふたりは予兆そのもの。そう……我々としては、まるでいつ降るかも分からない曇天を見ている様な……そんな気分なのだァよ」
「ファルガバードさん……既に何かが来てるのは確かなの……そこの可愛いのは……知らないけど……」
白い女は、細長く白い指でふたりを指して言った。唯は怖がって、智博に掴まりながら身体を寄せる。
「そうですか。あなたたちがそこまで言うのであれば無視はできません。近いうち、というのは具体的にどれぐらいなんでしょう」
「んとねー。そうだなー。早ければ今にでも、遅くても1000年後といったところか」
「多分……100年後ぐらい……」
「かなり先ですね。私が生きているうちには起きないかもしれません」
「なにィィィ!?それは困るぞファルガバードよ。お前たちにはこの哨戒ノ塔の、瞬間移動的な機能や空間把握的な機能、戦闘補助的な機能などを駆使……してもらわねばッッッッ困るというのにィィィ!!」
黒いのが昂り、首を巻き込みながら頭を縦方向に回転させ始めた。丁度ツノとツノの間に首がはまる。
「うるさい……」
「ンヌッ!……っと、思わず言い過ぎてしまった。語れることが多すぎてッ!思わず言い過ぎてしまったッ!がッ!とにかく困るのだ!言い過ぎたので我はもう帰るッ!其方が変なこと言うから!我々もう帰るからねっ!!」
「はい。言葉のやりとりが難しくなってきたのであれば、帰ってください」
「ウム、リョー解。ではでは……。開け、我を漆黒の晦冥の闇へと誘う扉……我を飲み込み、閉じるがいい……」
おかしな呪文と共に、元気なポーズを決めながら黒いのは暗黒にゆっくりと沈んでいく。白いのは無言でフッと姿を消した。
「……あの、ちょ!ちょっと待ってください!」
智博が、沈みゆく黒いのを呼び止める。
「なんだ?あ、ちょ、もう沈んじゃう、あっ――!」
応じようとした黒い男だが、そのまま暗黒に沈んでフェードアウト。
「どうしたの……」
代わりに、姿を消したはずの白い女がスッと現れた。急に出てきた白い女に面食らう智博。
「えっと、俺たち、日本に帰りたいんですけど、なにか方法とか……」
「……。難しい……ごめんね……ごめんね……」
悲しそうにそう言って、白い女は再び姿を消した。消えた跡には、涙らしき水分が落ちていた。
――――
「……はぁ〜。ひと段落ですかね〜」
「ふぇえ……」「はえ……」
ファルガバードはひと息ついて、ふたりは緊張が解けた反動で座り込んだ。
ちなみに、ふたりとも髪の毛さらっさらです




