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愛する男女の異世界物語 〜因果と愛の理由〜  作者: コリコリノチカラ
序章「事変」
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第5話 瀬名唯の思考

今回は内容的に読むのに時間がかかるかもしれません。是非、ゆっくり読んでください。唯さんの思考についていけなかった方は、反省してください。そして、第6話に結果が載るのでそれを読んでからもう一度読みましょう。わかりやすいかもしれません


 あたしの名前は瀬名唯。元気で可愛い女子高生だ。愛しの智博の呼びかけで起きると、そこは魔法や魔物が存在する異世界だった。ついでに裸だった。


 ファルガバードという包容力の権化のような女性に助けられ、なんやかんやあって今は3人でダンジョン攻略中。

 ……なのだが、どうやらそれぞれ隔離されてしまったようだ。


 円形だった部屋は中心から3等分するように仕切られて、今は120°の扇型の部屋にそれぞれ閉じ込められている状態。


 向かって右の壁の向こうには智博がいるはずだが、耳を当てても音は聞こえなかった。叩いてみても響くのは自分の骨の方だし、痛いのでやめた。

 少し心配だけど、アイツは無事だろう。壁の向こうであたしの心配をして泣きそうになっているに違いない。うん。きっとそう。


 さて、この状況、どうしようかな。

 一呼吸して、部屋を眺める。


 ……お?なんか転がってる。ファルガバードさんの贋月の破片だ。さっきまで慌ててたから全然気づかなかった。こんなにあるのに。


 そういえば壁が落ちてくる時すごい音したなぁ。すごい勢いで落ちてきたからその音だと思ってたけど、今思うと変な音混じってたような気がする。贋月が砕ける音だったか。


 てか、ちょっと前の迷路ができる時は贋月耐えてたのに、簡単に砕けちゃったんだ。この壁、特別仕様なのか?

 まあいい。この贋月って割れても動くのかな……。自分で粉砕した時は動かしてたけど。


 破片の中でも一番大きいものをペチペチと叩いてみる。すると、それはふわりと浮いて、楽しそうに上下した。

 おお、動いた。なんかこれだけでも安心感が違う。流石ファルガバードさん。


 他には何かないか?隠し扉とか、床下とか……。天井も……。

 しばらく部屋の様子を探る。うーん、特に無さそうだなぁ。


 となるとやっぱこの3つのボタンか。どれかを押せってことなんだろうけど。

 部屋の真ん中にある台を見る。左から風、炎、水の模様。それぞれ緑、赤、青色だ。


 ヒントとして与えられているのは、まず入り口に書いてあった『人を見て己を知れ』ってヤツ。で、あとはこの壁だろうな。


 部屋を仕切っているこの壁。中心向かって右側の壁には風の模様が浮かび上がっていて、左側の壁には炎の模様が浮かび上がっている。


 多分、この2つの模様によって押すべきボタンが決まるんだろうな……。そう考えると、左右の区別含めて9通り。区別しなければ6通り。押せるボタンが3種類っぽいから、それじゃちょっと困りそう。


『人を見て己を知れ』ってなんだ?人の姿見れなくしたのお前だろ。智博の姿見せろや。


 うーん……。取り敢えず適当に押すしかないかぁ。今は考えても確証のある答えに辿り着ける気がしない。よし、水で。


 台座の一番右にある水のボタンを押す。注射器を押しているような、滑らかな感触。


 ボタン押すと、すぐに壁の模様が消え、その後「ブッブー!」と、コミカルな音が鳴った。


 そんな雰囲気に合わない音鳴る!?……まあいいか。分かりやすいし。


 楽しげな音に驚いていると、直後、床に風の模様が浮かび上がり、ちょっと経って消えた。そして、左右の壁にそれぞれ水、風の模様が浮かび上がった。


 なるほど……。ちょっと待てよ。整理するか。


 まず、今のは多分失敗。「ブッブー!」って言っておいて正解だったら許さない。例え文化の違う異世界だろうと。


 で、床に出たのは正解の模様か……?さっきは風を押すべきだった、ってことだと思う。分からないけど、そう仮定しよう。そして壁の模様が変わった、と。リセット的な感じかな。


 どれがどれだったか覚えときたいな……。あ、丁度いいや、これ使お。


 散らばった贋月の破片を拾って、右の壁の左の辺りに置く。


 ここが風ということにして……で、こっちは炎だったから真ん中に置いておこう。床に出てきた模様はこの辺で。


 自分の中で位置を決めて表を作っておいて、欠片で記録する作戦。欠片の数が少ないから、自分が押したやつは覚えておこう。


 3個の欠片を置き終わって、次の手を考えようとしたところで、置いたそれがふわふわ浮いてるのに気づいた。


「あーあー、動いちゃダメ。大人しくしてて。あぁ、こっちもダメダメ」


 楽しそうに浮く贋月の欠片を押さえつけて床に留めさせる。


 ファルガバードさんが勘違いして反応しちゃったんだな。まぁ仕方ないか。押さえつけたから多分もう分かってくれたと思う。


 さて、次何を押すか考えよう。さっきの例では、右が風、左が炎の時、正解が風か。


 ……喰らう側を選べばいいのか?『風は水を喰らい、水は炎を喰らい、炎は風を喰らう』とかなんとか、ファルガバードさん言ってた。

 

 でもそれだと『人を見て己を知れ』の意味が分からんなぁ。『人を見て』『己を知れ』……。『己を知れ』っていうのが、正解の模様を押すことに相当するのか?


 あっ。


 だとしたらもしかして、3人にそれぞれ1つずつ模様が与えられてたり?

 さっきの場合だと、智博に風、ファルガバードさんに炎、あたしに風が与えられてたのか?


 あたしは智博とファルガバードさんに与えられた模様を、壁を通じて『見て』いて、それを参考に自分の模様を『知れ』ってことか?そう考えるとなんか腑に落ちるかも。


 仮にそうだとして……自分の模様を確実に当てることはできない……よな。うん。2人の模様と自分の模様の関係性を見つけ出さない限り。


 うーん……。ちょっと行き詰まったかも。判断材料がまだ少ないし、今回も様子見でいいかな。

 じゃあ適当に。喰らう側を選んでおくか。水と風の模様が壁に出てて『風は水を喰らう』だから風を。


 左にある風のボタンを押す。


 ……あれ、何も起きない。


 風のボタンが沈み切ってフラットになっただけで、先ほどのように音が鳴ったり床に模様が浮かんだりしない。


 どうした?なんかやっちゃった?壊した?

 ……いや、複数のボタンを選ぶ可能性。あり得る。やってみよう。


 適当に水のボタンを押してみる。が、全く沈まない。全体重51キロをかけても同じ。炎のボタンも同様。


 くっ。あたしの素晴らしい健康的な体重ではダメか。もっと脂に対して正の方向に不健康でなければ……。


 ではなくて。


 多分これ、3人全員が選ばないとダメなんだろうな。さっきはあたしが一番選ぶの遅かったからすぐに音が鳴った、ってことだと思う。今は他の誰かがまだ押してなくて、それ待ちってことかな。


 いや、まてよ?それもヒントになるかも。


 もしこれが自分の模様を当てるだけのゲームだったら、マルバツの判定はすぐ出せるはず。マルバツ判定前で止まるということは、自分の選択だけではマルバツが決まらないということ。か?


 つまり、3人で3つの回答を出しているのではなく、3人で1つの回答を出している?


 おー。それっぽい仮説。これは一歩前進したんじゃないか?ぽいぽい。


 仮説の上に立てた仮説だから正しいか分かんないけど、仮説を立てて検証していくことが大事だからな。


「ブッブー!」

「わっ!」

 

 ビックリしたぁ……。急に鳴るとびっくりするなぁ。前回の智博とかもびっくりしたのかな。


 おっ。床に風の模様が。そして今度は両方とも炎か。記録しておいて、っと……。


 さっき置いた欠片に続いて、浮き出た模様を記録する。


 ふむ……。今回の大きな収穫は、押したボタンとその後の床の模様が一致しても正解とは限らないってこと。

 つまり、さっき立てた、床の模様は選ぶべきだった模様である、という仮説は間違い。他の何かを指しているってことだ。


 ……じゃあ多分、自分に与えられていた模様なんじゃないかなぁ。さっきの場合、智博に風、ファルガバードさんに水、そしてあたしに風が与えられていたんだと思う。でも、それを押しても正解になるとは限らない。3人全員正解しないといけないとかか?


 うーん……。3人の模様の関係性が分かれば……。


 1回目は左が風、右が炎、床が風。押したのは水。2回目は左が風、右が水、床が風。押したのは風。3回目は左が炎、右も炎、床はまだ不明。


 うーん……。ピンとくる法則は見当たらない。そもそもデータが少ない。


 てかなんだよこのクソゲー。もっとヒントないとさぁ。しかも、あたしだけが正解に辿り着いても多分ダメなんでしょ?他の2人も辿り着かないと。


 もしかしてヒント見逃してたりする?……いや、絶対そうだ。きっと迷路にヒントが隠されてたんだ。


 ファルガバードさんが言ってたもんな。なんか仕掛けみたいなのがあるって。それをいじっていれば、この部屋の位置だけじゃなくて内容のヒントも貰えたんじゃないか?


 それをここまで直行しちゃったモンだから、こんなクソゲーになったに違いない。うん。


 はぁ。でも今更どうしようもないか。取り敢えず、データが欲しいから今回も適当に押そ。


 炎のボタンを押す。


 すぐに「ブッブー」と例の音が鳴り、床に炎、左右の壁にそれぞれ風、水の模様が浮かび上がる。


 欠片も置いて記録を済ませ、考える。


 今までのデータをまとめると、左右床の順に、風炎風。風水風。炎炎炎。水風なんとか。あたしが押したのは、順に水風炎。


 うーん……。特に関係性があるようには思えん。ランダムか?もしかしてただの運ゲー?クソゲー?作者のセンスゴミカス?


 いや、あたしの仮説が根本的から間違ってる可能性もあるんだけどさ。でもなんかいい線まできてるような気がするんだよなぁ。


 そうだなぁ……。そもそも、2つの模様を見て一意に模様を決めることってできるのか?


 それだけなら別にできるな。当然だわ。全パターンに対して答えを決めてやればいい。問題は、その決め方だな。納得のいく決め方をしないと、ただの運ゲーになる。


 そうだなあ……例えば、風、炎、水にそれぞれ0、1、2を与えてみて、その和に対してmod3をして、結果が0なら風、1なら炎、2なら水、みたいな。これなら割と法則もあって、イイカンジではあるけどなぁ。


 えーっと、だからこの場合だと、風風と炎水が風。風炎と水水が炎。炎炎と風水が水。ってことになる。


 うん。イイカンジ。概ねこんな感じでボタンを選んでいくことは確定だろ。じゃないと運ゲーにしかならない。一歩前進だな。


 アルゴリズムの例は完成した。あとは、3人それぞれが選択肢を選ぶアルゴリズムをどうしないといけないのか、だ。


 ん?ちょっと待て。『風は水を喰らい、水は炎を喰らい、炎は風を喰らう』って、そういうことか。この三すくみの関係が、実質数字を与えてるのと一緒じゃん。そうじゃんそうじゃん。


 さっきの例で行くと、風風と炎水が風っていうのは「すくみの関係になるように選ぶ」で説明がつく。同じように、風炎と水水が炎っていうのは「喰らう側が2人になるように選ぶ」炎炎と風水が水っていうのは「喰らう側が1人になるように選ぶ」だな。


 おお。正解に近づいてる気がするぞ。


 だから、えーっと……。えーっと……?アルゴリズムは実質3種類みたいなもん、ってことだな?おっと、3か。これを3人で分けたらいいんじゃね?


 そうすると……?えー。要は、状態は0、1、2の3種類しかない訳で、3人はそれぞれ0、1、2であると予想する訳だ。すると、誰かは必ず予想が的中する、と。


 おお……!必ずっていうワードが出てきたぞ。運ゲーからの脱却では?


 キタ。勝ったな。このゲーム。「このゲームには必勝法がある」ってやつ……の逆バージョンだ。


「このゲームに必勝法が存在するには、こんなルールでなければならない」……うーん。長い。決め台詞には向いてないな。まあいいや。


 まとめると、ルールはこんな感じだ。


 ・3人それぞれに風、水、炎のいずれかの模様がランダムに与えられる。

 ・自分以外の2人の模様は壁を通じて見ることができるが、自分の模様は分からない。

 ・クリア条件は、3人のうち誰か1人が自分に与えられた模様を確実に当てること。


 根拠は3つ。


 ・『人を見て己を知れ』という入口に書いてあった文章に沿っている。

 ・選択肢が三大元素である理由付けになる。

 ・必勝法が存在する。


 で、必勝法はこんな感じ。


 3人はそれぞれ「喰らう側の元素が2つになるように選ぶ」「喰らう側の元素が1つになるように選ぶ」「あいこになるように選ぶ」ようにする。


 なぜなら、ランダムに与えられた3つの模様は「喰らう側の元素が2つ」か「喰らわれる側の元素が2つ」か「あいこ」のいずれかの状態に必ずなっているから――。


 よし。これがこのゲームの全貌に違いない。間違いない。

 間違いないと、確信した上で……。


「これ、あらかじめ3人で担当を決めておかないと無理じゃんか……」


 がっくり。もう……がっくり。せっかくこれだけ考えたのに……。もーうやる気出ない。あたしの考えが全部間違ってて、他にいい方法があるのだとしても、新しく考える気起きない。どうせ無理だ。うわぁ……。智博助けて……。


 はあ……多分、迷路にあったであろうヒントを拾ってない時点でほぼ詰みなんだろうな。この部屋に入る前に、このルールを把握しておかないと無理だもん。まじクソゲー。


 こうなったら運ゲーで勝つしかない。試行回数で――


 ハッッッッッ!!!


 あたしは気づいた。床に散らばっている、ファルガバードさんの贋月に。これを使えば、ファルガバードさんと意思疎通が図れるということに……ッ!!


 いやぁ!やっぱファルガバードさんはチートだなぁ!このダンジョンの想定を超えちゃってるわ。

 ふふっ。残念だったな、この塔を作った作者よ。特殊仕様の壁で情報の伝達を防いだつもりだろうが、こちらにはファルガバードさんがいるのだ。


「ファルガバードさーん!!」


 贋月の破片をペチペチと叩く。


 ガッ!ガンッ!!ギギギギギィィィ……!!


「は〜い」


 !?!?!!!!!!


 左からヤバい音と共に、ファルガバードさんが扉を持ち上げて出てきた。


「どうも〜」


 すごい形にひん曲がった壁を、ファルガバードさんが下から持ち上げて支えている。


「び、ビビったぁ……」


「どうも〜」じゃないだろ。その壁、持ち上がるんかよ。取っ掛かりも何もないのに。この人、ツルツルでしかも分厚い壁をひん曲げて持ち上げてる。完全な力技じゃんか。やば。


 なんか、壁の方も力のオーラみたいなの出してプルプルしながら必死に抵抗してるし。いや、ファルガバードさんが魔法の力で壁を押さえつけてるようにも見えるな。まぁ、どっちでもいいや。とにかくやばい。それしか言えねぇや……。


ちなみに、このクイズ(ゲーム)は、とある動画を見て面白いなと思い、3人用に拡張したやつです

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