第4話 不気味で不思議な塔
いろんな関係で投稿順がめちゃくちゃですよ
ファルガバードは化け物と向き合っていた。
「お話、できますか〜?」
山のように構える化け物に向かって、笑顔で話しかける。
すると、化け物の触手が数本、複数の方向から、鞭の先端のような速さでファルガバードに向かった。が、ファルガバードの腕によってそれらは全てガッチリ捕縛される。
「お話し、できないですかね〜?」
ファルガバードの声には緊張感の欠片も無い。むしろお話が出来なさそうで、少し残念といった様子だ。
「「「ガアァァァァァァァァァァァァァァア!!!!」」」
煽られたように思ったのか、化け物は怒ったように声を上げ、今度はその厳つい腕を振り下ろす。
触手に比べて動きの柔軟性は無く、動きは真っ直ぐで読みやすいが、その重さは断然こちらの方が重い。
鉤爪1本1本がファルガバードの身体ぐらいあるその腕が、ファルガバードを含め全てを破壊しようと迫る。が、真っ向から繰り出されたファルガバードの蹴りによって、それは腕の付け根まで粉砕された。
何が起こったのか、化け物はすぐに理解できなかった。数秒間狼狽えると、気づいたように腕を再生させ、再び奮い立つ。
貧弱になった片腕に構わず、猛々しい声と共に放たれる、全身全霊をかけた化け物の乱撃。だが、ファルガバードは既に化け物の頭上。全ての攻撃は彼女を捉えていなかった。ファルガバードは贋月を足場に、重力に反するように逆さまに屈み、その脚に力を蓄える。
「ご苦労様です」
そう呟き、ファルガバードはまるで黒い一閃。強者特有の力強い笑顔を浮かべながら、化け物の脳天目掛けて拳をブチかました。
化け物は断末魔も上げることなく爆散し、ドロドロとした何かになった後、蒸発した。
~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~
「「うわぁッ!!!」」
何かが飛んで来て、思わず抱きついて目を瞑るふたり。
少しして何もぶつかってこない事が分かると、ゆっくりと目を開けた。
「私です〜」
優しい笑顔がそこにあった。
「「ファルガバードさん!!」」
ファルガバードに気づいたふたりから、安堵と喜びの感情が溢れる。
「よかったぁ。大丈夫ですか?」
「はい。当然です〜」
「びっくりしたよもう……」
「あのでっかい奴は?」
「倒しましたよ〜。ふたりが逃げちゃうものですから、折角なので派手にかましてやりました〜」
「えぇ……」
「たおした?」
あまりにとんでもなくて、理解が追いつかず語彙力を失うふたり。
「さあ、行きましょうか〜。やっぱりあの塔は怪しいです」
「あの、ちょっと、まずちょっと」
再び塔に向かおうとするファルガバードを呼び止める智博。
「服、すごいことになってますよ。おっぱい溢れそうですけど大丈夫ですか」
殴った衝撃のせいだろう。右腕の袖から首回りまでは完全に吹き飛んでおり、他もかなりアブナイことになっている。
胸ををギリギリで支えていた布が、ズルっと滑って中からぶるんと――。
「いやん」
唯は咄嗟に智博の目を塞ぐ。そして自分自身は「ぶるん」をガン見。
「これもうわざとだろ。あたしは一向に構いませんけど。へへっ」
「まあ俺も、唯に目を塞がれる方がよっぽど興奮するんで構いませんけど」
「黙れ智博」
「まあ、私の服も元に戻るので構わないんですけど〜」
唯が目を離した隙にファルガバードの服は元に戻っていた。
「おお、すごい」
「よし、じゃあ行きますか〜」
「いやちょっと待ってください!」
またもや智博がファルガバードを止める。
「なんですか〜?」
「なんですかじゃないですよ。なんだったんですかさっきのは」
「いやホントそれな。死ぬかと思ったわ」
「あれは魔物ですね〜」
「魔物?魔物ってあんな、ラスボスみたいな……もしかしてここ、神話級の世界観?」
「いえ、あんな魔物は普通出てきません。ふたりが驚くのも無理はないです」
「え、じゃあ、その魔物相手に余裕なファルガバードさんは何?」
「まあ、見ての通り私強いので〜」
「それはそうですけど」
「ヤバすぎるでしょ」
「まあいいじゃないですか〜。私がいれば安心って事で、行きましょう〜」
ファルガバードはふたりを連れて再び塔に向かった。
――――
ファルガバードが手を振ると、風を操りでもしたのか、煙は全て払われて視界が開ける。
円柱形のだだっ広い空間。窓や照明はないが、なぜか中は明るい。
ふたりが塔の中をキョロキョロ見ていると、壁から階段が螺旋を描くように出てきた。
「先に進めって感じですね〜」
階段といっても板が間隔を空けて連なっているだけで、安全性は心もとないので、例の如くファルガバードがふたりを抱えて階段を登る。
「これ、なんなんですかね?」
腕の中で唯が訊ねる。
「さあ〜?入って直ぐ番犬みたいなモノもいましたし、何か守りたいものでもあるんですかね〜?」
「あれが番犬て……スケールが違いすぎる。あぁ、早く日本に帰りたい」
「俺も」
既にふたりは疲れ気味だ。
長い階段を登りきると、今度は広々とした廊下が続いていた。一番奥には何やら部屋の入り口のようなものがある。
ファルガバードはふたりの要望で彼らを降ろし、3人で一緒に歩く。
「中は意外とちゃんとしてるね。外装はあんなだったのに」
「中まであんな溶けた縄文土器みたいな模様だったらたまったもんじゃない」
智博と唯が話す。
外装が躍動的で不気味であったのに対し、内装は綺麗な焼き物のような茶色で、落ち着いている。どこか神秘的だ。
長い廊下を進み、部屋に入った。ちょっとした四角い部屋で、中には何も無い。
「……行き止まり?」「なんも無いな」
「何か仕掛けでもあるんでしょうかね〜」
3人が部屋を調べようとした、その瞬間。入り口が勢いよく、シャッターのように閉まろうとする。
「――!」
すかさずファルガバードが贋月を噛ませ「ガゴンッ!」という音と共にシャッターを止める。
「びっくりしたあ!」「なに!?」
「罠でしたかね〜?」
ふたりは焦るが、ファルガバードは落ち着いて状況を見ている。
「ん?何やら音が聞こえますよ〜?」
ファルガバードに言われ、ふたりも耳を澄ます。すると、四方上下あらゆる方向からガタガタゴロゴロと、無数の音が聞こえる。
「……本当だ」「何か動いてる」
閉まらなかった入口から通ってきた廊下を見ると、壁、床、天井が転がり回り飛び回り、まるで原型を留めていなかった。
「やばあ!」
「この塔イかれてんな」
「塔全体の構造が変わってるって感じですかね〜。ここでじっとしていましょうか」
そのまましばらく待っていると、やがて音が止んだ。
途中、贋月を噛ませた隙間が埋まってしまって外の様子が見られなくなってしまったが、3人がいた部屋に大きな変化はなかった。
「終わったみたい……?」「だね」
「どうなったんでしょう〜」
3人が行動しようとすると、不意に部屋の天井と壁が吹っ飛んだ。
そこで3人が見たものは、階段、壁、道、奈落、横穴……建物をぐちゃぐちゃにかき混ぜたような光景だった。重力の向きを考慮していない頭の悪い階段。何も仕切っていない悲しい壁。その壁に向かって伸びる素行の悪い道。
欠陥なんて次元ではない。狂った構造をした大きな部屋だ。
「うわあ……。なんだろうこの気持ち、例えるなら、絶望的に生え散らかした歯並びを見たときと同じ気持ちだなあ」
「お前はなぜ、そんなとこにそんな向きで……」
唖然としながら、思わず生の言葉が出るふたり。
「ここまでくるとなんだか愉快ですね〜」
ファルガバードも驚いているようだ。
「これ、迷路ってことですか?」
「そういうことでしょうね〜。それもかなり複雑です」
「まずくない……?帰り道ももう分かんないですよ?」
複雑な部屋に完全に取り残されている。来た道を戻ろうにも、その道が無い。
「壁ぶち壊せばいいんじゃない?ファルガバードさんなら余裕でしょ?」
唯が言った。
「う〜ん、それがですね……見てくださいこれ」
ファルガバードは近くの壁の縁を掴み「ギギギギィ……」と圧倒的な力でひん曲げる。
「弾力備えちゃってるんですね〜」
「弾力……?」
ファルガバードが握っている腕の力をゆっくり緩めると、壁はグネンッと元の形に戻った。
「わお」「復元力のスケールでか」
智博も試しに、ファルガバードと同じところを押し込んだり叩いたりしてみる。ただの硬い岩だ。
「かなり壊しにくい素材ですね〜。壊そうと思えば壊せますけど、気をつけないとふたりもろとも……」
笑顔で怖いことを言うファルガバード。
「怖い怖い」
「ぜひ穏便にお願いします……俺たち壊れちゃう……」
「うふふ〜、冗談ですよ〜。そんなことしなくたって私には秘策があるんです」
「あ、実はあたしも思いついたんですけど、同じかな」
「え、唯察し良すぎない?俺全然分かってないんだけど」
「ユイさんは多分正解ですね〜。トモヒロさんは何か思いつきましたか?」
「うーん……右手をずっと壁につけるやつ……は使えるわけないし。そもそも迷路に必勝法なんてなくない?」
「正解は……デンッ!これです〜」
ファルガバードが出したのは、よくある教室がすっぽり埋まりそうなサイズがある贋月。
「でっか。びっくりした……。贋月、でしたっけ?」
「はい。これを使って……まあ見ててください〜」
ファルガバードが贋月に手を置くと、贋月は粉々に砕けた。
「おお……あー!なるほど!地下を調べたみたいに、それで探索するってことかですね?」
「正解です〜!これで迷路全体を把握しちゃいましょう〜」
ファルガバードは贋月を送っては砕き、砕いては送りを繰り返す。
その間ふたりは座って休憩。唯は智博を背もたれにして、智博は唯を抱えてだらんぺーとしている。
「かなり複雑な迷路ですね〜。上にも下にも入り組んでますよ〜」
大きな贋月数個分を送り終えたところで、ファルガバードが言った。
「だろうなあ。この見た目だもんね。立体的に広がってるよなあ」
「入った瞬間帰り道が分かんないってのもタチ悪い」
「あら、魔物もそれなりにいますね〜。ついでに倒しておきましょうか〜」
通路や広間に居座っていた魔物たち。贋月の粒子が全身にめり込み、即死する。
「魔物までいるのか」「恐ろし」
なんでもない表情で魔物を鏖殺するファルガバード。恐ろしいのはどちらだろうか。
――――
しばらく経って迷路の探索が終わり、ファルガバードが口を開いた。
「外への道と、それっぽい部屋への道が分かりました〜。他に、いくつか仕掛けのような物もありますね〜」
「うーん、まずはそれっぽい部屋のところまで行ってみて、ってカンジだな」
「そうだね」
「では行きましょうか〜。関係ない道は塞いで一本道にしておきましたので、あとは歩くだけです〜」
部屋にたくさんあった横穴や縦穴は、そのほとんどが贋月の欠片で塞がれていた。
一行は一本道になった迷路を進む。一本道とはいえ、上がったり下がったりして忙しい。
通路を抜け、広間に出て、階段を下り……。変わり映えしない光景がしばらく続く。
「なんかさっきもおなじところ通ったような……一本道なのに」
「それ俺も思った」
「今向かってる部屋は、かなり辿り着きづらくなってますからね〜。いくつかあった仕掛けは、その部屋に辿り着くための手掛かりだったのかもしれません」
「なるほど。この規模の迷路で魔物もいて、ヒント無しは流石にキツいもんなあ」
「そう考えたらファルガバードさんチートすぎる。戦闘力といい、空間把握能力といい、このダンジョンの想定を超えてるでしょ」
程なくして、上のところに文字が刻まれた特別感のある入口にたどり着いた。
「……読めない」
「日本語は通じるのに。文字はハゲ散らかったオヤジの頭みたいな形してるのはなぜだ」
残念ながら、ふたりにはぐちゃぐちゃの曲線にしか見えない。
「『人を見て己を知れ』って書いてありますね〜」
「お?自己相対化的なことを言ってらっしゃる?」
「なんかのヒントかな?」
書いてあることの真意はよく分からないまま、一行は進んだ。中は小さめの丸い部屋で、3つの台がそれぞれ中心を向くように設置されている。
「なんですかね〜。これ」
ちょっとした装飾がお洒落な台で、四角い3つのボタンがついていた。左から風、炎、水を連想させる模様が描かれており、色はそれぞれ緑、赤、青となっている。
「光の三原色だ」「魔法の属性的なヤツ?」
唯と智博がそれぞれ感想を口にする。
「風、炎、水ですか。いわゆる〈三大元素〉ですね〜」
「「三大元素?」」
ふたりは口を揃えて言った。
「ええ。この3つは、どんな形にもなることから万物の元だと考えられていたんですよ〜。遥か昔から存在していた魔法が風、炎、水を生み出す魔法だったこともあって、三大元素は特別視されたんですね〜」
「へー」「いかにも魔法っぽい」
「さっきの『人を見て己を知れ』ってやつとなんか関係ありそうですか?」
「う〜ん……。三大元素といえば『風は水を喰らい、水は炎を喰らい、炎は風を喰らう』というのがよくある文句ですけど、ピンときませんね〜」
「風って水を喰らうの?炎を喰らいそうじゃない?ね?」
「確かにな。でも風があると水は乾きやすくて、炎は酸素を使うからな。それか、この世界じゃ文字通り風が水を喰らうのかも」
「昔の人が考えたことですからね〜。真理でないこともあります」
「そういうもんか」
「じゃんけんでグーがパーに負けるみたいなもんだな」
「他のはどうだろう」
一行は他の2つの台も調べるが、全て同じ物だった。
「うーん、どうしよう。謎解きっぽいけどな」
「丁度3つありますし、3人でそれぞれ押すんですかね〜?」
取り敢えず、3つの台の前にそれぞれ立ってみる3人。
ファルガバードにとっては台が低かったが、持ち上げてみると高さが調節できた。
唯が、台の高さを決めかねているファルガバードにどのボタンを押してみるのか訊ねる。
「どの――」
唯の声は、上から落ちてきた壁と、ドッガッバンッ!!!という大きな音で遮られた。
ちなみに、私は方向音痴です