第5話 目標
今更ですが、この章は脈絡がありません。あまり繋がりを求めず、超短編がなんとなくそれっぽく繋がってると思ってもらえればいいかもしれません
私は違う。
幼い頃から、生きづらさを感じていた。
何故、それが幸せなのか、理解ができなかった。何故、魔法をそんなことに使うのか、理解ができなかった。何故、私はこうも後ろめたい気持ちになるのか、理解ができなかった。
納得がいかなかった。分からなかった。
貴女と出会うまでは。
――――
「やあ、今日は何をしようか」
今日も今日とて、私は貴女に問うのだ。
「今日は練習よ。丁度いい魔物が湧いたらしいわ」
「おやおや、不謹慎なこと言いますねえ。慢心ですか?」
ちょっと煽るように訊ねてみた。実はもっとしっかり真面目にキッチリ注意したかったのだが、冗談ぽく言った方が、貴女は好きかなと思いまして。
「慢心ではないわ。憂いているのよ」
「ん?というのは?」
「慢心というのは、自身の力を必要以上に信じる心のことを言うでしょう?そして、憂いというのは、他者の力を必要以上に信じない心のことをいうじゃない?だから、私は憂いているのよ。魔物の力が不足しているのではないか、と」
「ほう……。それは……つまり……慢心と憂いは表裏一体である、と?」
「違うわ。もしそうであれば、私は慢心を否定していない。大事なのは、意識がどちらに向いているか、ということ。自身なのか、他者なのか。私の意識は、もう既に他者へと向いているわ。だから私は、憂いなのよ」
「そうですか。なるほど。通りで」
貴女は既に、魔物と対面していた。そして魔物は、貴女の練習へと、変貌を遂げて。風になる。
「いやはや。もはや空が綺麗ですね。やはり魔法はこうでなくては」
貴女の素晴らしい魔法を見て、私は思わず美しいと思ってしまう。思わず、思ってしまう。
「私は嬉しいわ。そう言ってくれる貴方が側にいて」
貴女はこちらを向いて笑顔で声を出してくれる。とても綺麗に、美しく見える。
「いやいや……こちらこそ。貴女には感謝してもしきれない恩があるのですよ」
「?そうだったかしら?」
「分かりませんか?だったら別に言う必要もありません。私が勝手に思っておきますので」
「そう。好きにして」
「ええ。好きにしますとも」
私は持ち帰ることにした。
「さて、私もちょっとばかり練習をしたいのですが、教えてもらえますか?」
私は貴女に是非ともお近づきになりたい。その為には、貴女に教えてもらうのが一番であろう。
「いいわよ。でもその前に、貴方の意見を聞かせて」
「はあ。いいですよ。魔法に対する意見、ですか?」
「ええ」
貴女にそれを言うのは、おこがましくて少々はばかられるが……。訊ねられたのだから言うしかあるまい。
「やはり、ある程度、心は大切なのかな、と。気の持ちようというのも馬鹿にはできないということは、貴女を見ていれば分かりますし、通ずるものがあると思います」
「違うわ」
「あらら……。そうですか」
なんだか悲しい。というか、虚しい。
「違うというより、それは私が教えられることじゃないということなのだけれど。心については、貴方がやってみればいいわ」
「はい。で?」
「大切なのは、魔法陣よ」
「……ほう?」
「結論から言うと、魔法陣は鍛えられるわ。魔素の出力を鍛えるのと同じように、ね」
「それは新たな発見ですね」
非常に新しい。要は、自分の体と同じということだろう。
「ええ。やり方は単純、魔法陣を壊し、再生するのを祈るだけよ」
「おっと……?雲行きが怪しいように思いますが?」
「そうね。雨が降りそうね」
「うわあ……曇天のままでいてくれれば、私は嬉しいのに……。あるいは曇天がそのまま落ちてくれれば……」
こんな顔をしていても仕方がない。やろうか。
「フンッ!!……壊せばいいんですよね!?」
「いいえ。どちらかといえば再生の方ね」
「エッ!!」
遅い!遅いですよ!
貴女はいつだってそうなんだ!遅い!遅いんだ!
先回りしてる思っていても後回りしていたり!食べるのが早いなと思っていてもいつのまにか増えていたり!
一見すると思われることの逆を!貴女は常に行くんだ!一体何処を目指しているのか!
……くっ!逆だ!逆の方へ!
私は、貴女と逆を目指す――