第3話 未知
今回はまだストーリー性があります
奈落へ落ちた私は、1人無重力を堪能するのである。ここでは、頭から落ちても、足から落ちても、お尻から落ちても、全て同じ。つまり、適度に血が上り、顔が腫れるのである。
そんな私を見かねたのか、貴女は私に手を差し伸べ、奈落に底を作った。奈落に底ができた途端、頭から落ちるのと、足から落ちるのと、お尻から落ちるのとでは違う。当然、頭から血の気が引き、顔はげっそりするのである。
私はその時、幸いにも頭から落ちていた。私はよく「頭が柔らかいのね」と、貴女に言われていた。お陰で、助かる。
「ここは……」
貴女は言った。
ここは、見たところ地下である。ただし、落ちてきたからといって、そこが地下であると決めつけるのは、あまりに早計で失礼。例えば、雨は天から降って、地上へとやって来る。
「ここは地下でしょうね。薄暗く、真っ暗ではない。少しじめっとしていて、アレの栽培に向いていそうな、そういう空気が漂っていますので」
「確かに、薄暗く、真っ暗でなく、少しぬるっとしていて、空気がアレの栽培に向いていそうね。ここは地下だわ」
地上から落ちてきたので、ここは間違いなく地下。それも、洞窟だとか、穴だとか、洞穴だとか、そういう類のものだ。何故、こんなところに落ちてしまったのか。
「行きましょう」
私が思考する間も与えず、貴女は、勇敢に穴の奥へと進む。危険が潜んでいるとも知れないのに。
「そういえば、貴女は人体が得意と言ってくださいましたよね」
私はそことなく、もしもの時、貴女がどうするべきなのかを示した。
「ええ。そうよ。貴方が言いたいことは分かってるわ」
おお。察しがよろしい。貴女は洞窟に向いているのかもしれない。
「では、よろしくお願いしますよ」
私と貴女は石の上を歩いた。
――――
「あら……。息が止まっているわ」
「おや、本当ですね。おかしい……」
しばらく歩いたところで、洞窟が息をしていないことに気づいた。これでは、先に進むことはあまりに忍ばれる。
「どうしますか」
「道中、魔物がたくさんいたわ。そのせいかしら」
私はこの先どうするかを訊ねたのであって、理由は訊いていないのだが。それでも貴女は理由を答えてくださった。私は貴女に合わせる。
「確かに、道中、魔物が現れては消えてを繰り返していましたね。あれは、このための儀式だったのでしょうか」
「いいえ。あれは違うわ。私たちがかつて行ったものとは違う。あの魔物たちは、故意に消えていたわけではないの」
「ほう。というと?」
「貴方よ」
「えっ?」
貴方?というと、つまり私だろうか。貴女が貴方と言うとき、いつもそれは私を指していると思っているので。しかし、それでは意味が通らない。何故なら私は魔物を消してはいないからだ。
「貴女は、私がここの魔物を消し、遂には洞窟の息を止めたと、そう言いたいのですか?」
少々、言葉が強く聞こえる言い方をしてしまったかもしれないと、焦る。私は常に、貴女の気を刺激するような発言をするつもりはない。しかし、私があまりに虚飾を嫌うので、そんな私の思いを作用させる前に、言葉が飛び出してしまった。
「……帰りましょう」
貴女は、それだけ呟いて、息の止まった洞窟を後にした。私も貴女の後ろを歩いたが、その時の気持ちはぼんやりとしか覚えていない。
ただ、これだけは確か。
その時の私は、ずっしりと重い、大地を叩いたような音が、誰よりも似合っていた。
魔物、いたんすね




