第2話 儀式
もうちょっと短くしてもいいのかもしれない
お風呂から湧き上がってきた貴女。思い出せば、本日は素敵な日。素敵な日を、授かる日。ふたりで、授かる日。
「では、行こうか。集合の場所へ」
「ええ」
僕らは集合の場所へ赴く。赴く術は、己が脚と、魔法。
外を歩くと、風が心地いい。僕はさっきお風呂に入ったから。
「風が心地よいですね。空も……今にも落ちてきそうな曇天。風がよく似合う、いい天気だ」
「そうかしら。私には似合うけれど……」
おや。貴女は謙虚だ。素晴らしいが、好きではない。
貴女は大勢の人間に見送られ、手をかざされ、歓声を浴びている。もっと胸を張って、堂々としている方が好きだ。そして僕は堂々と。目を張って。
目を張ると、眼球と空気が触れる面積が大きくなる。すると、目は常に潤い――つまり水分を欲しているから、雨が降りにくくなる、ということだ。残念ながら、曇天は晴れないが。
集合の場所まで戻ってきた。ここでは、貴女は囲まれている。僕は貴女を見失わないよう、貴女の近くで目を閉じる。さっきまで張っていた目を閉じる。じわーっと、目が潤う。
何故だろうか。僕は空気から水分を奪っていたはずなのだが。これが理不尽というものか。僕は理不尽を知る。
「どうして貴方は目を瞑っているのかしら?」
貴女は僕に訊ねた。僕は答える。
「それはね、この世が綺麗だからですよ。この世界は美しすぎて、僕の目は潤いを求めるんです。目から潤いを求められた、目を持つ存在は必ず、曇天を待つか、涙を流そうとする。それと同じです」
我ながら、なんていい言葉なんだ、と思った。この世界の美しさと、涙に対する嫌悪感、そして画面越しの違和感を、見事に表現した一文。中々、口から音として出るものではない。
「……浅いわね」
「えっ?」
まさか。いま、貴女は「浅いわね」とおっしゃったのか。もしかして「浅いわね」とおっしゃったのか。そんな。そんな。
残念ながら貴女は間違っている。貴女のその「浅いわね」という発言は、まだ咀嚼していない口から飛び出してきた、未完成の言葉。僕の言葉は、胃や腸内、骨の髄まで巡りめぐって出た言葉。僕の言葉の方が、より濃厚で、しつこいだろう。
「貴方は『どうして目を瞑っているのですか』という問いに対して『この世が綺麗だから』と答えた。でも、貴方はこの世を知らないでしょう?貴方の口から出る『この世』はこの世を表すことができない。だから、浅いのよ」
「いいや、そんなことはないと思います。だって僕は今、目を瞑っているのですよ?それに、口から出たといっても、本質は音です。つまり、僕とは独立した『この世』なんです」
「そうね。確かに。貴方が言いたいのは、浅いのは貴方の口から出た『この世』ではなく、この世そのものということね。嬉しいわ。そう言ってくれて」
「こちらこそ、ありがとう。ありがとう……。僕を否定してくれて」
僕は、貴女に精一杯の感謝を伝えた。
――――
集合の場所まで戻ってきた。そして、集合の場所を終えた貴女は、私のところに駆けてきて、そのつま先を、私のつま先の近くに置く。
「私はどうやら人体が得意みたいなの。嬉しいわ」
貴女は嬉しそうに言ってくれる。それを見た私は、当然嬉しい。だが、それを面に出すことはあまりしない。何故なら恥ずかしいからだ。もっとも、それが恥ずかしいことだなんて、思ってはいないのだが。
「そうですか。奇遇ですね。私も人体が得意なんだと思います。因みに、人体というのは貴女ですか?それとも私?」
「貴方よ」
「おお。そうですか。私はどちらかというと私です。なので、これでは私ばかりが強くなってしまいますね。ははは……」
気まずくて、乾いた笑いが出てしまった。どうにも、こういう場面は苦手なのかもしれない。私は、不必要な優しさを持っているのかもしれない。もう少し、貴女とは仲良くしたいと、思っているのだが。
「気にしないわ。だって、私が貴方を守るもの」
「……?『貴方が私を守るもの』では?ありませんか?」
「あっ……」
貴女は頬を赤らめて、そのまま、勢いで、真っ赤に染める。ちょっと小さめの果実のようになったそれを見て、私は故意に落ちた。
どんどん、遠ざかって行く。
貴女のその、小さめの果実は。
さらに大きく、小さく。形は変えず。
そして私は、相対的に、奈落へと。
ああ
故意とはいえ。
音じゃないダメなことも多いですよね。ちなみに、私は喋るの得意じゃないです




