第4話 闇の中には何が
何度律に起こされるのでしょうか
「――くん!――ケン君!」
「……?んぉ……?」
律が起こしてきた……。なんだあ?まだ暗いぞ……。
「なに……」
「なんか音がするんだけど」
「え……?」
仕方ないので、起きる。
「音?」
「うん、外から。ちょっと見に行かない?」
「ああ……」
仕方ないので、律についていく。今日は満月で、外は比較的明るい。今気づいたが、夜空に月以外の星が無い。曇っている訳でもなさそうだが……。なんたることだ。
「あの井戸から……?」
律は音を探っているが、俺は空の方が気になる。
「ねえ、ちょっと来てよ」
「はい……」
仕方ないので、ついていく。俺も耳を澄ませると、確かに音が聞こえるような。
「やっぱり、この井戸からだよ」
「……」
井戸に耳を傾ける。なんとも言い難い音だが、確かに聞こえる。なんだろうか。不規則にベコッベコッといったような音が。
「水が湧いてる音か」
「あー。言われてみればそう聞こえるかも」
この井戸の水はかれていた。何かの拍子で水が一気に戻ってきたのではないだろうか。それで音が聞こえる、みたいな。
「ま、良いことなんじゃないか」
「うーん。そだね」
俺たちはお布団に戻って寝た。
――――
翌日。
「準備はこれぐらいでいいかな?」
「うん!なんとなくオッケーなんじゃない?知らないものも結構あるみたいだけど……」
俺たちは遠出の準備をした。日持ちする食糧、水、防寒具、動きやすい服装。他に、魔物や獣用の武器など。
レフ君曰く、この辺りは延々と森が広がっており、食糧はそこら中に転がっているという。なので食糧は非常食のみを持ち歩き、基本的には現地調達。
そして、魔物はそれなりに出るらしい。ということで、撃退用の武器は必須。レフ君が俺たちを眠らせたあの謎の道具は、簡単に相手を眠らせることができる魔道具なんだとか。
その魔道具と、あとは槍を持っていく。魔道具は相手の顔面に近づけないと効果が無く、リーチが相当短い。加えて、稀に眠らない魔物もいるとのこと。なので槍。というか、村には武器らしい武器が槍とナイフと弓矢ぐらいしかなかった。
槍の扱いに関しては、律なら問題ない。持たせてみたところ「わあ!本物の槍だー!初めて握ったー!」とか言いながら、体の一部みたいに自由自在に振り回していた。流石。
今日は、便利な魔道具の使い方をレフ君に教えてもらいつつ、もしかしたらということで村の人々の帰りを待つ。今日帰って来なかったら、俺たちはここを出る。
――――
「これは?この石みたいなのはどうやって使うの?」
「これはね、ケガを治す魔道具なんだ。あらかじめ魔力を込めたこれを水の中に入れて、そこにケガしたところをつけると治っていくの」
「へえ!すごーい!」
俺たちは魔道具の説明を受ける。中々凄いことができるものだ。日本と比べて技術が劣っているとも言い切れない。
「これがあれば多少無茶しても大丈夫ってことじゃん」
「おい……」
普段から無茶苦茶だろうに。それ以上ハメを外す気かよ。是非ともやめていただきたい。
「コイツは……」
俺は小さい手鞠のような物を手に取る。白くて、デザインがとても綺麗。
「それも魔道具だよ。魔力を込めると光るの」
「へえ」
魔力を込めると光ると言われてもな……。どうやればいいんだろうか。そもそも俺たちって魔力あるのか?
試しに軽く握ってみる。
――!!眩しッ!
それは白く激しく発光し、目に焼き付いた。
「うあ”ッ……」
「ハッハッハッ!!……じ、自滅っwケン君自滅してw自滅してて草ぁ!アハーッ↑」
律がバタバタして喜んでいる。楽しそうでなにより。だが、そんなに面白いのか。そんなに面白いなら定期的に自滅してやろうか。
「大人がそんなにグッとやっちゃったらダメだよ。もっとじわーってやらないと」
「そうか……」
そこまで力んだつもりはなかったのだが。多分、魔力制御的なヤツができていないんだろうな。そもそも魔力なんて出そうと思って握ってない。
ああ。目がチカチカして手元の魔道具の模様もよく分からない。これの扱いには気をつけるとしよう。
……お?なんだ?アレ……。
「ん?ケン君どうかした?」
俺の目線の先。例の大きな井戸の中から、白い光が湧き出ているように見える。いや、さっき光が目に焼き付いたせいか?しかし、それとは別に見えるような気もする……。
「目がチカチカしてよく分からないんだが……」
俺は律たちの背後、井戸の方を指差す。
「うおっ!なに!?アレ?」
「え……!?」
律もレフ君も驚いている。どうやら本当に井戸から光が湧き出ているようだ。
数秒経って、その光は収まった。
「なになに今の?」
「見てみよう」
俺たちは井戸の中を見に行く。
馬鹿みたいに大きなこの井戸。初めて見た時からおかしいとは思っていた。水がかれていると分かった時も、昨夜変な音がした時も。そして、今回の謎の光。ここまでくると流石に無視はできない。
「見た感じ……別に様子は変わっていないね」
前と変わらず、底は真っ暗でなにも見えない。
「あ、そうそう!レフ君には言ってなかったんだけど、昨日の夜この井戸からなんか変な音が聞こえたんだよね」
「えっ?本当?」
「うん。なんかベコベコって」
「そんなことが……なんかこの井戸おかしいよね?」
「うん。この井戸おかしいよ。やっぱなんかあるんじゃない?ケン君どう思う?」
「……様子を見に、中に潜ってみる価値はあるんじゃないか」
もはやこの井戸の奥に、何もないはずがない。村の人たちがいなくなった事とか、俺たちがここに来たこととかに関わってくるんじゃないだろうか。
「よし!じゃあ潜ろう!」
「そうだな。一度考えるか」
俺たちは予定を変更。井戸に潜って潜入する方針を立てる事にした。
――――
「まず、これを」
井戸に、火をつけた松明を落としてみた。
――カランッ!カラカラ……
返ってきたのは、乾いた衝突音。どうやら水はないらしい。ついでに火も消えていないようなので、酸素もあるはず。
「35メートルぐらいかな?」
律が言う。手を離してから音が返ってくるまで大体2~3秒だったから、計算するとざっと20〜40メートル。律は計算なんてしないので感覚なんだろうが、多分そっちの方が正確だ。
「縄を垂らして、正確な深さも測っておくか」
測れそうなものは測る。適当な長い縄の先に十分に重い石を括り付けて、下ろす。
しばらく下ろすと石が底について軽くなるので、そこで印を打っておいて、引き上げる。というか、律に引き上げてもらう。
引き上げてもらった石は、濡れていない。やはり水はかれているようだ。
「ケン君って身長いくつ?」
「多分、178」
「じゃあ私の方がキリよくていいよね。私170だから」
「ああ」
律の身長を参考に、縄の長さを測る。
「20……21。だから、35メートルか」
「おお!ほらあ!ピッタリだあ!」
「流石」
やはり律、感覚が鋭い。
「35メートルかあ。あんま降りたことないなあ」
あんまってなんだ。少しはあるのかよ。まあ、律のことなのでいい。にしても、35メートルか。深い。俺とかレフ君は行って帰って来れるのだろうか。
「どうする。律は潜るとして、俺とレフ君は上で待つか」
「えっ、そんな!お姉さん1人で行かせるわけにはいかないよ!」
「そうだよお兄ちゃん!私が怖くて漏らしちゃったらどうするの!」
それは、知らん。律が漏らしても俺は困らない。
「じゃあ、俺かレフ君のどっちかが律について行く。最低1人は上で待っていた方がいい」
3人とも下に降りてしまっては、ロープに支障が起きたりした場合、最悪戻れなくなってしまう。地上からアプローチできる人は必須だろう。
「どうする、レフ君。律と井戸に潜るか、上で待っているか。どっちがいい」
俺とレフ君、どっちが潜った方が合理的なのか、俺には判断がつかない。だから、子供にはやりたい方をやらせよう。
「……」
レフ君は迷っている様子。
「ボクは……」
かなり迷っている。どうした。上で待っている方が多分楽だぞ。
「んーと……」
もしかして気を遣おうとしているのか。俺が非力だから、俺が行くより自分が行った方がいいと、そう思っているのだろうか。あるいは、自分が村の人々を助けたいという気が強いのか。
「もし怖いようなら、無理に行く必要はない」
「うん……ちょっと怖い……」
そうか。怖いか。1人で半月暮らしたレフ君でも、怖いことはあるか。子供だし、苦手なことはたくさんあるよな。
「じゃあ、俺と律が井戸の中に潜る。レフ君は上で待機。何かあった時、上から助けてくれ」
「うん、わかった」
俺たちは井戸を降りる準備をする。
――――
準備したのは、45メートルぐらいの縄。人の体重を支えられるようにするために、村中から縄をかき集めてきてそれを一本にした。
一旦、使えそうな物を下に降ろす。そのまま下に置いていってもいいものを選んだ。飲み水、非常食少し、ナイフ、槍、縄、それらをまとめた布製の袋。これを2つ。それと、傷を治せる魔道具を1つ。
他には、例の光る魔道具。こいつは降りる時にも使う。魔力がなんたるかを知らない我々としては、予備として松明も欲しいが、残念ながら火を起こす道具が無かった。というのも、この世界の人間は魔法で種火が起こせるから、ライターに存在価値が無い。これが光らなくなったら終わり。
縄を伝って垂直に上り下りすることになるので、軍手っぽい手袋。あとは滑りにくい靴と、動きやすい長袖長ズボン。
眠らせる魔道具は1つしかなかったので持って行くのはやめた。基本、道具は井戸の底に放棄して戻ってくるつもり。今後リーナの街に遠出するときに使いたい。
「さて……」
「準備できたね!」
降りる準備はできた。ここから、まず俺が先に下に行く。というか、荷物の時のように降ろしてもらう。
そのための準備もした。縄が擦り切れないように、井戸の縁にはなめした皮を敷いて滑りを良く。縄の先端を輪っかにして、そこに両足を置けるように。光る魔道具は口に咥えても光ったので口に。
「大丈夫?ケン君。行けそう?」
「んぁ……」
口に光源を咥えているので、喋りづらい。……にしても、縄に足をかける最初の段階で死にそうだな。しかし、流石にそんなマヌケな死に方はしたくないので、頑張る。
縄を掴んで、真っ暗な井戸へと片足を突っ込む。そのままなんとか縄に足を乗っけて、半身は闇の中。
「ぉっくぇー」
「よし!オッケーだって、レフ君!私が調節するから、レフ君は私がいいって言うまで絶対に離しちゃダメだからね!」
「うん。わかってる」
律とレフ君が協力して俺を降ろす。
スル、スル、スル、と、だんだんと闇の中に。
眼前には壁。石壁でもないのに、いい感じにひと繋ぎ岩の壁になっている。不思議だ。
特にできることもないので、ロープを離さないようにだけ気をつけて、待つ。
――――
足が地についた。ロープから足を外して、光源をチカチカ光らせて上に合図を送る。
「ケンく〜ん!だいじょうぶ〜?」
上から律の元気な声が聞こえてきた。怪我もなく無事なので、もう一度適当に光源をビカビカさせておく。
「おほ〜。元気だ〜!」
なんだその反応。まあ、喜んでるみたいで、何より。
「じゃあ、今度私行くからね〜!待っててねケンく〜ん」
ふう。律は心配いらないだろう。もし仮にそのまま落ちても骨折で済みそうな人だし。俺は少し、この辺りの様子を見ておこう。
ライトを握って、辺りを照らす。ぱっと見は想像通り、円柱状の空間だ。しかし、不可解なことが起きているこの井戸。何も無いはずはない。もう少し辺りを調べる。
「……あった」
見つけたのは、怪しげな横穴だった。
ちなみに、35mはだいたい、自由の女神の身長ぐらいだそうです




