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愛する男女の異世界物語 〜因果と愛の理由〜  作者: コリコリノチカラ
序章「事変」
2/33

第2話 驚きビックリ

前書きって、適当に意味ないこと書いておけばいいんでしょうか。


 昼。空を飛ぶファルガバード。彼女は豊かな自然と菜園に囲まれた邸宅に向かっていた。


「ただいま帰りました〜」


 ファルガバードは空から直接、バルコニーに降り立つ。直後、待っていたかのようにダスターが部屋の扉から現れた。


「お帰りなさいませ。ファルガバード様」


 ダスターの、品性の感じられるお辞儀。まるで執事だ。


「ふたりの様子はどうですか〜?」

「徐々に現状を受け入れているご様子でした。お昼を食べ終わって、今は部屋でくつろいでらっしゃるかと」


 唯と智博が目覚めてから丸1日。気持ちの整理をさせるために、ファルガバードはふたりに1日自由に過ごさせた。


「そちらはどうでしたか」


 ダスターが訊ねた。


「まあ適当に〜。ふたりのことはショコショコ様にだけ伝えておきました」

「そうですか。確かに、彼らは特殊ですからね」


「さて、私はこれからふたりと蜜月の時を過ごしてきますので〜」

「はあ。……くれぐれもおふたりを困らせることはなさらないように」


 ダスターは呆れた様子で言った。


 ――――


 ふたりが居る部屋の前までやって来たファルガバード。扉の前に立つと、中から小さく声が聞こえる。


「――怪しくない?」

「気持ちは分かる」

「なんか素性が分かんない感じするしさあ」

「あたしは、あの人悪い人じゃないと思うけど。少なくともあのおっぱいは正義。あとめっちゃいい匂いする」

「まあね。でも、正体不明の目隠し巨人おっぱいだよ?正体不明、目隠し、巨人の部分がまだ怖くない?」

「うー」


 聞こえて来たのは、ファルガバードに対する不信感の言葉。唯はおっぱいに釣られてそこそこ信頼しているようだが、智博はまだ警戒している。


 ――まあ仕方ないですよね〜。


 ファルガバードはドアをノックして扉を開ける。


 部屋では、唯が智博を背もたれのようにしてソファでくつろいでいた。ファルガバードに気づくと隣同士にちゃんと座り直す。ソファがファルガバードサイズなので、背もたれを使えていない。


「どうも〜。調子はどうですか〜?」


 ファルガバードはふたりと向かい合ってソファに座る。


「なんともないです」「ご飯から何まで用意してくれて、おかげさまで」


「それはよかったです〜。ダスターさんの作るご飯は食べやすいですからね〜。味は75点ぐらいですけど」

「そうですか?俺たちでも美味しく食べられましたよ」

「うん。美味しかったです」


「あら。この前ダスターさんは『あのおふたり、ふたり一緒に食べればなんでも美味しいって言うんじゃないですかね』とか言ってましたけど〜。仲が良いんですね〜」


「あー……」

「事実かも知れん」

「うふふ〜。可愛いですね〜」


 ファルガバードは笑顔で言った。


「……さて、これを持って来たんです。はいどうぞ〜。着てみてください」


 ファルガバードがどこからともなく出したのは、真っ白なフード付きのローブ。ちゃんと2つある。


「なんですかこれ?」

「なんか、魔法使い感」


「最新の服です〜。下着の上から羽織ってください」


 ふたりは言われた通りローブを羽織り、余分な服は脱いだ。


「わあ。唯可愛い。虎視眈々ってカンジ」


 ダボついたフードの中から顔を覗かせる唯。智博はその顔を両手で包んで、頬をぷにぷにしている。


「あたしそこまで目つき悪くないし」

「可愛い」


「うふふ〜。そのままでも可愛いですね〜。でも流石にヘンですので――」


 ファルガバードは指をパチンと鳴らす。すると、ふたりの着ているローブが、少し衣装じみたカッコいい服へと変化した。


「うわっ!」

「びっくりした!」


 唯は藤色、智博は鶯色を基調とした服で、あのてろんとしたローブが変化したものとは思えないほどしっかりとしている。


「おお……!いいね、少しコスプレ感あって」

「智博似合ってるぞ。なんかちょっと面白いところが」


「どれがいいですかね〜、自由に変えられるんですけど、う〜ん、なんでも似合っちゃいますね〜」


 ファルガバードは次々とふたりの服を変化させながら言った。美形のふたりなので、どの服もある程度似合う。


「じゃあ最初のやつにしてください。なんか色が日本ぽかったし」

「彩度低めのちょっとくすんだあの感じね」


「あら、そうなんですか〜?ではそれにしておきましょうか〜」


 ファルガバードはふたりの服を戻す。


「――ハッ!」

「どうした唯!」


 唐突に何かを閃いた唯。


「エッチなこと思いついた!」

「なにッ!?」「なんですと!」


 無駄に深刻な反応を示す智博とファルガバード。


「この服って、ドスケベな服とかにもできるんですか?」

「できますよ〜?もしかして――」


 ファルガバードがニヤつきながら、不審な手の動きで唯に迫る。


「違いますよ!そうじゃなくて、普段勝手に服変えられたら嫌だなぁって。ファルガバードさん変態だから……」

「確かに!唯の服を無理矢理脱がすような真似したら、俺が許しませんよ」


「そんなことしませんよ〜、私は変態であってもゲスではないんです。一応ほら、これを見てください〜」


 ファルガバードは1枚の紙を取り出す。

 そこにはぐちゃぐちゃした曲線と緻密なシンボルが描かれていた。


「……ほう。散らばったベビースターラーメンの版画ですか」

「いや、ひと月放置したボールペンの試し書きコーナーだな」


「う〜ん、何言ってるかよく分かりませんけど、これはその服の許可証です」

「許可証?」「そんなものいるんですか?」


「そうなんです。他人のものでも変えようと思えば誰でも変えられることが欠点で、この服や技術はまだ世に公開されていないんです。私は特別に使えますけどね〜」


「へえ……なんか凄いなあ」

「ファルガバードさんはなんで使えるんですか?」


「そうですね……言うならば『英雄』だから、ですかね」


 ファルガバードは遠くを見つめるように、少ししんみりと言った。


「あれ……厨二入ってますか?」

「掴めないなあ」


「あ!そう言えば〜。ふたりは元の世界に帰りたいんですよね〜?」


 ファルガバードはケロッと話題を変える。


「はい」「日本に」


 ふたりの目標は故郷に帰ること。ファルガバードはそれに協力することを約束していた。


「色々情報を得るために、王都シルクスにある〈全書庫〉への入館許可を取っておきました〜。近いうちにそこへ行きましょう」


「ゼンショコ?」

「全ての本が置いてある書庫です〜」


「全ての本!?」

「凄!なんでも調べられるじゃん!」


 ふたりはとても嬉しそうに言った。


「えへへ〜、褒めてくれていいんですよ〜?」

「ほめ……褒めてあげますよそりゃ!偉い!凄い!というかありがとうございます!」

「感謝!」

「まあまあ、ふたりの為ですからね〜」


 ファルガバードは得意げに笑った。


 ――――


「さて、今日は〈風の草原〉を検証しに行きましょう〜」

「俺たちが倒れてたっていう草原ですね」

「そこに何か手がかりがあるかも」


 王都シルクスへ赴くのは後日にして、ファルガバードとふたりが出会った場所に行くことにした一行。

 見送りにダスターもついて、菜園が広がる庭に出た。


 ふと、ファルガバードがしゃがんでふたりに向かって手を広げてニコニコし始める。


「おお……」

「え、なんですか?そういう文化?」


 困惑する智博。助けを求めるかのようにダスターに視線を送る。一方、唯は目の高さまで降りたファルガバードの胸を凝視していた。


「ファルガバード様。おふたりの気持ちも考えませんと……。夫婦水入らずの関係に割って入るようなことしないでください。みっともないでしょう」

「夫婦ではないです」


 唯が訂正する。


「別に私はそんなことしようとしてないですケド。安全に移動する為にふたりを抱えようとしているだけなんですケド」


 ファルガバードは拗ね気味に白々しく言い訳した。


「ならばサッと抱えてサッと飛べば良いでしょうに。なにも両手を広げてドンと構えてニヤニヤしなくても……」

「あ、飛ぶ?え、飛ぶんですか?」


「むぅ。分かりましたよ〜。さっさと行きますぅ」

「えっ、ちょ。飛ぶってどんな感じ……」


 飛ぶと言われてビビっているのを無視して、ファルガバードはふたりを抱える。その際、ふたりの顔はしっかりと胸に埋められる。


「ムギュ!!」「むにゅ!!」


 適当に体を動かして形だけの抵抗を見せるふたりを腕とマントで包み込み、ファルガバードはグッと地面を蹴って空を飛んだ。


「「うわあああぁぁぁぁ――」」


 数秒後にはファルガバード邸が小さく見えるほど高く、雄大な自然が一望できるほど高く飛んでいた。


 空は青く、雲は躍動し、風は冷たくも心地よい。所々に岩肌が見える山々は連なって力強く構え、なびくように曲がった川は穏やかに流動する。

 羽の生えたトカゲの群れが空を飛び、森の中から空まで飛び出した双頭の蛇がそれを狩る。


「うわああぁぁぁぁ!!すげえーー!!」


 ファルガバードの胸から顔を出して景色を見た智博は大興奮。これほど高所にいるのに、身体に掴まっているだけ、という状況への恐怖も忘れて目を輝かせている。


「オイ智博!もしかして今空!?空にいんの!?」

「うん!飛んでる!すげえ!」

「おいマジかよ!あたし怖くてとても見れないわ!」


 智博が横を見ると、唯はファルガバードの胸から抜け出さないで若干モゴモゴしながら叫んでいた。


「……おっぱい好きなだけでしょ」

「うむぅ。でも一応、怖いのも事実だから」

「好きにしてていいですよ〜。絶対に落としたりしませんから、安心しててくださいね〜」


「いやあ!そう言われると逆にちょっと怖い!」

「うふふ〜。じゃあしっかり掴まっててくださいね〜」


 ファルガバードが空中で贋月を蹴る度に、ふたりの体にはグッと慣性力がかかり、その度ふたりがファルガバードにしがみつく力が一瞬強くなる。


「うわっ!あのでっか過ぎる蛇はもしかして魔物ってやつですか?」


 景色を眺めていて、双頭の蛇に気づいた智博がファルガバードに訊ねた。


「そうですよ〜。この辺は大きい魔物が多いんです」

「ひえー、恐ろしや。あんなのに来られたらパクッといかれちゃうよ」

「えっ!?そんなデカいの?てか、マジで魔物いんの?」


 異界の生物の存在に、興味と恐怖が混じった感情を抱くふたり。


「魔物はですね〜、主に人気の無い場所に湧いて出る生物で、繁殖能力もないんです。技術が発展した今でも、謎多き存在ですね〜」


「へー。謎なんですか。……いやあ、にしても、襲われないか怖いなあ!さっき飛んでる鳥食べてましたよ?」

「は?マジ?おかしいだろその蛇」


「まあまあ、安心してください。絶対に大丈夫ですから〜」


 そう言いながら、物凄い速さで真下から飛び出して迫ってきた2つの巨大蛇の口に、贋月を文字通り喰らわせて撃退するファルガバード。


「うわぁッ!!!えっ!!今ッ!!今!!ねえ!!」

「おい!なんだ智博!怖い!!怖いぞ智博ぉ!!」

「あはは〜」


「「あははじゃない!!!」」


 仲良くファルガバードを怒鳴る、唯と智博。


「うふふ〜」 

「「うふふじゃない!!!」」


 その後、ふたりは見慣れない動物や魔物、植物や地形などに出会いながら数時間空を飛んだ。


 その雄大な世界の景色は、ふたりにとってこれまでにないほど刺激的だった。心の奥ではまだどこか疑っていた、異世界へやって来たという事実を認めるには十分過ぎるほどに。


 ――――


「そろそろ見えてきますよ〜」


 見渡す限りの大草原を飛ぶファルガバード。遠くに見えた始めたのは、ファルガバードが出すものと同じ、月のような岩。何も無い草原にポツンと置いてある。


「贋月を置いておいて正解でしたね〜」

「ガンゲツって言うんだ、あれ。贋作の月ってことか」

「あそこが、俺たちが倒れてた場所……」


 ファルガバードはその贋月の側に降り立ち、ふたりをそっと地面に降ろす。


「うーん……!やっと着いたあ」

「地面久しぶり!」


 草原の上で気持ちよさそうにストレッチするふたり。


「いやぁ。あたしたち、本当にこんなところにいたのか」

「本当だよ。信じられない」


 周りを見渡すふたり。一面の大草原で、心地よい風が吹き続けている。


「どうです?なにか心当たりはありそうですか?」

「いや、全く」「ないですね」


「そうですか〜。倒れていたのは丁度ここですね〜。向かい合うカンジで、ユイさんが左、トモヒロさんが右でした〜」


 ファルガバードが指を指して当時の状況を説明する。ふたりはそれを再現してみようと、草の絨毯に寝転ぶ。


「こんな感じですか?」

「そうですね〜。寄り添ってて可愛かったです〜」


 しばらく見つめ合うふたり。


「……可愛いね」「わざわざ言わなくていい」


 惚気る。


「で、ここってなんかあるのか?特別な場所って感じはしないけど」

「そうだね。ゲートっぽい何かがあるかなあと思ってたけど、何も無いね」


 ふたりは寝転がったまま話す。

 ここの周囲には何かあるわけでもなく、ただ他と同じ草が青々と生えているだけ。


「私から見ても何かあるようには見えませんね〜。一度しっかり調べてみますか〜」


 ファルガバードはそう言うと、にわかに贋月を出し、器用にそれを真っ二つに割った。


「こちらへどうぞ〜」


 贋月の平らな面にふたりが乗るように誘導して、乗り終えたら宙に浮かせる。


「なにやるんだろ」「さあ」


 下にいるファルガバードを見ながら、何をやるのか気になるふたり。


 ふたりが見ていると、ファルガバードは自身の周りにいくつもの贋月を出現させ、触れる事なくそれらを崩壊させ始めた。

 ゴキッ、バコッ、という重い音がしばらく続き、最終的に砂のようにまで細かくなったそれを辺り一帯に広げる。すると、間も無くしてメリメリッ、ミチミチッ、という音が聞こえてきた。


「なんだ?」

「これ……ちっちゃい粒を地面にめり込ませてんじゃないか?地下を調べてるって事?」

「すごい音だね。サラウンドなメリメリ音って。うんち包囲網じゃん」

「おいバカやめろ智博」


 ――――


「う〜ん、結構な広範囲を深くまで調べたんですけど、怪しい物は何も無かったですね〜。魔法陣とかも無かったです〜」


 しばらく探り、贋月からふたりを降ろしたファルガバードはそう言った。


「ここに特別何かがある訳ではないってことかなあ」

「多分そうなんだろうな」


「では、他に人がいたりしないか、少し周りを確認しながら今日は帰りますか〜」

「そうですね」


 諦めることにしてファルガバードがふたりを抱えようとした、その時。


 ――!?


「ん?どうかしマ”ッ!!」「ウブッ!!」


 ファルガバードがハッとした表情をしたかと思うと、次の瞬間にはふたりを抱えて勢いよく跳躍。その慣性力で変な声が出る唯と智博。


「びっくりしたぁ!なんだなんだ!?」

「軽い交通事故だよ……」


 驚いて目をパチパチさせる智博と、クラクラと目を回している唯。

 一方で、ファルガバードは冷静に何かを眺めていた。


「……また変なことが起きましたね〜」


 ファルガバードの言葉を聞いて、さっきまで自分たちが立っていたところを見るふたり。


「うわっ!なっ……!」

「なんじゃありゃああ!!」


 そこには大地を揺らしながらグングンと生えている、不気味で巨大な塔があった。


ちなみに、唯は「だなぁ」智博は「だなあ」で概ね統一してあります。


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