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愛する男女の異世界物語 〜因果と愛の理由〜  作者: コリコリノチカラ
序章「事変」
13/33

第13話 ニキの街

観光いいよね


 川を下るボートの上。ニキの街を遠目に見るふたり。


「あれがニキの街。別名、水車の街とも言われています」

「へぇー」


 智博は手を筒にして、それを覗くように街を見る。


「ほんとだ。こっからでも水車らしきものがちらほら見える」

「お前相変わらず目、良いな。あたしも両目1.0あるはずなんだけど」


 唯も智博の真似をして、目を凝らして街を見る。が、あまりよく見えない。


「うーん……なんかキラキラしてることしか分からん」


「あっ、あの小さく見えるの……人だ!」

「マジ?この世界にもちゃんと一般ピーポーいた?」


「うん。あれはパンピーに違いない。いやあ、この世界で今まで会ったのって、普通じゃなさそうなのばっかりだったからなあ」


「それな。デカ目隠しおっぱいとかゴリ押し執事風とかツノ生えた狂人とか白い威圧貞子とか、ドジっ子眼鏡とか大妖精とか子供ドラゴノイドとか抱きついて闇ワープする女の人とか……」


 唯は早口で言った。


「ほう。人外6、眼鏡1、紳士1ですか。私がいなければ危なかったですね……」

「ん?」「お?」


 ふたりはダスターに疑念の目を送る。しかし、その目は完全無視のダスター。


「さて、このまま舟で突入することはおそらく推奨されていません。もう少し先で降りて、歩いて向かいましょう」


 しばらくしてダスターは船を川岸に寄せ、一行は河原に降りた。


「確認ですが、余計な発言には気をつけるようにお願いします。おふたりの身元や、その特別な服。塔に関しても現在は正体不明ということになっていますし、侵略者云々はもっての外です」


「はい。分かってます」

「ダスターさんこそ気をつけてくださいよ?」

「ええ。私も気をつけます。では、行きましょう」


 一行は街へと歩き出した。そんな時。


「……あ!いいこと思いついた!」


 唐突に智博が閃く。


「なに?」

「そーいえば、この服ってどんな服にも変えられるじゃん?」

「うん」


「で、一応今の目的って、他の日本人を探すってのがあるじゃない?」

「うん」


「だから……」


 智博が手帳を取り出し、何やら書いて唯に見せる。


「こんなのどう?」

「えぇ……。やだ。それあたしもやるの?」


「うん」「えー」


 少しの間、揉めるふたり。


 そして最終的にふたりは――


「ふむ。中々に芸術的な模様でございますよ」

「ほんとですか?これ……」


 唯が着ているのは、前面に大きく”I LOVE JAPAN“と書かれた白いTシャツ。JAPANのPを赤色にすることで、日の丸を演出している。背面には「日本人を探しています」の文字。


 智博が着ているのは、前面に縦書きのふりがな付きで「異世界人《いせかいんちゅ》」、背面に”KAWAII IS JUSTICE ”と書かれた白シャツ。


 どちらも、地球人、特に日本人の目に留まりやすいデザインとなっている。


「これを見た日本人はもう、それはもう声をかけてくるでしょ。我ながら良いアイデアだなあ」


「『良いアイデアだなあ』じゃねぇよ。マヌケか?これはダサい。あまりにダサいぞ智博。絶対悪目立ちするでしょ」

「そうかな?」


「悪目立ちというほどではないでしょう。街には様々な格好をしている人がいますから」


「じゃあダスターさんも着る?」

「え。それは……。私は着たくありません」


「おい。着たくない言われてんぞ智博。女の子にダサい服着せるとかないわぁ。智博、ないわぁ」

「えー?可愛いのに。唯の私服と大差ないよ」


「おいお前。あたしの私服がダサいって言いたいのか」

「うん。でもダサくても可愛いよ!唯だからね!しかもこれならペアルックだよ?たまには良くない?」


 唯は智博に向かっていきなり無言でタックルする。


「なぜっ!!」


 ――――


 なんやかんやあって結局、恥を捨ててクソダサペアルックで街へ赴くことにしたふたり。


 街の入り口前には、大きくて毛深い馬のような生き物が、荷台と共につなぎ止められているものがいくつかあった。馬の世話をしている人も何人かいる。


「馬だ……」「人だ……」


「この街は元々紙作りで発展した街ですが、今ではウナレスとユーナブラスカを繋ぐ、物流の中継地点としても発展しています」


 馬を見ていたふたりを見て、ダスターが解説する。


「へー」「確かに、水路とか水車なんか使いそう」


 街に入り賑やかそうな場所に向かって歩くと、大きな通りに出た。


「おお……!すごい。結構賑やか」

「街だぁ」


 石のタイルで舗装された道の脇には開放的なお店らしき建物が並んでおり、昼時だからか人も多い。また、会話も方々から聞こえる。


「なあ、見たか?北に出てきた不気味な塔!」「おう。ありゃホントになんだぁ?」「近づいちゃダメってお達しが今朝来たのよ」「怖いわあ……」「相変わらず水車みたいな歯してんな!」「うるさいわい!」「うちの水車壊れてさあ……」


 哨戒ノ塔の話題もチラホラ。


「思ったより人いっぱいだね!てか、目と髪の色は本当に色々だなあ。おっ、なんか槍みたいなの持ってる人もいる……」

「すげぇな……」


 ニキの街並みや人々を見回して感動するふたり。


 よく見ると、ふたりには見慣れない道具や食べ物があちらこちらに。球体の鉄板や、やけに緻密な装飾。ゴツゴツした石のような食べ物。


「ここはまだユーナブラスカ色が強いですね。ウナレスの街は素朴な木造であることが多いですが」

「へぇー、そうなんですね」


「それと、このような紙の飾り物はニキの街ならではです。これ、中々緻密でお洒落ですよね」


 ダスターは近くのお店の軒下取り付けられているそれを手で示す。


 拳くらいの球体のガラスの中に、曲線と直線が規則的に並んだ綺麗な立体が吊り下げられていた。


「うわっ。これ紙?すげぇな」

「折り紙のレベルたっか!どうやってんだろうね、これ……」


「名物〈ミルクもっち〉いかがですかー!甘くてモチモチおいしいよー!いかがですかー!」


 ふたりが紙の飾り物に感心していると、店の女の人が声をかけてきた。気になって中の様子を見ると、お客さんが白くてのっぺりとしたものをナイフで切って食べている。


「なんだあれ」

「気になるぞ」


「せっかくなので食べていきましょうか。私も少し気になります」

「いいですね」「賛成!」


 3人は店の中に入り、ミルクもっちを人数分頼んでテーブルに座る。


「……結構綺麗というか、ちゃんとお洒落だね」

「うん。あんまり違和感ない」


 店内を見回して様子を観察するふたり。店内は清潔に保たれていて、ちょっとした装飾がいい雰囲気を醸し出している。


「さて、折角ですのでおふたりには勘定をしてもらいましょう」


 ふたりが店内を見回していると、ダスターが懐から財布を取り出した。


 その財布は、財布というよりコインケースのような作り。金属製で、丁度手に収まって握りやすい、太くて短い棒のような形をしている。


「出た。情報化された現金」

「魔法のお金な」


 智博がそれを開けると、中は仕切りがズラッと並んでおり、そこに硬貨を差し込んで収納してある。


「ミルクもっちは1つ5価です」

「えー。ちょっと待ってくださいね」


 智博は手帳を取り出し、お金についてまとめておいたページをめくる。


~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~

◆お金について

1価=50円ぐらい(?)

種類と模様、価値は以下の通り。


 小銅貨 火 1

 中・貨 水 5

 大・貨 風 15

 小銀貨 剣 60

 中・貨 槍 300

 大・貨 盾 900

 小金貨 山 3600

 中・貨 滝 18000

 大・貨 樹 43200

 王金貨 城 2,592,000 (価)


 穴の形と外側の形でも区別できる。

 穴の形で大中小、外側の形で金銀銅。


 小:円 中:四角 大:なし

 銅:円 銀:八角 金:六角

~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~


「えー……15価だから中銅貨3枚か大銅貨1枚か。んー。でも銅貨が見当たらないから、小銀貨1つ出して、大銅貨3枚のお釣りを貰えばオッケーですね」


 智博は財布から丸い銀貨を選んで、1つ取り出す。


「正解です。計算は問題無さそうですね」

「いぇい。これぐらい余裕ですよ」

「高等学校を出てますからね。簡単な微積ぐらいまでなら余裕よ、よゆー」


「うわ。唯がイキってる」

「節々で威厳を見せつけていかないと。舐められるからな。むふんっ!」

「唯は何と戦っているんだ……」


「お待たせしましたー!ミルクもっち3つでーす」

「おっ。はやい」


 頭にバンダナを巻いた女性が、木のプレートに乗ったそれを持ってきて机に並べた。

 そして、机に出しておいた小銀貨をつまむと、それを捻るようにスライドして大銅貨4枚に分解した。


「どうもー。大銅貨1枚で。お水はあちらで無料ですのでご自由にどうぞー」


 奥の方を指してそう言って、大銅貨1枚を持って店員は去って行った。


「うーん……」


 智博は残った銅貨を手に取り、先ほどの店員と同じようにつまんで捻ってみる。しかし、ただ手から落ちるだけ。


 ダスターは大銅貨を手に取り、小銅貨3枚に分解して、そしてそれを重ねて元に戻してみせる。


「便利です。かさばらず、持ち運びやすい。昔は重く扱いづらい硬貨をそのまま持ち歩いていたというのだから驚きです」


「……不思議だなあ」

「本当にな。重さはどこに消えてんだよ」


 不思議に思いつつも、お金は支払えたのでよしとして、ふたりは手元のミルクもっちを見る。木のお盆の上で、少し黄色がかったそれがたるんとしている。


「なんか思ったよりデカいな。DかEぐらいあるぞ」

「……え?もしかしてミルクもっちのことおっぱいだと思ってる?唯」


「は。当たり前だろお前。ミルクもっちってそれもうおっぱいじゃんか」

「違うよ、唯。ミルクもっちはおっぱいじゃないんだよ」


 おっぱいにアツい想いを抱いている唯を、智博が諭す。


「いや、おっぱいだね。広義の意味で」

「そんなこと言い出したら、もうなんでもおっぱいじゃん」


「違うし。おっぱいを舐めるな。ちゃんとあたしの中で広義の意味のおっぱいと狭義の意味のおっぱいが定義されてるんだよ。ちゃんと無い辞書には載ってる」


「無い辞書には載ってるって、それ載ってる辞書無いですやん」

「黙れぇ!屁理屈を言うな!」


「そんなあ……ところで、唯のは広義の?」

「……は?オイお前。あたしのが定義を広く捉えないとおっぱいと言えないとでも言いたいのか!」


「おっぱいというには可愛すぎる」

「黙れぇ」


「あれ?俺の方がでかくない……?」

「オイ気づくなそんなこと。それ以上気づいたら智博お前……女になっちまうぞ」

「はっ!!」


 ――さっきからおふたりは何を言っているのでしょうか。やはりファルガバード様が悪い影響を……。まあいいです。食べましょう。


 ダスターはふたりを無視してナイフでもっちを切る。


 ――ふむ。手応えで分かる、この程よい弾力。中に何か入っているわけでもなく、ぎっちり詰まっているわけでもない。程よく軽い。


 切り分けたそれを口へ運ぶ。


 ――想像通りのもっちりとした歯応え。ミルク感を損ねない程度の優しい甘さ。そしてチーズのような旨味。この2つが混ざり合って絶妙な味と風味を醸し出している……。これは非常に美味しいですね。


「なんこれうっま」

「うま。ウマウマ。なにこれうま。いや、うま」


 いつの間にかふたりも幼稚な感想を言いながら、パクパクそれを食べていた。


 あっという間に全て食べ切った3人。


「美味しかったですね」

「いやー。美味しかった」

「意外とあの量いけるモンだな」


「ふぅ。ちょっと水飲も」

「あ、俺も」


 ふたりは席を立って、店員が案内していた店の奥に水を探す。


「あれか」


 店の奥に、丸っこい切り株のような形をした水桶と、その横にコップがあった。ちょうど、他の客が切り株の下にコップを置き、栓をひねって水をジョボジョボ出している。


 その客は、注ぎ終わったコップを取ると、もう1つコップを置く。そしてもう一度栓をひねるかと思いきや、何かに気づいたような素振りの後、水桶に手をかざした。


「冷却魔法・操作」


 そう言って少しの間手を添えた後、再びコップに水を注いだ。


 一連の動きを見ていたふたり。


「……なに今の」

「さぁ。魔法ってあんなカンジだったっけ」


 ヒソヒソと話す。


 店内でふたり以外は、その客の行動に全く気を留めていない様子だった。


「ま、いいや」


 ふたりは水を注いで席に戻る。


「――ぷはー。ふぅ、水うま」

「ごちそうさま」


 冷たい水をごきゅっと飲んで、満足した様子。


「さて、行きましょうか。今夜泊まる宿を探さなくてはいけません」

「よし、行きましょう」


 一行は店員にお礼を言って、店を出た。


~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~


 夕方。


「ふう。遅くなっちゃったけど宿、取れましたね」

「ええ。ふた部屋空いていてよかったです」

 

 ベッドに腰をかけて一息つくふたりと、それに向かい合って椅子に座っているダスター。


「どうですか。この街に来た感想は」


「いやー。やっぱり新鮮ですね。一見俺たちがいた世界と大差ないけど、みんな魔法が使えるっていうのがどうにも」


「魔法が使えないと使えない道具で溢れてるのを見ると、やっぱこの世界であたしたちが生きていくのは難しいかなって」


「そうですか。……かも知れませんね。モノに魔法陣を刻む技術が誕生してから、ここ100年で魔道具もかなり普及しましたし」


 ダスターはふたりに気を遣ってか、残念そうに言う。


「魔道具ですか。あの不思議なお金も確かそれでしたよね?」

「ええ」


「モノに魔法陣を刻んだ道具が魔道具で、俺たちはその魔法陣に魔素を流せないから扱えないと」

「はい。その通りです」


「酷いなあ。魔法が使えない人が魔法を使うための道具が魔道具じゃないのか。はあ」


 智博は背中からベッドに倒れ込んでため息を吐く。


「まだ魔法使うの諦めてないのか智博。こちとらファルガバードさんと魔王のお墨付までもらったアンチマジックピーポーだぞ」


「いや、なんか俺ならイケる気がするんだよねえ」

「無理だろ。どっちかと言えばあたしの方ができる」


「いや、それはよく分からないけども……」

「だってお前は魔法使いというより戦士じゃん」


「違う。魔法剣士がいい」

「男子め……」


「あ!そーいえばさ。なんか魔法使う時に呪文唱えてる人居たよ?」


 智博が急に起き上がって言った。


「『冷却魔法』とか言って。やっぱそういう呪文が大切なんじゃないの?」


 『冷却魔法』の部分を、手をかざして無駄にカッコつけて真似する。


「ああ。あれですか。魔法の発動には本来〈宣告〉が必要なのですよ。そういえば教えてませんでしたか」

「知らないですよ。みんなノリで月とか炎とか闇とかぶっ放してるじゃないですか」


「あれは例外、非常に訓練した場合です。ノリでやってるわけではありません。本来であれば、どのような魔法を発動するのか宣告してからでないと、魔法は発動できないのです」


「へー。そうなんだ。なんでですか?」


 智博は手帳をペンを手に持ち、メモの準備をしながら訊ねる。


「さぁ。遥か昔、魔王に滅ぼされる前の時代のとある大賢者が、魔法による争いの激化を防ぐため、この世の理に干渉して魔法の発動に制約を課したとか、なんとか」


「魔王に滅ぼされる前って、確か1万年前とか」

「つまり、よく分かってないんですね」


「そうです。ただ、事実として魔法には制約があり、強力な魔法であればあるほどその制約も大きいのです」


「ふーん。俺も宣告したら魔法使えるかな?」

「いえ。原理的に無理かと。最も深い根本から無理だと思われます」

「……そんなに否定しなくても」


 智博は口を尖らせる。


「お金分解マジックも一応魔法ですよね?店員さんも無言で分解してましたけど、あれは大した魔法じゃないから口でわざわざ『分解』とか言わなくてもできるってことですか?」


 唯が訊ねた。


「いえ。確かにそういう側面もあるのですが、基本的に魔道具を介せば宣告無しで魔法が扱えます」

「ふーん」「いいんだ」


「これが中々問題でしてね。魔道具もその黎明期には、さまざまな観点から非難されたそうです。魔道具が生活の一部となった今でもそのような声はあります。ですので魔道具の技術については、王家が機密として厳重に管理しているのです」


「なるほどなあ」

「それ聞くと、この服着て街歩いてるのほんとにいいのか?ってなるけどな」

「さあ。ファルガバード様が許可を得ているのだから、いいのでしょう」


「……ところで、予想以上にファルガバード様がお空から降ってこられません。お陰で旅行は続けられそうなのですが、反面、路銀が心元ありません」


 ダスターが懐からコインケースを出して言った。


「え。マジですか?文句言える立場じゃないですけど、しっかりしてくださいよダスターさん」

「大道芸でもやりましょうか?俺、球乗りながらパントマイムできますよ」


「なんだそれヤバいだろ。初耳なんですケド」

「見て見て」


 智博は手帳を閉じて立ち上がり、顔の位置を全く変えずに適当なダンスをしてみせる。


「うわ。すごい。キモい」

「そことなく鶏を感じますね」


「……。もうやんない」


 拗ねる智博。


「やらなくて大丈夫です。諸々の準備は私に任せてください。今日の残りの時間は、夜の街を歩きつつ気になったものを食べつつ。明日を準備の日としましょう」


「はーい」「はあい」


~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~•~


「うぃー!」


 ベッドにダイブする智博。外はもう真っ暗で、唯は洗面台の前でモゴモゴしている。


「ひゃぶりゃしゅそにゃいつけられてにゃいならひゃぶらしせっともってくるべきだった……うにゅうにゅ」


 口に指を左右2本突っ込んで歯を磨いている唯。何を言っているのか分からない。


「うーん。可愛い」


 いつの間にやら、唯の背後で満足そうな様子で立っている智博。


「いんなお。おとめがきゃおくずすてはみきゃいてんだぞょ」

「俺がやってあげようか?」


 智博は両手の人差し指を立てて唯の頬をポンポンする。

 すると、唯は手を止めて振り返り、口から出した指をそのまま智博の口めがけて突っ込む。


「トウッ!」

「ムン!!?」


 ――――


 ふたり仲良くベッドで寝る、唯と智博。


「……いやー。歯磨きってえっちなんだね」

「やめとけ。寝るぞ」


「目覚めちゃう」

「おいやめとけ」


「えへ。にしても、今日は濃い1日だったね。街の人の暮らしも見れたし、建物とかも見れたし」


「そだな。食べ物美味しかったなぁ……。あのおっぱい、もうおっぱい食べたい」

「おいやめとけ」


「ふふん。明日は……ダスターさん、どうやってお金稼ぐつもりなんだろな」

「さあね。最悪、俺がストリートパフォーマンスを披露しておひねりをひねひねしてもらえば解決」


「それあたしはどんな気持ちで見てればいいんだよ」

「『智博クンカッコいい!』って」


「ふん。そんなの常に思ってるもんね」

「ア”ッ!唯ちゃん大好き」


 智博は唯にくっつく。


 ふたりはその後もしばらく喋りつつ、だんだんと眠りに落ちていった。


 ――――


 朝。

「んー……!ふぁぁ……」


 ベッドの上で体を起こして伸びをする智博。すぐ横では、唯がめくれた毛布を寝ながら引っ張っている。


「あーごめんね。よいしょ」


 智博は唯に毛布をかけてあげる。


「んー。寝顔も可愛いなあ。このためだけに遅寝早起きしてもいいぐらいだよなあ」


 智博は嬉しそうな笑顔で唯の寝顔を堪能しながら、寝ている唯のほっぺをプニっと押す。


「このお顔をずっと見ていたい――と見せかけてホーイッ!!」


 唯が被っている毛布をバサっと勢いよくめくり上げる。


「うわぁ……あぁっ……!」


 浄化される悪魔のような反応を見せながら、唯はなにも無くなったベッドの上でモゾモゾ動く。


「はいはい起きますよー。ねぼすけさん」


 智博はベッドに座りながら唯を抱えて膝の上に乗せる。


「んー……んにゃまらんままま……」

「うんうん。そうだね、わかるわかる」


 唯の寝言に対し適当な相槌を打ちながら、唯の柔らかで艶やかな髪を手櫛で整えた。


 ――――


「ふぁあ……。今何時ぐらい?」

「んー。どうだろう。もしかしたら意外と早いのかも。なんか結構静かだし」


 先程から、鳥のさえずりや水車とその水飛沫の音ぐらいしか聞こえない。


「じゃあもっと寝かせてよもぅ……」


 智博は2階にあるその窓を開けて外の様子を見る。太陽はもう完全に出きっており、早朝というには少しばかり遅い。


「いや、普通に朝だね。7時か8時か」

「なんだ。じゃあ大人しく起きるとしますかっと……!」


 唯は体を大きく伸ばす。


「――うぇっ?」

「ん?どした智博」


 外を眺めていた智博は気づいた。真下、宿が沿う通りに、何人も人が倒れていることに。


何やら不穏ですね

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