第10話 全書庫と大妖精
ちょっと長い上に、説明っぽい部分ができてしまった
ファルガバード邸のお風呂にて。気持ち良さそうな顔で湯船に浸かる、唯と智博。湯船のヘリに組んだ腕を乗せ、そこに頭を乗せてくつろいでいる。
「はあー。いいお湯だあ……」
「ほんと……。なんかいい匂いもする……」
「ファルガバードさんとダスターさんには感謝だなあ。俺たちの衣食住、全部何とかしてもらってる」
「ほんとだよ。ファルガバードさんなぁ。強いし優しいし気さくだし、おっぱいはデカくて柔らかくて、いい匂いするし、もう……好きになっちゃう」
「唯はおっぱい大好きだなあ」
「当たり前だろ。おっぱいを好きでいられなくなったら人間は終わりだぞ」
「流石ですなー、唯さん」
智博はボケーっとしながら相槌を打つ。
「……はあ。俺たち、帰れるのかなあ」
智博から、ため息混じりの言葉が漏れた。
「さぁ……。魔王の言ってた侵略者ってヤツが、仮に異世界からやって来るものなのだとして、そいつらがやって来るプロセスを調べられれば何とかなるかも、ってカンジ?」
「侵略者ねえ。魔王は、既に何人か来てるとか言ってだけど、どこにいるんだろう。どうやって来たのか調べたいなあ」
「魔王もまだ見つけてなさそうな言いぶりだったからなぁ。あの黒いのの言うことがどこまで信頼できるか知らないけど」
「そうだね。……取り敢えず、ファルガバードさんが帰ったら、お城にあるでっかい図書館に連れてってくれるみたいだから、そこで何かしら帰る方法を見つけられたらいいね」
「だな。この世界の文字読めないから、もしかしたら文字の勉強から始めないといけないかもだけど」
「そうかもね。でも唯と一緒に勉強するの楽しいから、文字ぐらいすぐにマスターしちゃうぞー」
「おう。頑張れ。……てか、そもそも日本語通じるのはなんなんだろな。ほとんど問題なく通じるよな」
「うーん……。なんなんだろうね。かなり真理に迫りそうなテーマだけど、俺には見当もつかないや」
「謎だなぁ……」
ふたりはしばらく考えたが、それっぽい理由は見つからなかった。
「……そろそろ体洗う?湯船で全部済ませるんだってね。俺が唯の身体洗ってあげる」
「うぁ。執拗にいじくり回す気だー。あたしの汚いトコロ」
唯は智博と少し距離をとる。
「しないよ。人ん家で」
「そうか。ならばこっちから襲ってやる!お前のその全身バキバキの身体!撫で回してやるからな!」
「なぜっ!!」
湯船の中でバシャバシャと、楽しそうに攻防戦を繰り広げるふたりであった。
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朝。朝食を摂るふたりとファルガバード。机がファルガバード仕様で巨大なので、ふたりは立って食べている。
食卓に並べられたのは、パンや野菜スープ、何かの肉や謎の団子などなど。
ふたりはとっつきやすいものを選んで、時に互いにあーんと食べさせてもらいながら、美味しそうに、楽しそうに食べる。
「ファルガバード様。例の魔王の件はどうなったのでしょうか」
料理を並べ終わったダスターが横で訊ねた。
「塔に関しては、王様から直々に立入禁止令が出されました。塔の正体や魔王の関与については一切不明ということにして、情報を伏せてあります。ですので、そのあたりは心得ておいてくださいね〜?皆さん」
「はい。心得ておきます」
「はあい」
「そもそもあたしらは言いふらす相手も居ないし」
「それで、今は塔の位置の把握が急がれていますね〜。あと、塔の出現による被害も殆ど把握できていませんし、塔の攻略だったり機能だったり、侵略者だったり……。しばらくゴタゴタした時期が続きそうです〜」
「ふーん。なんとなく察してはいたけど、やっぱり大きな出来事だったんですね」
「あたしたち、凄い現場に立ち会っちゃったのか。今頃実感湧いてきたかも」
ふたりは、魔王が動いたということが、いかに大きな出来事かを実感する。
「今後、ファルガバード様はどうされるのですか?」
「塔の件は他の人に任せて、私はふたりが帰る方法を一緒に探します〜」
「そうでございますか……」
「あの、1つ質問なんですけど、ファルガバードさんってどういう人なんですか?魔王とも対等に話してたし、なんか国の人とも繋がりあるっぽいし」
「前は英雄って言ってましたよね」
思うところを含んでいそうなダスターの相槌の後、少し沈黙が生じたので、すかさず唯が質問した。
「ファルガバード様は本当に英雄でございますよ。ウィルダリアには〈七曜〉と呼ばれるやたら強い7人がいますが、ファルガバード様はその内の1人、〈月輪〉の称号を持つお方でした」
「今は引退しましたけどね〜」
「七曜の月輪……なんかカッコいいじゃないですか!」
「えへへ〜。そうなんですよ〜。実は私カッコいいんですよね〜」
智博にカッコいいと言われ、ファルガバードは嬉しそうにする。
「正直申し上げますと、引退したとはいえ、ファルガバード様は塔の発見や調査に尽力すべきと思っております。おふたりには私が付き添い致しますので……」
「え〜。私はふたりと一緒にいたいんですけど〜」
「ですが……」
「何のために引退したと思ってるんです〜?他の7人に任せればいいんですよ〜」
「そうですか……分かりました。王都には、この後すぐ向かわれるのですか?」
「ええ。全書庫に行ってきます。あそこは情報の宝庫ですからね〜」
「では、私は準備を……」
ダスターはさりげなく、去り際に料理をつまみ食いしてから、部屋を出ていった。
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ファルガバードに抱えられて、王都シルクスの上空までやって来たふたり。
「うおおおぉぉぉ!!!何アレめっちゃ綺麗!」
「街がまるで咲いてる!!城もなんか凄いんですけど!!」
美しい街の造形を見て大興奮だ。
「ほんと綺麗ですよね〜。ウィルダリアの中枢に足る、素晴らしい街です」
――――
ふたりを連れて、ファルガバードは城の前へと着地した。目の前には、雄大で、かつ緻密で繊細なお城が聳え立つ。
「さあ、行きましょう」
「ほ、本物のお城だ……」
「ほんとに入っていいの?」
神々しささえ感じる城を見上げながら、その存在感に圧倒されるふたり。入るのを躊躇っていると、ファルガバードが先を歩くので、置いていかれないように歩く。
城の中は、天井が高くとても広々としている。内装に関しても外装に負けず劣らず素晴らしく、ふたりはキョロキョロと見回しながらファルガバードについて行く。
「本当にこんなヌルッと入っちゃって良いのかな。門番とか警備とかも見当たらないけど……」
「さぁ……?」
静かにしないといけないような気がして、小声でヒソヒソと会話するふたり。
「これでも警備はちゃんとしてるんですよ〜。今時の魔法って便利ですね〜」
「へえ……」「すごいですね」
広い城の中をしばらく歩き、奥まった場所までやって来た一行。
何やら封じられていそうな重々しい扉が構えており、その前で女性が1人、椅子に座って本を読んでいた。
3人に気づくと、その女性は灰色の長い髪の毛を掻き分け、大きな丸眼鏡をかけた。
「あーっ、でっかいお姉さんだぁー。どぞどぞー。お入りくださいー」
ドジっ子ドジっ子した雰囲気の女性はそう言って立ち上がり、両手を扉に向かって構えて封印らしきものを解いた。
「どうも〜。ありがとうございます〜」
ファルガバードはお礼を言って扉を開ける。ふたりも女性に会釈をしながら、全書庫へと入って行った。
中は、それはもう立派な書庫だった。どこもかしこも棚で埋まっており、どの棚も本でぎっしり埋まっている。
……が、それよりもふたりが気になったのは音楽だ。小気味の良い音楽が流れていた。
「なんだ?このノリが良さげながらもどこか物憂げなピアノのメロディーは……」
「まるで因縁の相手との思いがけない悲しい別れを描いたような、エンディング感のあるエモさ……良っ!」
ふたりが思わず音楽に聴き入ってしまっていると、それはピタッと止まった。そして止まったかと思うと、どこからともなく目の前にふわりと幼女が姿を現した。
見た目はまるで透明感そのもので、純粋無垢。しかし、幼い女の子にしては知的で品がある雰囲気。あどけなさが無い。
「こんにちは〜、ショコショコ様。このふたりが例の異世界からやって来たふたりです〜」
そうファルガバードが紹介すると、幼女は目の前のふたりにニコッと可愛らしい笑顔を見せた。
「どうも、瀬名唯です」
「呉宮智博です」
幼女にも関わらず目上らしい相手に、イマイチどう接すればいいのか分からず、中途半端に無難な挨拶をするふたり。
「こちらが現在この世でただ1人の大妖精、ショコショコ=グルグル様です〜。音楽を司る大妖精であり、全書庫の管理者であり、私の先生であり、その他も色々〜。まあ、とにかく可愛い妖精さんですね〜」
「へえ、大妖精!とっても可愛らしいですね!ケバいお姉様とかじゃなくて良かった」
「ケバいお姉さんて、智博お前……」
ふと、大妖精はふわりと宙を飛びながら、ふたりの周りをぐるぐる回って観察し始める。
智博の頭に乗ってみたり、唯の顔を覗き込んで頬をぷにぷに触ってみたり。可愛らしい妖精にそんなことをされて、唯は少し照れる。
「ふたりに興味があるみたいですね〜。ふたりの身体はかなり特殊ですから」
「あぁなんだ、そういう興味ですか」
少し残念そうな唯。
「ダスターさんから聞いたんですけど、なんか俺たち〈魔法陣〉ってやつが一切身体に刻まれてなくて、それがこっちの人からしたら変なんですよね?」
「そうです。〈魔素〉に全く作用されず、しない。という、生物にあるまじき特性です〜」
「マソ?何それ、魔法の素?」
「あら、あまり詳しくは聞かされていませんか〜?では、せっかくですので魔法について教えてあげましょう〜」
「お願いします」
「魔法とは何かを理解するには〈魔素〉〈魔力〉〈魔法陣〉この3つがキーワードです〜」
「ふむふむ」
「まず、魔素というのは魔法のエネルギー源。どこにでも漂っていて、生き物は皆、魔素を溜め込む性質を持っています〜」
「MP的な?」「ぽいな」
「次に、魔力というのは魔法を引き起こす力ですね〜。魔素は魔力に転じることによって力を発揮します。魔素は物質ですが、魔力は概念です」
「なるほど」「まぁ、なんとなく分かる」
「最後に、魔法陣は魔素を魔力に変換する装置のようなものです〜。生き物の身体には無数に刻まれていて、魔法陣に魔素が流れれば魔法は発動します。魔法の種類を決めるのがこれですね〜。分かりました〜?」
「あー。なんか名前のままというか、それっぽいカンジですね?」
「おい智博、本当に分かってんのかそれ」
「正直あんま分かってない。唯は分かった?」
「いや、なんとなくだけど……例えばLEDが光るのが魔法だとしたら、電子が魔素、LEDが魔法陣、光が持つエネルギーが魔力ってカンジで理解した」
「おーっ。流石唯ちゃん。頭が整理されてて偉い。イメージ掴めた」
「まあ大体分かっていれば大丈夫です〜。今の説明はちょっと学術寄りですからね〜。日常会話では魔法っぽいものを全部魔力って言っておけば問題なしです」
「なにその、電流と電圧と電力を全部電気って言うみたいな」
「魔力は広い意味でも使われるってことですね?」
「そうです〜」
「……ショコショコ様は、そろそろ満足いくまで観察できました〜?」
魔法についての説明中、ずっとふたりにかまってもらいながらペタペタと触れ合いをしていた大妖精。ファルガバードの言葉に頷いて、ふわりとふたりから離れた。
「では、本題へ進みましょうか〜。実は、ショコショコ様には予めふたりのことを伝えて、それっぽい資料を探してもらっているんです」
「あ、そうなんですか。てっきり、今から地獄の情報探しが始まるのかと」
「ありがとうございます!ショコショコ様」
ふたりが感謝すると、大妖精は優しく笑って奥へと案内した。
「ふむふむ〜……。こっちが一軍資料でこっちが二軍資料って言ってます〜」
案内された先には机と本棚が用意されており、どうやら机の上に置いてある2冊の本が本命で、本棚にある100冊以上の本は一応ということらしい。
「触っていいですか?」
唯がそう訊ねると、大妖精が頷いたので、2冊の本のうちの、古めかしい方を開く。
中身は相変わらず読めないぐちゃぐちゃとした曲線。1ページごとに文章がまとまっているようだ。
「そうだ、まだ文字勉強してないから読めないんだったわ……」
「あ、文字はほとんど魔力由来なので、ふたりは勉強しても読めないですよ〜?」
「えっ!?」「はっ!?」
「まぁちょっとぐらい読めなくたっていいじゃないですか〜。私が読みますから〜」
ファルガバードが唯から本を受け取り、目を通す。
「うそん……」
勉強しても文字が読めないと知って、それなりにショックを受けるふたり。
「む、随分と古いですね〜。手記のようですが、私でもちょっと解読が必要そうです。え〜、『1221年、水の月、第30日』今とは別の暦ですね。……約700年前だそうです」
肩に乗った大妖精に一部教えられながら、日記を読み始めるファルガバード。大妖精は声を発さないが、ファルガバードと彼女は完全に意思疎通ができている。
「『私の名はゴウダ・ロクスケ』」
「「ゴウダ・ロクスケ……!?」」
ファルガバードの口から発せられた、ゴウダ・ロクスケという名前に驚くふたり。
「あら、何かあるんですか〜?」
「ゴウダロクスケって、日本人の名前だよな?」
「うん、昔の男の人っぽい名前。俺たちと同じで、この世界に迷い込んだ人ってこと……?」
「続き読みますね〜。『私がこの記録をつけることにしたのは、単に老人が過去を耽りたくなったからではない。私の奇妙な人生について、綴らなければという、ある種の使命感に駆られたからだ。私が15まで過ごしたあの世界は、決して夢などではない。私は今日から、自分の人生を順次綴ろうと思う』」
ファルガバードはページをめくる。
その先に書かれていたのは、彼の人生だった。
三河の地に百姓として生まれたこと。そこで肉親や兄弟と過ごしたこと。15になったある日、突如知らない土地で目を覚ましたこと。その土地で魔法という不思議な力を会得したこと。力が強く、魔法の才能もあり、遂にはドラゴンも討伐したこと。前線で自国を守ったこと。妻と出会い、子を授かったこと。自分の屋敷を持てるほどにまで上り詰めたこと。妻に先立たれたこと。そして、今は惰性で生きていること。
最後は、自分の死期を悟ったような言葉で終わっていた。
ファルガバードは本を閉じた。
「……間違いなくロクスケさんは日本人だったんだと思います。こっちに来て、こっちの世界で人生を全うしたんですね」
「地名とか文化とか、昔の日本と一致してたし間違いないな」
「ショコショコ様はこの手記をよくできた物語だと思っていたみたいですね〜。ふたりの存在を聞いて、ピンときたんだとか〜」
「いやあ、ありがとうございます。ショコショコ様」
「過去にもこっちに来ていた人がいたというのは大きな情報です。見つけてくれてありがとうございます」
ふたりは大妖精に感謝。大妖精は「どういたしまして」と言うように、にっこり笑う。
「ロクスケさんの子孫にあたってみるのアリじゃない?」
「うん。もしかしたら帰る手がかりが見つかる可能性も無くはないかもしれない」
「まあ、700年前……望みは薄いけど」
「残念ですけど、ロクスケさんの子孫は残っていないかも知れないですね〜」
「え、そうなんですか?」
「ロクスケさんが守った国は、彼のひ孫ぐらいの世代で戦争に負けて滅亡しています。そこそこの立場と責任があって、戦争で滅亡までさせられていれば……」
「ああ……」「南無三」
「位置的にも、今のジェント地方ですからね〜。現在あそこにはほとんど人間がいません」
「うーん。じゃあほぼ無理かぁ」
「あとさ。気になったんだけど、ロクスケさんは魔法使えたんだよな?しかもドラゴン倒せるレベルで」
「それは、そのうち俺らも使えるようになるってことなんじゃないの?」
期待した様子で言う智博。
「う〜ん。そうなんですかね〜。私からしてみれば、ふたりが魔法を使えそうな気配は全くもってないんですけど〜」
「えー。そうなの?まあいいや。もうひとつの方いこう」
智博は机の上に置かれたもうひとつの本を手に取る。
その本は新しく、本というよりも紙をまとめたもので、1ページずつに魔物についての図解らしきものが載っていた。
「これは、特に危険な魔物の記録ですね〜」
「へー!」
載っている図解を見るだけで面白くて、ペラペラとページをめくる智博。ファルガバード邸周辺の森で見た、双頭の蛇もそこに載っていた。
「魔物を記録しておくことで、新種の魔物が出た時でもある程度対応できますからね〜。中でもこういう危険で討伐が難しい魔物は、実際に討伐した方法から討伐者の名前まで細かく記録されるんです〜」
「そうなんだ。ファルガバードさんの名前も載ってたりするの?」
「いえ、私はもっと上の担当ですから〜」
「うへえ……」「すげぇや」
「これはあたしたちとどう関係があるんですか?」
魔物図鑑に気を取られてる智博に代わって唯が訊ねると、大妖精が丁度智博が開けているページを指した。
「そこのページだそうです〜」
大妖精が指したページには、藤の木のようなウネウネとした幹が特徴的な、巨木のような魔物が載っていた。枝や根が触手のように動き出しそうで、気味が悪い。
「討伐者の欄ですか……『不明。黒髪黒眼の女』ってありますね〜」
「……それが、どうかしたんですか?」
「なんか、ロクスケさんと似てるって思ったみたいです〜。あの人も身元不明の状態でドラゴン討伐してましたからね〜。髪と目の特徴も一致してますし」
「この人が俺らと同郷かもってこと?」
「そうみたいですね〜」
「うーん?どうだろ。確かに日本人は殆ど黒髪黒眼だけど。この世界、黒髪で黒い目ってそんなに珍しいんですか?」
「珍しくはありますけど、そうでもないですかね〜。100人に1人ぐらいでしょうか〜」
「じゃあちょっと根拠に薄い気がしません?ちょっと訳ありの黒髪黒眼ってだけでしょ?魔法が全く使えないとかならまだしも」
唯がそう指摘すると、大妖精がしょんぼりと悲しげな表情をした。
莫大な量の書物の中から頑張って有益そうな情報を探し出して、凄く喜ばれると思ったのに――。そんな感情が伝わってくるようだった。
唯は焦る。幼気で小さな女の子をしょんぼりさせてしまった心のダメージはデカい。
「あっ!い、いやっ!でも確かに確かめる価値は充分ありますよね!あたしたち以外にもこっちにやって来た人がいるっていうのが分かったこの状況で、これだけ怪しい人を確かめないとかいう選択肢はないでしょ!」
「唯が焦るの珍しっ」
「焦ってねーし。思ったこと言っただけだし」
「討伐日は517年10月11日……半年前ですね〜。場所はウナレス地方南部〈霧の樹海〉ですか。そこに行けばもしかしたら本人に会えるかも知れませんね〜」
「半年前!割と最近ですよね?」
「行ってみるのアリだと思う」
「そうですね〜」
半年前の出来事であれば十分に追える。少なくとも700年前に比べれば遥かに追いやすい。そう判断したふたりは、次の目標を霧の樹海での謎の女探しに設定した。
「一旦次の目標は決定だね。……残りの二軍資料に気になるところがなければだけど」
「残りのあの本棚のやつはどんな感じですか?」
唯が訊ねる。
「あれは……それっぽい物語とか、空想魔法についての本だとかだそうです〜。単に好きな本もブチ込んであるって言ってますね〜」
「ブチ込んであるとか絶対言ってないでしょ。可愛い妖精さんなんだから」
「悪意ある翻訳、悪い大人だ」
「大変ですけど、1つ1つ確認するしかないですね〜」
「ですね」
「さて、何時間かかるかな。ロクスケさんの本だけでも結構かかったけど。よし、頑張るぞ!」
「読むのお前じゃないけどな」
唯のツッコミを受けながら、智博が1つ目の本を手に取った、その時。
「「「年増アアァァァ!!!」」」
ガツガツとした大きな声と共に、封印されていたはずの扉から火炎が激流のように流れ込んできた。
ちなみに、ファルガバードのお胸が大きいとありますが、これはそもそも体がでかいからというのが主な要因です。ぶるんぶるん飛び出しているわけではないので悪しからず