9.掃滅
執務室の壁に隠されていた石造りの階段を降りていく。
蝋燭の灯りが揺れ、冷気が流れ落ちていく。
風の匂いにぼそっとバルバトスが呟く。
「……血の匂いがするの」
同時にスネイクと部下が先頭を歩く。
鎖帷子と貴金属の音がちゃらりと響いていた。
歩くと牢屋があり、鉄格子の隙間から人影のような物が見えた。
看守もいるようで、俺たちを含めず合計で十二人はこの部屋に居る。
「スネイクさんじゃねえすっか。どうしたんすか?」
「新しい仲間に期待の奴隷を自慢すんだよ。何か変わったことはあったか?」
「いえ、ねえですぜ。でもそろそろアッチの方が疼いてきましてね……」
「相変わらず節操のねえ奴だなぁ……仕方ねえな、あとで女やるよ」
「ありがとうございやす!」
下衆な会話を耳にしながら、【判断力】を使う。
……余裕か。
セシアは辺りをウロウロと見渡して、妹を必死に探している。
……あの子かな?
ひと際重圧な鉄格子の奥に、淡い赤髪の子が居た。
「どうだ? 凄いだろ、ここに居るのは最近仕入れた奴隷ばかりなんだ。殺しても良し、犯しても良し、お前ならどれが良い?」
「……そうですね。では、あなたの腕を貰います」
「はっ────」
スネイクから間抜けな声が漏れた。
俺の腰に隠していた剣がスネイクの両腕をスパッと斬り落とした。
「あぎゃあああっ! う、腕が……!」
まずは一人。
一番この場で厄介そうな人物を戦闘不能にする。
判断を間違えた瞬間、人は簡単に死ぬ。
人間を商売道具にする奴に、情なんかかけても仕方がない。
セシアも隠し短剣を抜き、看守たちに斬りかかっていった。
「妹を返してもらうわよ!」
「こ、この! よくもやってくれたなガキどもが!」
「ガキと言って見くびってるから殺されるんだろ……」
「ぐっ……カハッ」
看守たちと護衛を斬り伏せていく。
剣が使えないと思っていたのだろうか。
俺は己の研鑽を欠かさなかった。
どれだけ【判断力】が優秀だろうと、俺は自分の力しか信じていない。あくまで【判断力】はダメ押しするための能力だ。
自分のことは、自分で決める。
コイツらもよく考えれば分かることだろうに。
いきなり本拠地に案内する不用心さ、商売の要を自慢したいがために見せる。
頭が悪いにもほどがある。
こんなものが、本当に二大ギルドとは信じられないな。
……いや、人を殺しまくったからだろうな。
コイツらの土台は人の死体で出来ている。
「お、おい!! それ以上戦ってみろ、この菓子食ってる小娘がどうなっても知らねえぞ!」
俺とセシアの動きが一瞬だけ止まる。
セシアは「まずいっ!」と咄嗟に動き出していた。
バルバトスで良かった。
セシアの妹だったらどうしようか悩んだぞ。
「バルバトス、お前も少しは働け」
「……仕方ないのぉ。ご命令とあれば、ご主人」
「な、何言ってんだよてめえら! 殺すぞ!」
唐突にバルバトスが頭突きをする。
看守はあまりの強烈な威力に意識が吹き飛び、悲鳴を上げる前に壁にめり込んでいた。
「おろ、やりすぎてしまったようじゃ」
「な、何なのよその威力……。あんた、サウロンの妹かなんかだと思ってたわ……」
セシアが表情を引き攣り、信じられないと言った様子を見せる。
一通り暴れた結果、スネイクーを残して全滅していた。
バルバトスの威力を見てから、明らかに剣の鋭さが無くなった。
……腰抜けしかいなかったらしい。
「あっ! サウロン! スネイクがいないわ!」
両腕を切断され、身動きが取れないはずだ。
出口はバルバトスが塞いでいる以上、逃げ場なんてどこにもない。
「クンクン……匂いもないの」
……となれば、スキルか。
静かに周囲を眺め、【判断力】を使う。
昔にスキルに関する本を読んだことがある。その情報を引っ張り出し、判断させた。
暗殺に向いていて、匂いや姿を一瞬で消すスキル。
【判断力】が出した答えに従い、俺は自分の影を剣で刺した。
「ぐあああっ! て、てめぇ! なんで気付いたんだ……っ!」
影の中から憐れな姿になったスネイクが現れる。
「スキル【影踏み】。踏んだ人間の影に入り込むことができるスキルだな」
「な、なんで知ってんだよ……! このことはギルドでも知る奴は誰も……」
スキルの種明かしもされ、ついに打つ手なしとなったスネイクが恐怖の目に染まる。
悪いが殺すかどうか決めるのは俺じゃない。
セシアが前に立つ。黒いリボンを取り、可愛らしい猫耳を動かす。
「て、てめえ獣人か! それにその赤髪……っ! アイツの家族か!」
「ええ、そうよ。あんたらが奴隷にして、蔑んできた獣人よ」
「ク……クハッハッハ! てめえもお前と同じように狩って奴隷にして────」
最後の一刀がスネイクの首を一瞬で飛ばした。
「今度はあんたが狩られる側だったみたいね」
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