8.【スネイクギルド】
琥珀亭を後にし、俺たちは衣服屋に来ていた。
ドレスや背広が並ぶ中、俺たちは比較的安価な服を選んでいた。
安くて高く見える服がいいな。
これは変装の準備だ。
【スネイクギルド】を潰すにしても、やはり情報が必要だった。
ちまちまと情報を聞きまわっても、そのうち知られて警戒される。
変に嗅ぎまわるよりまずは新人ギルドとして、俺の取るべき行動は決まっていた。
「なぜ我も着替えるのだ?」
「その服だとちょっと変だからだ。もっと子どもっぽい服にしてくれ」
「嫌じゃ! 我はセクシーなのだぞ?」
「あとで菓子やるから……」
「……ならば、仕方ないかの」
無理やり納得させ、セシアにも服を渡す。
黒を基調としたスーツだ。
「わ、私も着替えるの……?」
役としては俺の秘書役がピッタリだろうからな。ついでに眼鏡も掛けさせて……あれ、なんか胸がデカいせいかやけに色っぽく見える。
……違う、今はそんなこと考えてる場合じゃない。
「当たり前だ。その恰好のまま行くつもりか? バレバレだぞ」
「えっ……? 変装は完璧だと思ってたのに」
冗談だろ?
腰にある剣に、動物の毛皮で作った服で人間社会に紛れると思っていたのか。
ローブを羽織っていなければ一瞬で森人だとバレている。
ひょっとしてバルバトスと同じで少し抜けているのかもしれないな。
「ついでにリボンもしておけ」
黒く大きなリボンを渡す。
獣耳────どちらかと言えば、猫耳だった。
驚けばピンッと立ち、嫌そうにすると萎れる。耳の動きはストレートに感情に直結しているようだ。
セシアは少し不機嫌そうに髪を束ね、リボンがピンッと跳ねて猫耳を覆い隠す。
「これでいい? ねぇ、なんで服なんか着替えたの?」
「これから行く場所があるからだ」
「行く場所ってどこじゃ?」
そんなの、決まっている。
「【スネイクギルド】だ」
セシアは「はぁ!?」と大声を出して慌てていた。
*
町外れにある廃墟。人の気配も感じられない場所に、【スネイクギルド】は拠点を構えていた。
本当にあるかは噂だが、琥珀亭の亭主に聞いたら口を濁らせていたから事実だろう。
なぜか否定しないのか聞いたら、どうやら恩人の前でウソは付きたくないらしい。
俺たちの要件と名前を告げると情報は既に伝わっているらしく、スムーズに話が通じた。
「付いて来い」
廃墟に隠されていた地下室へ行き、とある部屋に案内される。
ここは執務室のようで、骸骨や蝋燭と言った装飾が施され、ローブ姿の男たちが部屋の出入り口を囲んでいる。
お世辞にも良い趣味とは言えないな。
セシアも同じようで、明らかな嫌悪感を示していた。バルバトスは……あんまり気にしてないみたいだ。
客人用のソファーに座っていると、金髪オールバックに、指輪をたくさん嵌めている男が向かい側に座る。
セシアが焦燥感に駆られ、変な行動を起こさないか不安だったが意外にも冷静でホッとする。
バルバトスは黙々と袋に入っているお菓子を食べていた。
「……おめえが、期待の新人。サウロンか。Sランクなんだってな?」
内心を落ちつかせ、スイッチを切り替える。
俺は弱者で人に甘えなければ生きては行けない人間だ、と軽く暗示をかけた。
【スネイクギルド】を油断させるためには、必要なことだ。
「いえいえ、そんな。僕のような臆病者は運が良かっただけですよ。今回は先輩である【スネイクギルド】さんにぜひ挨拶を、と思いましてね」
俺の急な変貌にセシアが驚き、目を見開く。
「ほぉ。【ヴァンパイアギルド】よりも先にウチへ来るなんて、礼儀がなってるじゃねえか。いいぜ、嫌いじゃない。いいだろう、俺のことはスネイクと呼んでいいぞ」
「スネイクさん、【ヴァンパイアギルド】とは仲が悪いのですか?」
「当たり前だろうが。アイツらさえいなければ、俺たちがフォルド町を支配してるんだからな」
なるほど……とりあえず、掴みはオッケー。
ビクビクとした口調で話を続ける。
「実は……その、うちはまだギルドの名前すら決めていなくて。商売もふわふわとしてて……アハハ」
「それはつまり、仕事のお零れを貰えないかってことか?」
「まぁ、恥ずかしながら。親からも無計画な奴はリーダーに相応しくない! と度々怒られて育ってきたのに、こんな形で闇ギルドのマスターを任せられるとは思ってもみなかったので」
情けなさそうに自分の首筋を撫でる。
俺の様子に、【スネイクギルド】、スネイクが眉をひそめた。
俺の態度に疑問を抱いたようだ。やけに腰が低く、己の能力を評価していない。
「まぁ、人事ギルドで人助けしてた奴が、闇ギルドのマスターなんておかしい話だわな。Sランクも何かの間違いだろ」
納得したのか、目を瞑って鼻で笑う。
俺もそれに乗っかった。
「えぇそうなんです。運よく彼女らに助けられまして……」
「あ? そのガキと後ろの美女か?」
「はい」
「待てよ……サウロンに目ぼしい能力はない。もしかして、後ろの二人がSランクの依頼を達成したのか?」
セシアを自分の物差しで測っている。下卑た視線を睨み返さず、静かに目を瞑っていた。
俺を信頼してくれている、のだろうか。
今度はバルバトスが菓子を食べている姿が、鼻で笑われた。
どうあれ勘違いしてもらえたようだ。
「なるほどな。その後ろの女がバルバトスを討伐した化け物って訳か」
「一応、僕の秘書ってことになってるんですよ」
「ふーん。で、実権はてめえが持ってるんだな?」
「えぇ。ですから、ギルドの方針などは僕が決めなきゃいけなくて……ご理解いただけますと幸いです」
「あぁ分かった。うちとしても悪い条件じゃねえ。てめえが俺たちの下に付くってんならな」
その言葉に、流石のセシアもピクッと反応を示す。
こうなることも想定済みだ。
というか、期待していた通りの展開だ。
「失礼なのですが、あまり【スネイクギルド】さんのお仕事を知らなくて……どういったことをしているのでしょうか」
「知らねえのに聞きに来たのかよ……うちは暗殺、奴隷売買、たまにやべえブツを運んでる。へっ良い商売だぜ? たまに売れ残った奴隷でパーティー開いてんだ。もちろん、生き残ってても無駄だから最後には殺してるがな。悲鳴だらけの中、絶望に染まった人の目ってのは堪んねえんだよなぁ」
……そうか。正直言って不快な話だが、黙って飲み込む。
ここでミスってしまえば、わざわざ弱者の演技した意味がない。
呆気にとられたフリをしていると、俺の反応が楽しいのか続けて話す。
「そういえば、最近は獣人を捕まえたんだよ……チビだけどな? 結構な美人でよぉ。上級貴族が欲しがってるから、高値で売れそうなんだ……へへっすげえだろ?」
セシアが動き出す前に、俺が咄嗟に立ち上がる。
そのまま手を握って何度も頷いて見せた。
「本当に獣人を捕まえたんですか!? 凄い……あっ、あの……実は僕は獣人が大好きで……その獣人を一目見させて貰えないでしょうか? 一度くらいこの眼でみたいんです」
「お、おう……そんなにか。へへっいいぜ、獣人も見せてやる、こっちに来い」
「ありがとうございます!」
セシアは既に堪忍袋の緒が切れかけていて、いつ爆発してもおかしくない気配だったが、やり取りを聞いて意図に気が付いたようだ。
相手は俺を操りやすい人間だと勘違いしてくれた。
【判断力】
セシアの妹救出
問題レベル:D
囚われている場所が判明次第、攻略可能。
脅威、特になし。
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