5.女騎士
予想外な言葉に、思わず聞き返してしまう。
『だって、お主と居ればまた、菓子が食べられるだろ?』
「そ、そうだけど……」
『ならば! 頼むから契約してくれぬか~……』
半泣きでバルバトスがしょぼくれた顔をしている。
えぇ……ドラゴンがこんな顔するのか。
どんだけ甘さに惚れたんだ……。
『今まで肉しか食べてこなかったのだが、もう味に飽きていてな……サトウフラワーの甘さを知ってから、もう耐えられぬのだ! サトウなしでは生きて行けぬ!』
俺としては悪くない条件だが、古龍を使役するというのは少し荷が重い気がする。
「悪いんだが……バルバトスを養う余裕はないんだ」
『なんじゃと!? わ、我が大きいからか?』
それはそうだろう。
バルバトスほどの大きいドラゴンの食費を考えてみろ。
一日ブタ何頭で足りるかって話だ。
「せめて人とかならな」
『な、なれば良いのじゃな! 人になれば飼ってくれるのじゃな!?』
「人なら、いいけど……」
『言ったからな! 言質は取ったからな!』
あれ、なんかまずいこと言った……?
『手をあげよ』
「こ、こうか?」
カブッ────
痛くはないが、その手に嚙みついてムシャムシャと動かしていた。
すると光を放ち徐々に人の形を形成していく。
手を噛んだまま、長い金髪で釣り目の少女が現れる。
目が紅い……珍しい。
「むにゃむにゃ……ふむ……これで契約は完了じゃな!」
手のひらに星座が刻まれている。
バルバトスを象徴する物だろうか。
そ、それよりも……。
「……お、女の子になった……」
「なんじゃ、そんな変かの!」
「い、いや……変じゃないが」
流石に驚くだろ。
いきなり龍が少女になったら。
しかもちんちくりんだし……威厳さは微塵も感じない。
「ならば良いじゃろう。で、お主の名前は?」
「さ、サウロンだ……」
「ふむ……良い名じゃな。よろしく頼むぞ、我が主よ」
そのまま俺たちは、依頼の達成を報告しに歩きだす。
「……あれ、何か忘れておるような気が……まぁ良いか!」
*
私は今、何を見ていたのだろう。
突如現れた謎の男によって、ドラゴンは冷静さを取り戻した。あの威厳ある態度から一変し、菓子一つで機嫌を変えてしまった。
現実か目を疑い、自分が割り込んでいい物か分からず黙っていた。
バルバトスが人の形をとり、男性と一緒にその場を去っていく。
その光景を眺め、ホッとする自分が居た。
(きっと凄い人なんだ……じゃなければ、古龍バルバトスを前に平然とした態度で立っていられるなんて……)
私は足がすくんでいた。
白銀級冒険者にして、みんなから最強の名を与えられた私が、だ。
────私は弱い。
スキル【剣闘士】がなんだ。環境に恵まれていたに過ぎない。
この戦いで思い知った。
今まで運よく生き残っていただけなんだ。
お菓子一つで古龍バルバトスを服従させてしまう。
あの人はきっと、私よりも過酷な環境に居たはずだ。だからこそ、それだけの力を持っている。
……知りたい。
彼が何者で、なぜあれだけの強さを持っているのか。私も教わりたい。
絶対に弟子にしてもらう。そうすれば、私はきっと……もっと強くなれる。
そう心に堅く誓う、白髪の剣闘士・ミリアルドであった。
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