3.琥珀亭
次の日、俺は琥珀亭という商業区にある酒場にやってきていた。
昼間だというのに賑やかで、冒険者や荒くれ者が多い。その中で、亭主のいるカウンターへ座った。
もちろん、酒を飲みに来た訳ではない。
「亭主、闇ギルドを作りたい」
「……あんた、サウロンだろ」
俺の言葉が聞こえてしまったのか、後方に座る酒に溺れた二人組が呟いた。
「アイツ、もしかして闇ギルドを作りに来たのか?」
「おいおい、あれサウロンって奴じゃないか? けっ町の英雄様も落ちぶれたもんだな」
正規ギルドの方は金が掛かる。稼ぐまで待っていたらおじさんだ。時間は有限なんだ。死ぬまでにやりたいことは、たくさんある。
ハゲている亭主に対し、手数料を支払う。
「これで手数料は足りるだろ?」
「あまりオススメはしないがね」
亭主は押し黙ったまま慣れた手つきで手数料を懐にしまい、代わりに酒と依頼書を出される。
ここは闇ギルドを創設するための場所だ。ほとんどの住民は知らず、人事ギルドで情報収集をしている時に知った。
闇ギルド。俗に言うヤクザのような存在だった。
表舞台ではできない依頼が処理され、違法な物が流通している。冒険者ギルドや王都もこのことは把握しながらも、手が出せず、実質的に黙認されている。
「闇ギルドは創設時にランク付けがさせられる。まず、三つの依頼のうち、どれか受けて成功したランクで審査する決まりだ」
出された依頼。どれも問題として大きな依頼で、解決力を試されているらしい。
ランク依頼
【S.古龍バルバトスの討伐】
【A.要人の暗殺】
【B.山岳奥地にある水流草の回収】
古龍バルバトスの討伐……人事ギルドにも来ていた。到底討伐できないからガン無視していたが……あのギルド長は誰でも良いから受けさせろ、と言っていたな。
Aランクは恨みを買いそうだ。大抵の人間はBランクの水流草という治療効果のある水分を含んた薬草を選ぶだろうな。
できなくはないが……できれば、良いランクからギルドを始めたい。
ギルドにも箔が着くしな。
「……なぁ、古龍の依頼は冒険者ギルドからだろ。こっちにまで来てたのか?」
「流石だ、よく知っているな。そうだ、ソイツがサトウの産地に出没するようになって、流通が止まってるんだ」
……サトウ。
サトウはサトウフラワーの蜜から取れる。
フォルド町はサトウフラワーが特産品で、中でも上質で甘いサトウが生産できて有名だった。王都にも出荷しているらしく、大きな存在だ。
その周辺にわざわざ古龍のドラゴンが出るのか?
「サトウの産地で異変でもあったのか?」
「さぁな……みんな困ってるんだよ。サトウは酒にも使うんだ。お蔭で商売あがったりだよ」
……もう少し情報が居るな。
「古龍が出たのはいつ頃だ?」
「半年前だ。そういえば、新しくサトウフラワーの産業が拡大したのも半年前だな……」
なるほどな。
【判断力】を使って結果を確かめる。
古龍バルバトスはフォルド山の頂上に鎮座している龍だ。何百年も生きていて、人間には関わらないはずだ。
でも急に出て来た。きっかけはサトウフラワーだ。
産地を拡大したことで、生息域にまでサトウフラワーが広がったのか。
「亭主、ここら辺でサトウを使った菓子は売ってるか?」
「あぁ? あるが……何に使うんだ?」
「古龍バルバトスを討伐するのに使う」
「おい……もしかしてSランク依頼を受けるつもりか!?」
「そうだけど……ダメか?」
「駄目だ! あんたを死なせる訳には行かない」
「でも、受けていいんだろ?」
「そ、そうだが……」
なら問題ないだろ。
みんな困ってることだろうし。
依頼書を持って琥珀亭を後にする。
算段はある。
年老いた龍は知性を宿し、言葉を喋るという。バルバトスともなれば、喋れない方がおかしい。そこに勝機がある気がした。
必ずしも、倒す必要はない。
「ま、待てサウロン! おい! ……お、恩人を死地へ送っちまった……っ!」