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鋼鉄の乙女は戦火を愁う  作者: ふらっぐ
5/5

Why are you crying?

そこに意思の光はあるか。

そこに拭い去れぬ悲しみはあるか。

 その夜、セトミたちはシェイの工場の一室を借りることになった。そこも他の部屋に負けず劣らずのボロ部屋だったが、荒野で野宿よりはよっぽどましだ。


 とはいえ、セトミは妙に寝つきが悪かった。普段は眠ろうとすればすぐに眠れるほど寝つきのいい彼女だったが、一つだけ、気になることがあった。それがまるでのどに刺さった魚の小骨のように、その心に引っかかっていた。


 時計を見ると、その針はすでに午前2時を回っている。


「……確かめに行くか。どうせ、このままじゃ眠れそうにもないし」


 隣に眠るミナを起こさないように小さく一人ごちると、セトミはベッドの外へと下り立つ。


 リリア・アイアンメイデン――――彼女は今、街を巡回しているはずだ。それを心の中で確かめると、セトミは静かに歩き出す。


 外へと出ると、昼間のような照り付ける暑さはないものの、じっとりとした蒸れた空気が身体にまとわりつく。この街の東にあるという、巨大な湖からの風が、湿った空気を運んでくるのだろう。


 空は雲が多いのか、時折、月の光がさえぎられ、満月の夜にしては、光の少ない夜だった。


 が、不意に晴れた月の光がスポットライトのように照らし出す人影があった。ちょうどこの辺りの巡回をしていたのか、その姿は探している当の本人、リリアだった。


「やっ、お疲れ様。帰ってきたところ?」


 あちらも気づいたのか、視線がこちらを向いたところでセトミは片手を上げて見せる。


「いえ、これからもう一度、周辺を巡回してまいります。セトミ様こそ、どうされたのですか。明日はゆっくりとはできません。しっかりと休息をとっておいたほうがよろしいかと」


「いや、なんか眠れなくってさ。夜行性の猫なもんで」


 そう言って、セトミは猫のようなポーズでおどけて見せる。


「だからさ、ちょっとだけ巡回につき合わせてもらおうかなー、なんて。少し歩いたほうが、眠れるかもしれないしね」


「……それは構いませんが」


 その言葉を最後に、さっさと背中を向けて歩き出すリリアに、セトミはあわてて追いすがった。


「てかさ、リリアは疲れないわけ? いくらオートマトンでも、二十四時間、稼動してるってきつくない?」


「疲れなどありません。私は、そのように設計されておりますので」


 淡々と答えながら歩いて行くリリアではあるが、その目のシステムはせわしなくカチャカチャと音をたてている。人間で言うなら、辺りに視線を巡らせている、といったところか。


「それよりも、お聞きになりたいことがあるのでは?」


 こちらをまったく見ないまま、リリアが単刀直入に言う。


 心の中を見透かされたような気分になって、セトミは思わず心の中で舌を出した。本人が機械的な雰囲気なのは、それが自分の性格だからだと言ったことを証明するかのように、彼女らは想像よりもずっと、人間の機微を悟る能力に優れているらしい。


「んー、ま、たいしたことじゃないんだけどさ。あんた――――というか、この街のオートマトンは、なぜ人間と戦うことを選んだのかなって。どうも、そんなに戦うことを望んでないように、私には見えたからさ」


 まだどうも、リリアに対してどう言葉にしたらいいか、よくわからないセトミが、頬を掻いて言う。その言葉に、リリアがにわかに視界をこちらへ向けたが、そこにどんな感情があるのかは、やはりわからない。


「あ、もちろん、例のなんちゃらシステムってやつで支配されたくないことくらいわかる。でも、それなら戦わなくても、逃げたっていいわけだし。戦うっていう選択をしたのは、なんでかな……って」


 セトミが言い終えた直後、不意に月がかげった。ただでさえ表情の読めないリリアの顔が、闇というヴェールの向こうに隠される。


「……私たちは、あくまでもオートマトンです。人間のために作られた、自動人形。元は、人間のために働くのが存在意義。……ですがそれは、自らの意思で行うこと。決して、システムに縛られ、侵略のための道具にされることと、同義ではありません」


 そう言うリリアのシルエットは、その表情こそうかがえないものの、本人も気づかぬほどわずかに、うつむいていた。


 まるで、なにかを愁うように。


「でも、あんたは戦闘用オートマトンなんでしょ? ……なら」


 少々、残酷なことを聞いただろうか。そう思いながらも、疑問だったことを口にする。だがその言葉の先を、リリアが断ち切った。


「いえ、私は戦闘用オートマトンではありません。確かに戦闘プログラムとガンマレイによる武装を施されていますが、私のシステムは、システム・ガーディアン。守るための、プログラムです。侵略のためのものではありません」


 かすかに、その声は今までの彼女のそれよりも、揺れていた。


「それは皆も同じです。マスターの作ってくださったここを、守りたいがゆえに、あえて戦うことを選んだのです。いつか再びマスターが帰られ、人と共存することができることを信じて」


 リリアがその言葉を言い終えたとき、再び月が空にその姿を現した。光が彼女を照らし出したそのときには、すでに彼女は顔を上げ、再び辺りを警戒するように索敵を再開していた。


「……なぜ、そのようなことを?」

 リリアの返した質問に、今度はセトミが帽子を目深に被りなおした。


「……ちょっと前に、気になることを言う人がいてね。『お前は、生きることや守ることで過ちを伝えることができる』って。だから、あんたたちはどうして戦うことを選んだのか、気になってさ」


 が、すぐに帽子の縁を上げるとリリアに顔を向け、にっこりと笑ってみせた。


「でも、あんたの答え聞いて、すっきりした。ちょっとね、あの人が言おうとしたことに近づいた気がする」


「……そうですか」


 その月明かりの下。ほんのわずかにではあるが、セトミにつられるようにして、リリアが微笑んだ。


 途端、セトミがひとつ伸びをすると、大口を開けてあくびをして見せた。


「すっきりしたら眠くなっちゃったから、帰る。あんたもほどほどにしときなよ。明日っから、一緒によろしくやってくんだからさ」


 まさしく猫のような気まぐれさで、セトミは踵を返すと、来た道を再び歩き出す。


「……セトミさん」


 その背に、不意にリリアが声をかけた。その声の響きは、普段のそれよりも若干、やわらかく感じたのは、気のせいだっただろうか。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 深く頭を下げるリリアに一つ手を振ると、セトミは工場への道を歩き出すのだった。






 翌朝、スクラップドギアと、ソドムの間のゲートへと続く道。そこを、一台の高級車が走っていた。


 高級車と言っても、この世界における高級車はいわゆる贅を尽くした車ではなく、危険に対して様々な対応ができる、という代物だ。野盗やバンデットにいつ出くわすか分からない荒野において、華美な装飾は格好の的であることを知らしめるだけである。


 この車にしても、形状自体は乗用車ではあるが、防弾ガラスに超合金のボディと、そういった点における高級車であった。


 その後部座席にはすでに変装を済ませたセトミ、そして運転席にはリリアの姿がある。


 まったくもってしたことのないような姿のセトミは、少々、落ちつかなげにスカートの端をつまんでみたり、ウィッグの先をいじってみたりしている。


「……セトミ様、あまりそわそわしないほうがよいかと思われます。あなたは、そのような姿が当たり前である人物を演じていただかなければならないのですから」


 ちらり、とミラーでセトミの様子を確認したリリアが、注意するように目を細めた。


「わかってる。私はターニャ・シラミネ、18歳。エデン近郊のヒューマンの町からここの親戚の家へ避難してきたお嬢様。無口で恥ずかしがり屋なので、いつも帽子で顔を隠してしまうのがくせ。これでいいんでしょ?」


「はい。必要なこと以外は、あまり話さないでください。言葉を発することが多ければ、それだけばれる危険性も高まります」


 リリアの言葉に、セトミは一つうなずく。が、その表情をにわかに、いぶかしげな色が染めた。


「ところで、シラミネって、日本語の苗字でしょ? いまどき珍しいわね、ずいぶん古くから続くお家柄なわけ?」


 暗に、結構な地位の人間が内通者なのではないか、というセトミの意を受け取ったか、リリアの表情がわずかに険しくなる。


 ヴィクティム化現象が最初に発生した日本には、大戦極初期、アメリカを始め、各国からの大規模な軍事介入があった。だがその直後、世界各地で同時多発的にヴィクティム化現象が発生したため、どの国も自国の防衛で手一杯になり、派遣されていた兵たちはほとんどの者が取り残されるという運命をたどった。


 また、日本人のヴィクティム化率は高く、生存率は決して高くはなかった。そのため、人種はもはや、多くが血筋もわからない混血がもっとも多く、純粋な日本人名をもつものは少ない。いるのであれば、それは少なくとも大戦の終結から脈々と続いている家系、ということになる。


「はい。内通者は、セトミ様のおじにあたる、ということになっております。その方は、シドウ・シラミネ様――――現執政副長官、つまりはソドムで二番目に強い権限を持つ方、ということになります」


「……執政副長官?」


 リリアのセリフに、セトミの眉間のしわがさらに深まる。彼女は腕組みをしながらどっかとシートに背を預けると、とんとんと指で腕をつつきだす。


「……信用できるわけ? もしなんらかの理由で長官とやらが倒れたら、そいつが最高権力者ってわけでしょ? それこそ私たちが利用されかねないんじゃないの?」


「――――それは……」


 何かを言いかけたリリアだったが、不意に口をつぐんだ。ゲートへと到着したのだ。


「ご本人に、お尋ねしたほうがわかりやすいかと」


 ゆっくりと、車はゲートへと近づいて行く。昨日はシェイのハッキングにより問題なく通過できたゲートだが、今日は当然のごとく、機械によるセキュリティシステムではなく、見張りの兵が立てられていた。


「お止まりください」

 兵の一人が、車の前で両手を突き出し、止まれというジェスチャーをする。内通者であるシラミネという男から話が通っているのか、昨日入国したときのような横柄な態度はない。


「シラミネ副長官の姪御様、ターニャ・シラミネ様ですね? 失礼ですが、念のため入国許可証を提示していただけますか?」


 ウィンドウを開いたリリアに、こちらを一瞥してから、兵が言う。


 リリアが無言で、シェイが写真を偽造した許可証を手渡すと、兵は再びセトミに視線を送ってから、許可証を返す。


「失礼しました。長旅お疲れ様でした。どうぞ、わが国でおくつろぎください」


 昨日の兵の態度と比べると吹き出しそうになるくらいの丁寧さで、最後にはその兵は敬礼までして見せた。


 ゲートを抜け、それが再び閉じられるのを背中越しに見ながら、セトミはつい、ぶはっと笑い声を吹き出した。


「なーによ、あれ。昨日のクソ偉そうなやつと全然扱いが違うんでやんの。来る国まちがったんじゃない? ほんとに昨日と同じ国なわけ?」


「……セトミ様」


 リリアがじっとりとした視線で、小声でささやく。ばれるような発言はするな、と目が口以上に語っている。


「ごめんごめん、つい、ね。で、お目的のお相手はおいでになっていらっしゃられるのかしらでございますこと?」


 反省の色ゼロの、奇妙な敬語でおどけるセトミにその視線の湿度を上げながらも、リリアはゲートから少し離れて停められている、黒塗りの車を示して見せた。


「……あちらに」

 途端に、セトミの表情が変わった。おどけたような色を帯びた瞳から、剣呑な、チェイサーキャットの瞳へ。


「さて……では、行きましょうか? リリアさん」


 お嬢様を装ったかのような静かな声で囁くと、セトミは縁の広い帽子を、顔を隠すように深く被りなおした。そして荷物という名目で運んできたトランク――――これにはアンセム、分解したAOWが隠されている――――を両手で手に提げるように持つと、ゆっくりと外へと出た。


 向こうが車から出てくる気配はない。仕方無しに、セトミはリリアに誘導されるようにして、内通者――――軍政府の副長官であるという男が乗る車へと向かう。


 セトミが車へと近づくと、それを待ち構えていたかのように、後部座席の窓が開いた。


「やあ、ターニャ。おお、大きくなったものだ。外へ出て出迎えたいところだったのだが、あいにくと、手足がこうなものでね」


 そこから顔をのぞかせたのは、恐らくは歳の頃は六十代。白髪と白髭がどこか隠者めいた空気をかもしだす、老人であった。全開になった窓からは、彼の座る車椅子と、義手、義足らしい左手足がのぞいて見えた。


「……はい。おひさしぶりです、シドウおじ様」


 かすかに顔を上げ、セトミはそれだけをシラミネに返す。無口で照れ屋のお嬢様を演じればいいのだ。あまり言葉は必要ない。


「うむ、堅苦しいあいさつは抜きにして、私の家でゆっくりと話そうじゃないか。さあ、乗りたまえ」


 リリアが開けたドアから、セトミも後部座席に乗り込む。


「私は乗ってきたお車をシドウ様のお屋敷までお運びいたします。お嬢様、到着までシドウ様とご挨拶を済ませておくのがよろしいかと」

 言外に『彼にいろいろ聞くといい』という意味を示すように、リリアがちらりとシラミネを一瞥する。彼もそれを承知するかのようにセトミに視線を向け、ひとつうなずいて見せた。


「では君、出してくれたまえ」


 ドアが閉められると、シラミネが運転手に片手を上げて見せた。


 ゆっくりと動き出した車内に、不意にぴりぴりとした沈黙が下りる。が、どうやらそう感じていたのはセトミだけだったようだ。


「――――さて、肩の力を抜いていいぞ。この車内ならば演技の必要はない。だが、街中ではそうはいかない。評議会のスパイや監視カメラがどこにあるかわかったもんじゃないからな。もう聞いているだろうが、私はシドウ・シラミネ。評議会副長官なぞをやっとる。君の名は?」


 意外にフランクな物言いに、セトミが肩の力を抜くというよりは、自然に肩の力が抜けた。が、すぐに瞳を細めて警戒するようにシラミネを見上げる。


「……できることなら、私がそれを言う前にお聞かせ願いたいもんね。そんなご大層な身分にいるお方が、どうして私たちの味方なんかするわけ?」


「――――ふむ。事情を知らぬものから見れば、私は敵軍のナンバー2だ。疑問に思うのももっともだ。普通ならば、トップがいなくなれば、自然に最高権力者になる立場なのだからな。このような軍事政権下では、なおさらだ」


 鋭く見上げるセトミの視線に、警戒心を見抜いたのか、シラミネが白髭を撫でながら言う。


「だが、私はトップがいなくなったところで、権力を握ることなどできない。この国では、内政での実績よりも、色とりどりの勲章のほうに天秤が傾くのだよ」


 どこか皮肉っぽい響きを込めて、シラミネが笑う。


「それでも、政府には民を抑える、ハト派で内政に通じる政治屋も必要だ。だが、ハトが野犬の群れのリーダーになることなどありえない。そうだろう?」


 そのセリフに、ちらりとセトミはシラミネの車椅子と左手足を一瞥する。結構な年季が入っていることが一目で分かるそれは、シェイの片腕とどこか似ていた。どうも、それにもオートマトンの技術が使われているように思える。確かに、かなり長い間その身体では武勲は立てられないだろう。


 実際、彼の装いはシャツにベスト、スラックスといった私服であり、勲章はおろか、階級章すら付けていなかった。


 セトミの視線を懐疑と受け取ったか、再びシラミネが口を開く。


「――――それに、いくら愚かなこの身とはいえ、我が息子を売るようなことなどできんよ。いや……愚かであるが故に、かな」


「……え?」


 その唐突な言葉に、セトミは思わずまじまじとシラミネの顔を覗いた。


 その視線を受け止めながら、彼は遠くを見るように、あるいは遠くに思いを馳せるかのように、視線を空へ向ける。その色に、嘘や偽りは、少なくともセトミには感じ取れなかった。


「ニコラ――――君らの言う『マスター』は、私の息子なのだ。……とは言っても、義理の息子だがね」


「義理の、息子……?」


 あまりに意外な事実に、セトミはおうむ返しに答える。


「そうだ。私はこれでも、小さな孤児院をやっている。ニコラは、ある日そこにやってきた、孤児だった。自慢ではないが、頭のいい子でね。いつも、将来は科学者になりたいと、オートマトンに関する書物を片時も手放さなかった」


 孤児、という言葉に、ぴくりと反応する自分がいた。親がいない、という意味では、自分も同じだ。そして、他の誰かに育てられたということも。


「そして成長したニコラは試験に受かり、本当に科学者になった。だが、この国で科学者になるということは、同時に軍に属することとなる。無論、国の繁栄と、軍備の増強のためだ」


 そこまで言うと、シラミネは大きく息をついた。


「そして、あの子にとってそれは、理想とは程遠いものだった。人殺しの武器を作らされ、ただ使い捨てにされるだけのオートマトンを生み出す。……あれは、優しい子だった。いや、優しすぎたのだ」


「それで、国を捨て……捨てられたオートマトンたちを修理して回った……」


 ぽつり、とセトミはつぶやく。己の名に冠した言葉――――『自由』。それは決して好き勝手にしていいということでなく、自分の道を自分で選ぶことと、彼女は思っている。


 その自由を、マスター……ニコラもまた、選んだのだ。


「そうだ。しかしそれは、国にとってしてみれば亡命だ。オートマトンたちの町が出来上がった頃、ソドムはそれを迫害しだした。亡命者の作った、裏切りの国だと」


「人間らしいわね。最初に彼らを捨てたのは、自分たちでしょうに」


 セトミの皮肉のこもった声に、シラミネが思わず苦笑する。


「……ふふふ、まったく、耳が痛いな。ニコラも同じようなことを言っていたよ。『人のほうが、最初に彼らを捨てたのに』と。だがそれでもあれは、争いを望まなかった。あやつの求めるものは、あくまで人とオートマトンの共存だったのだから。……だから、いまだに私は息子の夢を、見守りたいのだよ」


 これだけ自由を奪われ、迫害され、その場にいることすら拒否される――――それでも共存を望むマスター・ニコラとは、確かに優しい人物だったのだろう。


 だが確かに、シラミネの言うとおり、この国……いや、世界では、あまりに優しすぎるといわざるを得なかった。


 だけど――――と、セトミは、言う。


「私は……セトミ。セトミ=フリーダム。これでも少しは名の知れたチェイサーよ。『チェイサーキャット』なんて呼ばれてるわ。よろしくね、おじさま」


 初めて微笑みながら、セトミがシラミネを見る。その表情に、今度はシラミネがきょとんとした顔でセトミを見るが、すぐにその顔には笑みが浮かぶ。


「……それは、信用してもらえたということでよろしいのかな?」


「まーあね。作り話にしちゃよく出来すぎてるし。作り話だとしたら、飼い殺しの政治屋なんかより、子供向けの作家かなんかにでもなったほうが向いてるわ。お、じ、さ、ま」


 笑いながらおどけて言うセトミにシラミネも笑いのしわを深くする。


「なるほど、その二つ名は言い得て妙よ。『狩人の猫』でありながら、またチェシャ猫のようでもある。それで『チェイサーキャット』か」


 気に入った、とばかりにシラミネが豪放に笑う。が、その双眸が前方に現れた建物を捉えたとき、彼の目が再び緊張感を取り戻した。


「さて……それでは、今後の詳しい動きは私の家で話すことにしよう。君らのお仲間を取り返す手段を、な」







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