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私は、サクの目の前にお茶を差し出した。


サクは、私の入れたお茶を飲みながら、話し始める。


「ああ、そうそう。まずは、ミイナ嬢、忠告をしておく。これから俺のことはサク、エイチのことは、エイチと呼び捨てにするように」


「へ、何で? 流石に、皇子様を呼び捨てには、できないわよ」


無理無理。流石に皇子様を呼び捨てにできません。


「呼び捨てぐらい許される範囲だろ。エイチのことを鬼畜皇子と呼ぶよりは、ましだと思うけど」


・・・ははは、やっぱり鬼畜皇子は、バレているか。私たちが密かに呼んでいたのは。


「嫌いなんだよ。俺もアイツも。敬意も何もないのに、上部だけは取り繕うような奴。だったら、不敬な状態でも何でも文句は言わないから、それ相応の対応された方が、気分が楽なんだよ」


まあ、確かに。・・・だけど、本当にそれで問題ないの?

呼び捨てにしたら、やっぱり不敬とか言って処分したりとか、・・・は、しないか。

するんだったら、鬼畜皇子と呼んでいる時点で処分されているしな。


「・・・わかったわ、サクとエイチ、と呼べばいいのね」


「そう。じゃあ、これから、それでよろしく」


とても軽く言葉を返された。

それでいいのか、この国の皇帝(トップ)公爵(第2位)の息子。


「ああそうそう。今現在この部屋にはエイチが張った結界があるから、声が漏れることはない。だから、ゆっくりと話そうか」


い、いつの間に。それよりも、何でそんなものが、この部屋にあるのよ。


「さて、今更だけど、自己紹介だけは、しておこうか。俺の名前は、サク・ムーン。ムーン公爵家の長男。知っての通り、魔力は全くない」


 そう言えば自己紹介していなかった。あまりにも濃い内容の話をしていて、今まで会ったことはないのに互いを知っていたから、既に自己紹介をしていた気分になっていた。


「私は、ミイナ・ルービックよ。ええと、ああ小魔局に所属しているわ・・・って、勿論、知っているとは思うけど」


別段話すことがなくて、どうでもいい情報を口にしていることに気付き、最後の一言を告げる。


「もちろん知っているよ。俺も小魔局には、席があるからな。と言うより、創設に関わった1人だしな」


「はへ?」


変な声が出た。なにその、初耳情報。


「まあ、その話は別の機会にでもしてやるよ。今回は、時間がないから、その話は、割愛する。別の話で聞いておきたいことはあるか?」


まあ、至急聞く話でもないので、 気が向いたら聞くとしよう。

それよりも、至急知りたいことを聞いておく。


「私、何でこんな豪華な部屋が与えられているの?」


ここは、私の寮部屋である。それはいい。それはいいのだが、部屋のランクが問題なのである。明らかにこの部屋、貴族用の部屋である。私が申請したのは、平民用の部屋。これが平民用の部屋だったら、貴族の部屋は、どんなに豪華絢爛なのか。はっきり言って税金の無駄遣いである。


「安心すればいい。この部屋は、貴族用の部屋だから」


いや、安心できません。私は、貴族ではありません。平民です。

やめてください。


私は、恐る恐る、目の前の男を見る。


「ええと、費用は・・・」


「もちろん、エイチ持ち、だよ」


ち、ちょっと、簡単に言っていますが、それって国費・・・、


「まあ、国費って言えば国費かなぁ。とは言っても、必要以上のお金は出せないから、俺とエイチの部屋、ランク落としたんだよね」


つまり、私の部屋のランクと、エイチの部屋のランクが、交代になっていると・・・。


「あの・・・、倒れてもよろしいでしょうか?」


倒れたい。聞きたくない。


「クックックッ、まあ、倒れるのは自由だけど、倒れても何も変わらないよ」


 正論ありがとう。でもそんな正論いりません。


「さてと、じゃれ合いはこのあたりにして本題に関して質問は?」


あなたとじゃれ合った記憶はありませんが、先が進まないので黙っておく。


「私にさせたいことは?」


「それは今の話? それとも将来的の話?」


 何で、将来的な話が出てくるの? それってつまり、将来的に重要な何かをさせると言うこと?


「両方」


「わかった。俺が今日の自己紹介でした話は覚えているよな? その言葉から何を想像する?」



確か、サクの自己紹介の言葉は、こうだった。

『サク・ムーン。ムーン公爵家の第一子。実家からは、半分勘当されているから、平民と同じ扱いで特に問題ない。それでも態々ムーン公爵家の名前を出した理由は、一つ。愉快犯で平民の格好をした貴族連中が、そこかしこでいるので気をつけるように忠告するため。以上』


必要な言葉は、『平民の格好をした貴族連中がいるのを忠告するため』。その言葉から導き出されることは・・・。


「差別、いじめ・・・の抑止?」


「当たり。とは言ってもあまり効果はないだろうけどね」


確かに、誰が貴族か分からなければ、差別やいじめを躊躇する者も出るだろう。だからと言って差別などをするものは、する。それに、その中で、ターゲットに選ばれたら、凄惨を極めるに違いない。

つまり、私を下僕にしたのは・・・、


「い、嫌よ、私。絶対に嫌、いじめられるなんて絶対に、絶対に、絶対に嫌」


 手が震える。自分の心臓の音が大きく聞こえる。

 嫌、あの恐怖は、自分がどこかへ行ってしまいそうな、あの感覚だけは覚えている。忘れたい、でも忘れられない。


「落ち着け。いいから落ち着け、な? 聞け、ミイナ嬢、お前じゃない。いじめられ役は。別に用意している」


 え?


「今回のこの計画、それなりに力がある者がいじめられ役をやらないととんでもないことになる可能性がある。それこそ、死人が出てもおかしくはないんだ。理由は、分かるな?」


 分かりたくないけど分かる。

 体は痛めつけられていないけど、心が悲鳴を上げる感覚。体が痛めつけられないからこそ、本当にいじめられているか分からず、心は困惑する。そして、極め付けは、中途半端な優しさ。人の見えないところで優しくし、他の人と居る次の日には、無視している。話しかけようとしたその声は、止まり、絶望が支配する、その感覚。

その、感覚を私は、身を持って知っている


「なら、その役、誰がやるの?」


 あんな思い、誰もしてほしくない。嫌だけど、嫌だけど、でも誰かが犠牲になるのなら、自分のほうがいい。


 そう思えるくらいには、あの時間は、残酷で誰にも経験をさせたくなかった。


「エイチだよ」


え? 私は思わす、目の前のサクを見た。


「エイチがやる。・・・これはエイチが言い出したことだ。俺としても不本意な話だが・・・。おれたちの自己紹介は、その為の布石なんだよ」


確かに、エイチの自己紹介は、彼らしくなく、オドオドしたものだった。それが布石だというのも言われれば、確かに頷ける。・・・でもだからと言って・・・、


「そんな事が許されるわけないじゃない! だって、彼は皇子なのよ? 何かがあってからじゃ遅いのよ」


頷けるわけない。取り返しのつかない何かがあったら、どうするというのか。


「エイチは、そんなにヤワな男じゃない。王宮の中は、それ以上に酷い場所だ。それこそ、油断をすれば死に直結するくらいにはな。あいつは、その中で生き残ってきたんだ。そしてエイチは、俺よりも自衛ができる。もう俺たちに出来るのは、信じること、それしかないんだ」


 その少し怒りを含んだ話し口調に、私は、息をのむ。誰よりも、もどかしい思いをしているのは、サクなのかもしれない。いつからエイチと一緒に居たか知らないが、小魔局の創設に関わっていれば、5年は経っている。

 それだけ長い時間を一緒に過ごしているのなら、私が何かを言うことなんてできないではないか。


「・・・分かったわ。・・・なら、私は何をすればいいの?」


これ以上、この話をしても話は進展することはないだろう、と諦めた。代わりに本来の話題を聞いた。


「ミイナ嬢、君の役割は、いじめ、差別を行っている人の牽制と、いじめられそうな生徒の保護だ」


 はい? 待ちなさいってば。唐突なんですけど・・・。百歩譲って、・・・いや譲れないけど、・・・譲ったとして、生徒の保護は分かる。でも、何の力もない私が人を牽制するなんて・・・、


「あっ、・・・だから、この部屋なの?」


 唐突に、納得した。納得した私に、サクは満足そうに頷いた。


「そうだ。勘は健在のようだな。平民として入学したのに、寮のランクは貴族並み。そして俺の自己紹介の言葉で、まずミイナ嬢、君は貴族だと思われる。そしてそれは、人を牽制できる理由になる」


 そう、貴族かどうか真実なんて関係ない。人は、疑いがあるだけで、自分で物語を作る。その自分で作った物語を信じ、行動する。

 そして、私はその背景を吟味し、一つの結論を出す。


「私に出来るかどうか分からないけど、私の方法で、やれることをやってみるわ」


 やっと私は、そう言うことが出来た、言えた。納得できないと行動に移せない、私の行動原理だ。


「そして、これは俺たちの予想というか、確信だがだが、近日中に、クラス内にグループが作られる。そして、そのグループに入れない生徒が何人か出てくると思う。だけどミイナ嬢、君は、状況を見ながら、親しくなる生徒を見極めるように」


つまり、親しくなる生徒は、私に一任してくれるというわけね。


「了解。その条件は、とても助かる」


「そう言ってくれて助かるよ。ありがとう、では、そろそろ帰らせてもらうよ」


 そう宣言すると、サクは立ち上がり、窓を開けた。


え? ちょっ、ちょっと待って、


「私に将来的にさせたいことを話していないわ!」


 言いたいことは、それじゃなかった・・・。

 と思いつつ、これも聞きたいことの一つだった、ことを思い出した。


「ああ、そう言えば、そんな話もあったね。大したことではないさ。今回のことが終わったら、ミイナ嬢の知識を、他の人に伝授してほしいんだ」


 サクは、窓縁に足をかけながら、事も無げにいう。

 なんだ、私の知識を他の人に伝授するだけの話ね? 簡単なは、な、し・・・じゃないってば、それってつまり私に教師になれってこと?


「ち、ちょっと、待って、サク。それって、・・・」


 そこから先は、言えなかった。既にサクは、ここから飛び降りていたのだ。

 慌てて、私は、窓辺による。が、サクはいなかった。


 ここ、3階よ。いくら魔法が使えなくて、移動手段がなかったとしても、飛び降りることないじゃない。

 でも、ここから飛び降りて、何事もなく姿を消せるって、どういう力を持っているんだろう。ちょっと興味深い。


私は、呆然と外を見ながら、そんな事を思った。


あれ? そう言えば、エイチが、後で迎えに来るとか言っていなかった?


ふと、嫌なことを思い出し、冷や汗が出た。


宣言通り、エイチは、この部屋に再び来て、サクがいないとなると、そのまま帰っていった。


って、天下の皇子様をパシリにしないでよぉ~。


エイチを一人で対応した時は、拷問かと思った。





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