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鬼畜皇子、こと『エイチ・アイリッシュ』は、彼を知っている人間からすれば、人使いが荒い、と言われている。
しかし、世間一般的に彼は、表に全く出ていないので、第5皇子である、と言うことぐらいしか、知られていない。
第4皇子の年齢が30歳なので、第5皇子の年齢は、25ぐらいだと言われている。
私も、それくらいの年齢だと思っていた。それが、私と同い年なんて。
信じられない、信じたくない。
なぜなら、私が所属している小魔局自体の運営のトップがこの、鬼畜皇子こと、エイチ・アイリッシュが私と同い年と言うことになるのだ。そんなの、絶対に詐欺だ、詐欺に決まっている。
5年前には小魔局ができていたのよ。その時から、トップは、変わっていないんだから、10歳の少年がしていたってことになるじゃない。それも、小魔局は、魔局とは違って
実力主義の世界。トップだって、同じであると言われている。
と、ウダウダと、現実逃避して、色々なことを考えてみる。まあ、どんなに現実逃避しても、現実は変わらないのだが。
「よう。今までは書類上での出会いしかなかったから、会うのは初めてだよなぁ、ミイナ嬢よ」
エイチが、私に声をかけてきた。
何でここにいるのよ。
やっぱり、現実逃避しても、ここに、鬼畜皇子こと、エイチとサク・ムーンがいることには変わりがないみたいだ。
確かに会うのは初めてですよ。
でも、小魔局でのあなた様の噂が酷すぎて、できれば一生会いたくありませんでしたが、何か?。
そして、その噂が、本当のことだと知っている身だからこそ、会いたくなかったんですよ。
そしてここをどこだと思っているんですか? 女子寮の中の私の部屋ですよ。
男子学生が、女子寮に堂々といるなんて犯罪行為、何で誰も止めないんですかね。女子寮のセキュリティ、どうなっているんですか?
心の中で愚痴る。愚痴る。愚痴る。
こういう男には、直接何か言ってもムダだ。
私は、ムダなことはしない主義だ。
心の中でなら、不敬なんて事はない。
思いっきり愚痴ってやる。
支離滅裂なことをうだうだと考えている自覚はある。
実を言うと、それくらいパニックに陥っている。
「くくくっ、顔に出やすいなぁ。ミイナ嬢、お前に話があったからな。サクと一緒に来てやった。まあ、ミイナ嬢も気づいている通り・・・」
来てやった、ではありません。勝手に女子寮なんて入ってこないで下さい、迷惑です。
「お前をこの学園に呼んだのは、俺だよ。と言うことで、おまえを俺の下僕に任じてやる。心して承れ」
はいぃ~。何が下僕に任じてやる、ですか。何様ですか? ああ、ハイハイ。皇子様でしたね。
私はと言えば、1人突っ込みを心の中で継続中だ。
この鬼畜皇子と毎日顔を付き合わせるだけでも、嫌すぎるのにぃ~。
さらに下僕になれだなんて、どんな無理難題を強いられるっていうのよぉ~。
はあっ、憂鬱。
「一つ伺いたいのですが、」
努めて冷静に言ってみる。
「何だ?」
聞いても無駄なことは分かっているんだけど・・・、・・・でも一応は聞いておく。
「私に拒否権は?」
「ない」
即答ですか? そうですよね、私に拒否権なんてないですよね? シクシク・・・。
「・・・分かりましたよ。引き受けますよ」
やけである。
「だから、お前、表情がだだ漏れだぞ」
そのニヤニヤ顔がムカつく。
「素直と言ってください。それに別に隠していませんから。そして、私に休暇を下さい」
どさくさ紛れて、休暇を申請する。棚ぼた的な気持ちで。
「休暇なら、今回のことが終わった後なら、いくらでもくれてやるよ」
え、本当に?
一瞬、手放しで喜びそうになったが、すぐに我に返った。
仕事で関わっているのを見る限り、この男は、約束は守るだろう。だが、それでは安心できない。
なぜなら・・・、
「きちんと、私の考える休暇を下さいね?」
これだけは、きちんと釘を刺しておく。
過去に『休暇がほしい』と言った局員を皇子が温泉地へ招待した、ことがあった。
そこまでなら美談だが、その温泉地に、皇子が同行した上で、近場(の山奥)にある魔草をとってきてほしいと頼まれ、その局員は、安請け合いをした。そして、皇子監督の下の魔草探しは困難を極めた、と言うことがあったと当の局員から、聞いている。
「ちっ、分かったよ」
その舌打ちは何だ。
やっぱり、自分都合の休暇を、渡すつもりでいたか。
だが、次の瞬間、私は固まった。
「まあ、お前1人、いなくても、ほかに、仕事は別に割り振れるからな。特に問題はないか」
へ? ちょっと待て。それ、どういう意味よ?
「休暇がほしいのは、ミイナ嬢、お前だけだろ? なら、その分、他のメンバーに仕事を回しても特に問題はないだろ?」
ちょっと待ちなさいよ。それって、私が恨まれるだけでしょうが。
「俺は、どちらでもかまわないんだけどなぁ、」
逆襲された。ズルい、でも私の負け。
「まあ、多少は時間がある、どちらにするか、考えておけ」
猶予をくれるってわけ? でも、私に選択肢がないってわけで、あまり意味をなさないんですけどぉ。
「と、まあ、それは冗談だ。キチンと、休暇は、やる。これが起動に乗れば、色々と楽になるからな」
・・・降参、諦めた。なんか、色々と負けた気分。
「それで私に、何をさせたいんです? 私を下僕にまでして」
そして私は、肝心要のことを聞いた。コレを聞いておかなければ始まらない。
「ああ、そうそう。・・・時間切れだ。それは、サクから聞いておけ。あとで迎えに来る」
? ああ、そう言えば彼、居たわね? 気配がなかったから、分からなかったわ。
「って、エイチ皇子、どこへ行くんですか?」
ほんの少し、目を離した隙に、既に移動の魔方陣を布き、移動の準備をしていた、皇子へと声をかける。
「城へ戻るんだ。じゃあな」
そう言い、皇子は、姿を消した。
今さら過ぎて別に驚きはしない。空間移動したのだろう。
だけど、一言言いたかったです。男子生徒を一人、女子寮に置いていかないで下さい。
「さて、エイチは居なくなったし、ゆっくり話そうか。ミイナ嬢」
当の置いていかれた本人は、慌てることなく、皇子が居なくなったソファーに座りながら言う。
おい、だから、ここは私の部屋。
「くくくっ、ミイナ嬢、ホント表情に出やすいな」
また表情に出ていたのだろう。サクに指摘された。
「ほっといて下さい」
それにそんなに私、表情読みやすいのかな? 昔はよく、何を考えているか分からない子って言われていたのに。
「まあ、どちらかと言えば、無表情の類いに入るんじゃねぇか? だけどお前、微妙にまぶたや、口元が動くんだよ。それに、仕草を合わせたパターンを見つければ、何考えているのか想像がつく」
あっそ。
心の中で思っていたことに普通に返答を返された。
やっぱりこいつも、コワッ。
人畜無害な顔をしていても、あの鬼畜皇子と類友ですね。
「取りあえず、座れ。状況を説明する」
ギロリと睨まれた。
思っていたことが、またしても分かったようだ。
そ知らぬ顔をして、私は、サクの前の席へと座った。