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「今日、皆さんがこの学園へ入学したことを後悔しないように、私たち教師は全力を尽くしたいと思っております」


 理事長のその一言で、入学式は始まった。


 新入生は、100人で、その数がそのまま生徒数となる。


 この学園の名前は、インヨウ学園。 本日開校された新しい学園だ。

 16歳から18歳までの子供たちの学舎となる。


 場所は、王都から少し離れた辺境の地。そして誰でも入れる学園と銘打っている。


「さて、この学園はいろいろな身分の生徒が入り交じっておりますが、身分も差別もなく仲良く学んでください。よろしくお願いいたします」


 そう言うと、挨拶していた理事長は、頭を下げた。


 理事長が頭を下げるとは、とみんな思っていたが、誰も、口に出す者はいなかった。


 なぜなら、みんな呆気にとられていたからだ。


 確かに、今回入学した生徒は、貴族もいれば平民もいる。


 しかし、基本的に貴族の生徒は、帝都の学園に入学している。

 それがこのインヨウ学園に来ているとなれば、それは、帝都の学園に入れなかった生徒と言うわけである。

 そして貴族となれば、変にプライドが高い生徒が多い。

 と言うような、あまり、平民の生徒にとって好ましい状況ではないのだ。

 それを平等に、とは、貴族の生徒にとっては、あまり好ましくない状況、平民の生徒にとっては、恐れ多いこととなるのだ。


 その中でのあの理事長の言葉。


 さぁて、どんな結果になることやら。


 私、ミイナ・ルービックは、不安半分期待半分で、ワクワクしていた。




 教室に入り、私はグルリとどんな人がクラスメートになったか確認する。


 うん、まあまあの比率ね。貴族半分、平民半分といったところか。


 1クラス、20人前後。それに、男女比が半々である。

 なので、貴族男子が5人、貴族女子が5人。平民男子が5人、平民女子が5人。と分かりやすい分布図だ。


 だけど、よく平民を半分もこの学園に集めたわね。さらに、半分は女だし。


 まず、この帝国の常識では、貴族と平民の間で格差がある。そしてさらに、男と女の中でも格差があるのだ。


 その中でのこのバランス。


 うん、面白い。


 としか私には思えなかった。


 なぜ、平民の私がこんな風に冷静に分析しているのかと言うと、私自身が生徒でありながら、仕事の一貫としてこの場にいるからだ。

 とは言っても仕事内容は、全く知らない。それでも予想はつく。たぶんスパイの役目を担えというだろう。


 そう、私は特殊な事情によって、既に5年程前から小魔局と言う場所で働いている。

 いい給料ももらっているので、余り文句が言える立場ではないのだが、仕事内容は酷い。今回のように、何も説明のないまま、仕事場に行かされることもよくあることなのだ。

 会ったことのない第5皇子であるトップのことを私たち仕事仲間は、こう呼んでいる。

 鬼畜皇子と。


 今回も、入学できる年だから、という理由だけで、この学園に放り込まれた。


 とは言え、学園なんて、通常の平民が入れる場所ではないので、とても幸運なことなのだ。

 そもそも、勉強をすると言うことは、それぞれの家庭で親から、仕事をしながら教えてもらうものなのだ。それ以上の勉強をしたい者がこの16から18歳まで学園で学ぶと言うシステムなのだ。

 だからこそ、お金のない平民は、ほとんど学園へ通わない。


 と言う訳で、普段では経験ができない平民の私は、この状況を楽しむことにした。



 そんなこんな、一人で一喜一憂しながら考えていたら、教室に一人の男性が入ってきた。担任の先生のようだ。


 教室には言って来るなり、威圧的に挨拶をし始めた。


「私は、エリック・スタンフィールドだ。このクラスの担任となる。今日は、自己紹介で解散とする。では、自己紹介を始めよう。理事長はあんなことを言っていたが、貴族と平民は、れっきとした格差がある。それを努々(ゆめゆめ)忘れるな」


 高揚した気分が一気に落ちた。


 待ちなさいよ、それ。違うでしょう? その対応。

 そんな威圧的に、差別を容認するとは。この学園の評判を落とすということが、分からないというの、この担任。


「自己紹介は、名前、出身、後は適当に言いたいことがあれば言え。いいな!」


 威圧的な態度。いやとは言えない雰囲気。面白くない。


「では、左側前から、自己紹介をしていけ」


 何様よ、あの担任。ああいうのって、権力に弱いのよねぇ。このクラスで、自分より権力が強い生徒がいたら、媚びを売る人間。要注意人物・・・。




 ・・・ええと、ミルフィー・セリーヌ、と。

 私はと言えば、自己紹介した人の特徴を紙に書き写していた。何しろ、座席表なんていう物はなく、一回の自己紹介で、名前は覚えられない。そして、仕事の一貫として、名前を覚えることは、必須だと思えるのだ。


「では次、」


 あっ、私の番だ。


「私の名前は、ミイナ・ルービックです。特技は、人の観察です。よろし、く、お、願い、し、ま、す・・・」


 そこであることに気付く。その事に気をとらわれて、自己紹介がそぞろになる。

 最低限、言いたいことを言って椅子に座る。


 え? 魔素の状態が、他と違う? いつから? いや、どこから?

 出所は、2人いる。まだ自己紹介していない2人。2人とも平民?・・・ううん、違う、格好こそ平民の姿をしているけど2人とも、魔素は貴族の系譜だわ。


 体内には、魔素と呼ばれるものがある。魔素を紐解けば、誰がどの系譜を持っているかわかる。

 系譜までは、さすがにまだ分からない。


 さらにわからないのは、2人とも、魔力が見つからないこと。2人とも魔力を隠している?

 いや、1人は隠している。でも、もう1人は、ない?


「次」


 魔力なしの男は、現在この帝国に1人しかいない。


「サク・ムーン。ムーン公爵家の第一子。実家からは、半分勘当されているから、平民と同じ扱いで特に問題ない。それでも態々ムーン公爵家の名前を出した理由は、一つ。愉快犯で平民の格好をした貴族連中が、そこかしこでいるので気をつけるように忠告するため。以上」



 ・・・とんでもない自己紹介だった。


 だけど私は、それどころではなかった。もう一人の、情報をうまく引き出そうとしていた。


 もう一人の情報もうまくつかめれば・・・

 っ、掴まえた!! よ、し!? 違う、掴まえさせられた。え? 私の魔流、反対に分析された!?

 ついでに、情報を押しつけられた!


 魔流と言うのは、魔力の流れ。魔力の流れを分析すれば、その人の、経歴がわかる。


「・・・つ、次。ラストだ」


 担任は、サクの自己紹介に一瞬唖然となったようだが、気を取りなしたようだ。


「ぼ、僕の名前は、エ、エイチ・ヤ、ヤイバと言います。よ、よろしくお願い、・・・」


 明らかに、弱々しい平民の姿に担任は、興味を削がれたようだ。

 先程のサク・ムーンの自己紹介は、担任の中には、衝撃的すぎて無かった事になっているようだ。


「ああ、はいはい。エイチ・ヤイバね。よろしく、よろしく」


 最後の『します』を、言わせないまま、担任は、適当な相づちを打って自己紹介を終わらせてしまった。


 しかし私は、かわいそうとか、そんなこと思う余裕なんてなかった。

 それどころではない。先ほど無理矢理掴まされた情報が衝撃的すぎて、現実に戻れていなかった。


 え? 嘘!! 嘘でしょう!? 嘘だって誰か言って!?


 当の本人、エイチ・ヤイバは、座るときに、こちらを見て、にやりと笑った。


 いやぁ~っ、あの、鬼畜皇子と一緒のクラスなんて、・・・どんな無理難題が降りかかるのか、想像するだけで恐ろしい!!


 そう、エイチ・ヤイバの正体は、第5皇子こと、エイチ・アイリッシュ。別名、鬼畜皇子。



 私が彼の自己紹介中、魔流によって流れてきた情報は、コレだった。



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