話し相手ができました
仕方ない。私が話を進めよう。そうでないとこのまま沈黙が続いてしまう。それだけは避けたい。
「ティアね、ずっと寂しかったの。一人ぼっちなんだもん。…ねぇ、おにぃちゃんがティアのお話し相手になってよ!」
この男に死因を知りたいとか言うと、きっと即席で作った嘘の話をするだろう。こいつはそういう男だと私の中のレティアラが言っている。無実のレティアラを処刑し、別の女に乗り換えるような人がそんなに上手く話を作れるかは分からないけどね。
「貴様は私の事が分からないのか…?ふむ、………………いいだろう。」
あれ?やけにあっさり引き受けるじゃない。この男の事だから、なにか企んでるんだろうね。きっと適当に話を聞き流して、適当に成仏してもらおうとか考えてる事だろう。セコい男。王子なのにセコいって逆にすごいよね。
「じゃあ、おにぃちゃんのお名前教えて?」
「私の名前は…ヴィクトール…。そう…ただのヴィクトールだ…。」
こ・い・つ。自分が王族だって事隠しやがった。思い出されると困るからってさ…。仕方ない。私が代わりに説明してあげよう。
王子の名前はヴィクトール・フォン・アンハルト。この国の第一王子であり、次期国王である。幼い頃からお前は王になるのだと聞かされ、それは厳しく育てられた。そのせいで他人に興味のない冷徹な王子になってしまう。だから私という婚約者も受け入れたのだろう。けど、ヴィクトールは学園でリアナという、それはそれは可愛く、か弱い女の子に出会ってしまう。平民であるリアナの自分の王子と言う身分を気にしない態度にヴィクトールは一目惚れ。リアナがレティアラにいじめられたと嘘をつけば、それを信じこみ、処刑にまで持っていくバカ王子になってしまう。
考えたら、すごいよね。冷徹王子だったのに恋をした途端にバカ王子になるんだよ。恋のパワーすご……。
「ヴィクトールおにぃちゃん…。よろしくね。ティアの事はティアって呼んでね。」
私は心を押し殺して天真爛漫な女の子を演じる。こういう女の子の方がヴィクトールは好きらしい。レティアラはありのままでいれば良かった。ただそれだけなんだよね。
「……あぁ…。」
ヴィクトールは苦虫を噛み潰したような顔をしている。そりゃあそうか、自分が処刑した元婚約者に邪気のない笑顔でおにぃちゃんと呼ばれるんだ。複雑だろう。
「……私はもう行かなければならない。」
ヴィクトールはこの状況に耐えきれなくなったようだ。適当に言い訳をして出ていくつもりだろう。まぁ、今日の所は良いよ。でもこれからこいつがここに来るという保証はない。釘は刺しておいた方がいいだろう。
「じゃあバイバイだね。…また来てね?来ないと…ふふっ」
最後はクスッと笑っておく。するとヴィクトールの顔が少し青くなる。
「あぁ…それではな…。」
そう言ってヴィクトールは部屋から出ていった。どうするつもりなんだろ。まぁ、きっとまた来るでしょ。
でも私にはひとつの疑問があった。どうしてヴィクトールは私のこの部屋をリアナに渡そうとしたんだ?部屋なんてこの王宮には腐るほどある。わざわざ処刑した人間の部屋を恋人に渡す意味はあるのか…?
もしかして…リアナがそれを望んだ…?
……………………いや、そんな訳無いか。流石にそこまではしないだろう。
ヴィクトールが帰って、私はまたぽつんとぼっちだ。そして考える。とりあえず私は他人に見えるらしい。これはでかいぞ。見えるって事は交渉も出来るし、復讐もしやすい。…………待てよ、これって全員に見えるのか?見える人と見えない人の区別があるのかもしれない。…よし、また検証しよう。
うーん、レティアラの日記を見る限り、心残りはヴィクトールの事、そしてもうひとつありそうだ。そう、レティアラの兄弟である。日記の中には何回も兄と弟の名前が出てきた。レティアラの家は兄弟仲は良かったようだ。私が処刑された事で悲しんでないか、辛い思いをしてないか気になるのだろう。元気にしてるかな…
「アロイスお兄様…。ノア……。」